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 在庫流動管理 [基礎編 その1] [第2版] 抄録

  はじめに;サプライチェーン・マネジメントにかかわるみなさまへ
  序章 「在庫管理体系」 見直しのときが来た
  第1章 在庫管理の3要素;需要・在庫・補充
  第2章 在庫の流れ
  第3章 「在庫流動モデル」を分布形状でとらえる
  第4章 「在庫流動モデル」をベースにした在庫管理の仕組み
  第5章 {補充在庫}の平均と分散の算出;数理モデルで「適正在庫」を求めるく
  第6章 エクセル合成分布で適正在庫を求める
  第7章 シミュレーション・ソフトで確認
  第8章 [在庫流動管理 基礎編その1] まとめ

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はじめに;サプライチェーン・マネジメントにかかわるみなさまへ

本書はサプライチェーン・マネジメントにかかわるみなさまが抱える問題に対する解決の方向を示すことを目指しております。

サプライチェーン・マネジメントとは、モノ・サービスが、材料・資材の調達、生産、物流、販売を通して最終消費者まで、よどみなく流れるように再構築し、キャッシュフローの最大化を図る全体最適化のマネジメント、とでもいうのでしょうか。だとしますと、世の中の企業の多くが何らかの形でサプライチェーン・マネジメントにかかわっていることになります。そして企業で働くわれわれだけではなく、サプライチェーンを流れてくるモノ、サービスを受ける消費者もサプライチェーン・マネジメントにかかわっていることになります。

企業活動のグローバル化、メガコンペティション、製品寿命の短縮化など企業をめぐる環境要因はますます多様化し、錯綜しています。IT技術により需要動向の変化に対応する能力も格段に向上しておりますが、現場で働くわれわれの目から見れば、モノ、情報の流れは混乱の度を増しているのではないか、と映ります。来る日も来る日も発生する問題は改善されることなく放置され、次の混乱を引き起こす。満を持して導入したITシステムも、改善するどころか新たな問題を引き起こす。混乱が鎮まる気配はありません。

サプライチェーン・マネジメントに関する問題が一向に改善されないのは、なぜでしょうか?

あたりまえですが、“原因“に手が打たれていないからです。

では、“原因”とは、なんでしょうか?

本書の第一の目的は、サプライチェーン・マネジメントに関連する混乱の“元を正す”ことです。

サプライチェーンの基本ユニットは、“在庫を介した需要と供給の連結機能”です。この機能は“在庫管理”の基本ユニットでもあります。つまり、“在庫管理の機能”はあらゆるサプライチェーンを構成する共通メカニズムとなっています。

サプライチェーン・マネジメントの問題を改善するためには、“元(在庫管理の機能)を正す(正しく理解する)”ことが、避けては通れない、最も重要なことです。“元を正す”ことができれば、解決策はみえてきます。

“在庫管理の機能を正しく理解する”ことを1冊の書にまとめることは困難です。本書を、“基礎編その1”として、その後、何冊かに分けてまとめていきたいと思います。

序章 「在庫管理体系」 見直しのときが来た

今始まったことではありませんが、在庫管理関連の書物を読んだり、インターネットで関連情報を探したりしているとき、“なんか、変だな”という記事にお目にかかります。著者や専門家とおぼしき方々に質問してみるのですが、納得できる説明はほとんどありません。

“変だな”という事例を羅列すればきりがありませんが、ひとつだけ挙げておけば、例えば、小売店での売上数量。商品Aは、昨日は5個、今日は8個、、先週は45個、今週は30個、、とある期間で売れた数量で捉えます。売上数量は“ある期間の客数”と“客1人当りの買上数”とで構成されておりますが、在庫管理で「適正在庫」を求めるときの計算式に、この二つの言葉やそれらを表す記号をみることは、まったくと言っていいほど、ありません。

客数/日の平均が10人、買上数/客の平均が5個のときと、客数/日の平均が5人、買上数/客の平均が10のときとで売上数量の平均はどちらの場合も50個で同じ。では“バラツキ”(分散、標準偏差、、)も同じなのか。同じ場合もあるかもしれないが、一般的には異なるのではないか。「適正在庫」を算出するとき“バラツキ”は需要な要素です。昨日も50個、今日も50個、、と売上数量だけを捉える現行の在庫管理に“致命的な欠陥”があるのではないか、と危惧するわけです。

客数も買上数/客も取引記録にすべてあります。あらためてデータを採る必要はありません。しかし、それらのデータは売上数量としてまるめられ、見えなくなっています。

需要の多様化、IT技術の進歩、ネット販売の拡大、そして予期せぬ新型コロナの蔓延、、と市場環境は激しく変化をし続けております。一方、現状の在庫管理の枠組みは百数十年前から始まった大量生産の発展過程で形作られたものです。現行在庫管理の論理的枠組みが様々なところで齟齬を起こしても不思議ではありません。

今、何をやらなければならないか。論を待つまでもなく、現行在庫管理の体系を基本から見直すことです。

“言うは易く行うは難し”

在庫管理の現状をつぶさに観れば、需要がトリガーとなり、出荷→補充発注→発注残→入庫→在庫と、状態循環する在庫流動のメカニズムがみえてきます。これを、「在庫流動モデル」として標準化し、そこに管理技術を融合させると、あらゆるサプライチェーンに適用可能な、普遍的な在庫管理の枠組みができあがります。この枠組みを「在庫流動管理」と呼ぶことにします。

