現在の生産管理・工場管理の問題として「ERPや生産スケジューラが動かない」とIVI理事長の西岡靖之氏は指摘します。この問題をそのままにしてDXを乗り切れるのか、という疑問が湧いてきます。西岡氏は「日本の強みである“現場力”をスマートシンキングで“つなぐ”」ことで乗り切れる、と期待しているようです。
IVIが設立されたのが2015年6月。もう7年以上経過しました(2022年10月現在)。「スマートシンキングで進める工場変革」の巻末にある資料をみますと、2015年~2020年の業務シナリオ実証テーマは合計120件。その成果についての説明はありませんが、西岡氏の説明(2022年1月10日のメール)では、
ERPや生産スケジューラが動かないという問題は、複合的でありそれぞれの状況に応じていろいろな課題があるとおもいますので、そう簡単に解決できるとはおもっていませんが、スマートシンキングの手法がそのひとつの助けになればとおもいます。いずれにしてもこれからの取り組みですので、まだこれといった成果があるというわけではありません。
7年以上経過しても「これといった成果はなし」。
テーマをみれば、各企業が抱える個別テーマが多く、「日本の強みである“現場力”をスマートシンキングで“つなぐ”」ことに関連したテーマはちらほら。「ERPやスケジューラが動かない」という問題にチャレンジするテーマは見当りません。成果が出るわけはありません。
成果らしきことといえば、2021年12月に、西岡氏が出版した書(「スマートシンキングで進める工場変革」)ぐらいかな。中身のポイントは3つぐらいあって、
- 「ERPやスケジューラが動かない」という問題、
- スマートシンキングで“つなぐ”という手法、
- 120件の具体的テーマ。
これらの間に“つながり”がほとんどみあたらない。チグハグというか、バラバラというか、まとまりのない感じがします。
IVIって、Websiteをみると、広報活動は活発なようです。書の出版も広報活動の一環?。でも、裏目に出ているんじゃないでしょうか。
これから5年後、10年後、、IVIから何らかの成果が出る可能性は限りなく“ゼロ”、でしょうね。何年たっても、、、何も出てこないでしょう。
なんでこんな組織が平然と存在しているのか、の方が不思議なんですが、その背後に「日本の製造業が危機的状態に陥った」病根が隠されているように思います。
このBlogでも関連する事象をいくつか取り上げました。「生産スケジューラが動かない」って言ってんのに、AsprovaやFlexscheなどのスケジューラベンダーは、見込生産、受注生産なんでもゴザレ、秒単位で最適スケジュールを組めます、リスケジュールで変動に即座に対応できます、、、と万能ぶりを。これって、虚偽広告じゃないでしょうか。
薬だったら、、大問題になりますよ。薬事法違反とか、、で。
Asprovaの会長、高橋邦芳氏は「Asprova解体新書」なんていう本を出して、拡販に一生懸命です。この書の13ページに、こんな説明があります。
米国の大学生向けの教科書的な本は、「生産スケジューリングは絶対に無理なのでやめるように」と明言している。その理由として、マスターデータの作成と維持が困難であることを上げている。ゴールドラットが挫折したのも、マスターデータが理由だったのだろうか。マスターデータとはそんなに怖いものなのか。米国はその後、生産スケジューラの失敗の後遺症から立ち直っていない。しかし、現在のテクノロジーなら可能なのかもしれない。
「スケジューラが動かない」のはマスターデータが原因だ。我が社ならその問題を解決できるのだ、といいたいのでしょうか。
米国の生産スケジューラベンダーは2000年代後半(リーマンショック頃)には、そのほとんどが姿を消しましたが、それを逆手に取った、きわどい自社宣伝。マスターデータの作成・維持困難を理由に挙げて、我が社なら解決できるとほのめかす。背後にある根源的な原因には気が付いていないようです。米国が生産スケジューラ失敗の後遺症から立ち直っていない、のではなく、Asprovaが生産ラインの基本特性を正しく理解していないだけ。もしも、生産スケジューラが動かない原因をわかっていてAsprovaの万能ぶりを宣伝しているとしたら、虚偽広告となりますからね。知らないということで悪者にならずに済んでいる、、。
Flexscheの創業者 浦野幹夫氏も、メールで意見交換しましたが、理解している様子はありませんでした。