「在庫流動管理」は、数理モデル、統計論、確率分布形状、離散系シミュレーションソフト、エクセルなどを多面的に駆使し、整合性を確認して構築された管理体系です。現行の在庫管理と比べ、基本的論理性は飛躍的に向上しました。本書が、論理的な説明に重きを置いた理由はそこにあります。この論理性の高さは、現行在庫管理の弱点をわかりやすく説明するだけではなく、今後さらに進化するであろうIT技術に、柔軟に対応するための最も重要な要素であろうと考えております。そしてサプライチェーンを構成するネットワークの共通基盤として、重要な役割を担うのではないかと期待しているところです。

第1章 在庫管理の3要素;需要・在庫・補充

1・1 在庫管理は日常生活のインフラ

これから、在庫管理についてお話してまいります。在庫管理といいますと、こむずかしい専門職というイメージがあるかもしれませんが、私たちの身の回りではよく見かけます。小売店に並ぶ商品はすべて在庫管理の対象です。家庭では、トイレットペーパがなくなりかけると買い足します。これも在庫管理。日常生活の一部になっております。

一方、在庫管理は経済活動の中心的な物流、商流、情報の流れに深くかかわり、世界の経済活動を支える重要な管理機能のひとつです。その良し悪しは、企業の競争力を左右するばかりではなく、われわれの日常生活の質に直接影響を及ぼすことになります。

在庫管理は、人間の思惑が絡んではおりますが、根底にある基本的なメカニズムは、需要がトリガーとなり、商品が流動する物理現象だ、ととらえると理解しやすいと思います。現行在庫管理に関するさまざまな問題の大部分は、この物理現象を正しく捉えられていないことに起因しているのではないか、と思われます。

本書の狙いは、在庫管理の基本的なメカニズムの解明を行い、それに基づいた在庫管理論を再構築することです。新たな在庫管理論が、現在の在庫管理が抱える様々な問題をより基本的且つ、普遍的に解決できることを目指して、、。

1・2 在庫管理の基本要素

日常生活の中で、身近でみることができる在庫管理。具体的な例で考えてみましょう。

小売店があります。ある商品に着目します。500mlのボトル茶にしましょうか。客が来て1本のボトル茶を買いました。約2時間後、次の客が来てボトル茶を3本買いました。3番目の客が来たのはそれから数十分後、2本のボトル茶を買って行きました。

客が来る時間間隔はバラバラ、また、1本買う客もいれば、2本、3本買う客もいて、1人当たりの買上本数もバラバラです。

商品棚には何本かの在庫があります。客が買うごとに在庫は減っていきますので、欠品しないように在庫を補充しなければなりません。一方、商品棚のスペースは限られていますので、無制限に在庫を置くことはできません。商品棚に置くボトル茶の本数は、少なからず多からず、適量を維持したいところです。いつ、何本補充しなければならないのか、在庫管理者の腕のみせどころです。在庫管理の基本構造を図1-1のように描いてみました。

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図1-1 在庫管理の基本構造

需要は客のニーズで発生します。客が望む商品を商品棚(在庫)から取り上げ、購入することでニーズを満たします。在庫が減った分は供給業者へ発注し、補充します。このように商品は、需要、在庫、補充の3つの要素に関連して川上から川下へ流れます。商品が在庫を介して流れる在庫管理の基本的メカニズムを需要、在庫、補充の3つの切り口から、解きほぐしていきたいと思います。

第8章 [在庫流動管理 基礎編その1] まとめ

(1)「在庫流動モデル」の前提条件

小売店で販売されるボトル茶の流れに注目し、サプライチェーンを流れる在庫の動きの原型を「在庫流動モデル」としてモデル化しました。モデル化するために設定した前提条件は次の通りです。

u (受注件数/単位時間)と(数量/件)を識別して需要を捉える
u ある期間(1カ月とか、、)、需要の母集団は変わらない
u 予め設定した受注件数ごとに、その間の受注数量を補充発注する
u 在庫循環に必要な在庫は「初期在庫」として準備しておく

(2)「在庫流動方程式」

「在庫流動モデル」は、次の「在庫流動方程式」としてまとめることができます。

[初期在庫]={補充在庫}+((実在庫))
 ={発注量}+{需要/納入LT}+((実在庫))
 ={発注量}+{(数量/件)*(件数/納入LT)}+((実在庫))
 =[流動在庫]

 [・・] ;定数、(・・) ;確率変数、{・・} ;合成確率変数、⦅・・⦆;従属確率変数

(3)「適正在庫」の求め方

「在庫流動方程式」を解き、「適正在庫」を求める方法として、次の2つの方法を提案します。

“分布形状アプローチ”

(受注件数/単位時間)と(数量/件)の生データからエクセル表で{補充在庫}の“エクセル合成分布”を作成し、その分布の累積確率カーブからサービス率に相当する「適正在庫」を求める。手順の概略を図8-1に例示します。

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図8-1 需要生データから{補充在庫}分布を計算し、適正在庫を求める概略手順

“数理アプローチ”

(受注件数/単位時間)と(数量/件)それぞれの平均と分散から、「在庫流動モデル」のメカニズムに沿って{補充在庫}の平均と分散を数理計算で求める。最も近い既知の確率分布(候補として、正規分布やガンマ分布)からサービス率に相当する「適正在庫」を求める。定件発注の場合の数理式は次のようになります。

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数理アプローチの手順の概要を図8-2に示します。

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図8-2 件数/集計時間、および数量/件数の平均と分散から{補充在庫}の平均と分散を計算し、既知確率分布(正規分布やガンマ分布)に近似するとして適正在庫を計算する数理手順

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