生産システム・業務改善コンサルタント、本間峰一氏の「製造時間でなく待ち時間を短縮しよう」というコラム。生産リードタイムは製造時間が20%、滞留時間(待ち時間)が80%、だから生産リードタイムを短縮するには滞留時間を短くするのが効果的、という話。私も同感でしたので、どのようにして滞留時間を短くするのか、聞いてみました。
詳細は、下記の私のBlogを参照ください。
本間氏の改善手法は先ず、リードタイム分析を行い、異常な滞留時間の原因を突き止めるんだそうで。原因の多くは、
- 実績データの入力漏れやミスが放置されていた
- 別のオーダ番号の伝票を先に処理していた
- 納期に余裕のある製造指示書が放置され忘れられていた
- ・・・・・・詳細は、こちら。
と、人為的ミスが大部分。管理レベルが低いからだ、と。異常値がなくなったら待ち時間の平均を下げる対策に進む、という手順とのこと。
一般的な改善手順としてはいいんですが、こと、待ち時間に対しては、このアプローチ、まったく効果なし。彼も待ち時間のメカニズムが理解できていないために、効果の出ない方法で顧客企業の指導を行っているんですね。
そういえば、ずいぶん前(2014年7月)のことですが、本間峰一氏が代表幹事を務める東京都中小企業診断士協会、中央支部、生産革新フォーラム で話をさせていただいたことがあります。私が伝えたかったことは生産ラインの待ち時間に関する特性でした。
参加者の反応は本間峰一氏も含めて“イマイチ”でした。が、おひとり、理解していただけたかな、という方がおりました。佐藤知一氏です。彼は「革新的生産スケジューリング入門」など多数の著書があります。
理解していただけたかなと感じたのは、数日後にアップされた 稼働率100%をねらってはいけない と題する彼のBlogでした。「待ち行列理論」を持ち出して、バラツキが避けられない生産環境では、稼働率を高くすると仕掛が増える、と解説。彼の情報発信力に期待して生産ラインの待ち時間のメカニズムに対する認識が広まれば、と願いつつ、、。
その後、彼の発信する情報を時々チェックしておりましたが、期待した待ち時間に関しての発信はありませんでした。どんな様子かと思い、2020年2月ごろ、メールで意見交換してみました。かみ合わないところがありました。象徴的な一節は、
- 生産スケジューラは需要変動による待ち行列の発生を予測できないから、使えない
- 生産スケジューラは固定時間しか扱えないから、作業時間が変動する現場には使えないというご主張なら、いずれも反証がありますので同意しかねます。
どんな反証をするのか、興味はあったのですが、彼の思考の間違い箇所がわかったので意見交換はおしまいにしました。
佐藤知一氏の思い違いとはどこにあるか。メールの中で、彼はバラツキがあっても、実用上は使えると再三主張しました。多分、彼の仕事はプロジェクト管理が多いんでしょう。その経験で裏打ちされたことなので、「反証」に自信をもっていたのだろうと察します。
これが落とし穴なんですね。プロジェクトと生産ラインでは待ち時間発生のメカニズムがまったく異なるんです。
詳しくは下記のBlogをご覧ください。
簡単に言いますと、
プロジェクト管理では、待ち時間も含めて、バラツキ(分散)を統計理論で予測できるが、生産ラインでは、待ち時間の平均はある程度計算できても、分散を予測する数理モデルがみつかっていない、
ということです。
彼の著した「革新的生産スケジューリング入門」にもプロジェクトと生産ラインの待ち時間の違いについての言及はありません。
マイクロソフトがプロジェクト管理ソフトは出していますが、生産スケジューラは出していない理由は、、おわかりですよね。ごく限られた使い道しかないから、、、。
まとめますと、
- 生産スケジューラベンダーは、スケジューラは万能だと主張する
- 現場改善コンサルタントは、異常に長い待ち時間の原因を人為的ミスだとする
- 生産ラインもプロジェクトと同じように管理できると考える
- 現場力をつなげてDXを乗り切ろうとする
これらはどれも大間違いです。多方面に深刻な悪影響を及ぼしている重大な過失です。生産スケジューラベンダー、生産システム・改善コンサルタント、オピニオンリーダそして大学教授に産業界・学会、、が歩調を合わせて間違った道を歩んでいます。さらに悲劇的なことは、これが問題であることを指摘する声が聞こえないことです。
お気付きの方がおりましたら、ぜひ、声を上げ、警鐘を乱打してください。日本の製造業救済のために。
原因は、ひとつ。生産ラインでの“待ち時間の特性”を理解していないこと。欧米では、専門家の間で、20年も前に知られていたことです。それに気が付けば「危機的状態にある日本の製造業」を救うきっかけをつかめるかもしれません。