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No.47 かんばん方式による受注生産

A社のある方から質問を受けました。
「かんばん方式による受注生産をやってるんだけど、なかなかうまくいかない。どうしたらいいか」
少し、はなしを聞いてみると、「かんばんが来て(納入指示があって)、翌日納入しなければならないのだが、間に合わないことが多い」というのです。どこかで聞いたことがあるような話だな、、と思いつつ耳を傾けておりました。A社での部品の生産リードタイムは実働5日~6日で、その月の納入予定量の内示は前月末あるが、あまり精度はよくないとのこと。ちなみに、納入品の基本仕様は納入先の指定で、他社には売れない品物。

実は、前々から、「かんばん方式による受注生産」に対して、少々違和感をおぼえておりました。ただぼんやり、聞き流すだけでしたが、、。この際、きちんとさせようと思います。

直観的な違和感は、「かんばん方式って、受注生産に使えるの?」、というか。かんばん、って、見込生産で使うんじゃないの? いや、見込生産じゃないと使えないんじゃないの? 受注生産にどうやって使うんだろう? 、、、 てな感じですね。

何か、新しい「かんばん方式」でも開発されたのかな、、。探してみてもそんな記事はないし。受注生産についても調べてみようか、、。先ずは広辞苑。 「顧客から注文を受けるごとに、その仕様や数量に応じて生産すること」
ガッテン。

生産管理用語で、ネット情報を集めたら繰返受注生産と個別受注生産とがあって、まとめると次のような感じです。

繰返受注生産;
繰返受注生産とは、同じ製品仕様に基づいて顧客からの注文を受けて、製造する生産形態のこと。製品仕様の図面は、その製品を初めて受注する際に得意先から提供される場合と、得意先からの依頼により請負元が設計する場合がある。また、2回目以降の受注時には、保管してある図面を基に製造する。

個別受注生産
個別受注生産とは、受注ごとの個別の仕様に基づいて製造する生産形態のこと。多品種少量生産形態の場合や試作品などを製造する場合に多い。製品仕様は受注ごとに異なるため、随時得意先に図面の提供を依頼したり、自社で図面を設計したりすることになる。

ザットみると、「受注」と「仕様」が共通項のようです。広辞苑では直接言及してませんが、繰返受注生産と個別受注生産では、どうやら、仕様は発注側が決めるようです。ある本にははっきりと、「受注生産とは、顧客が定めた仕様の製品を生産者が生産する形態」と書いてありました。

見込生産にしか使えないはずの「かんばん方式」と受注生産がオーバーラップしている部分はどこにあるのかな。発注側(顧客)の定めた仕様なので「受注生産」、同じ仕様で生産を繰り返すので「繰返受注生産」。仕様が分かっていれば前もってつくることができる。これは見込生産。そうですね。繰返受注生産は受注生産と見込生産の要素が重なっているようにみえます。

現実的には、発注側のマインドとしては「内示も出しているし、仕様が決まってんだから、前もってつくれるでしょ」。受注側は、「生産リードタイム分、前もって納入日を決めてもらわないと困るんです。御社専用の部品ですから」。というようなことなんでしょうね。つまり、発注側は見込生産、受注側は受注生産だと考えている。

問題を整理しますと、「繰返受注生産は、受注生産か見込生産か?」という設問に置き換えることができます。受注生産だとする根拠は「納入先が仕様を決めている」から。一方、見込生産ではないかとする根拠は、「仕様が決まっていて、前もって、見込で生産開始できる」から。

受注生産か見込生産か、と、顧客仕様か自社仕様かの関係を整理しましょう。顧客仕様→受注生産 であれば、自社仕様→見込生産、となりますね。先ず、自社仕様→見込生産 についてチェックしてみます。例えば、年に数台しか売れない、いつ売れるかわからない自社仕様の製品は、見込生産するでしょうか、受注生産するでしょうか? これは受注生産しますよね。生産数量が少なく、いつ売れるかわからないような製品は、受注生産を行うのが一般的ですね。異論はないと思います。これって、自社仕様→見込生産 ではなくて、自社仕様でも受注生産ということになります。

では、顧客仕様→受注生産 の関係についてはどうでしょうか。「特定の顧客向け製品の場合が多いんだから、こういうのはつくりだめできないし、やっぱり、受注生産じゃないの、、」。

そうですね。ここが一番の迷いどころですね。鍵は生産側にあるようです。自社仕様→見込生産 の関係を崩しているのは主に、在庫保持のリスクですかね。つくっても売れなかったら損しますので。つまり、生産側の都合で受注生産か見込生産かが決まるのではないか。顧客仕様→受注生産 の場合、生産側の都合とはなんでしょうか。生産リードタイム分、前もって生産を始めないと、納入指定日には間に合わない。顧客リードタイムが1~2日で、生産リードタイムが5~6日であれば、受注生産はできない。受注生産できないのに受注生産で対応している。だから納入指示にうまく対応できない。1日前の納入指示に応えるためには、見込生産をするしかない。これが生産側の事情ですね。

生産管理の基本的な部分に言及しておきたいと思います。受注生産と見込生産では、管理の方法は、全く別物というぐらい、異なります。生産を開始するときに、どの製品を何個、いつまでに誰が買うかが決まっているのが受注生産。ここで生産管理上重要なのが、いつまでに、という時間管理。一方、誰がいつ買うか決まっていないものを生産するのが見込生産。見込生産品は、通常、在庫されます。ですから見込生産では、時間管理よりは在庫管理が主要な管理となります。時間管理と在庫管理という違いは大きいと思います。

受注生産とか見込生産とか、**生産といっているわけですから、生産側の事情で生産方法を区別するのは、自然の流れではないでしょうか。受注生産と見込生産の区別を確認しておきます。

◆ 受注生産とは受注確定後に生産活動を開始する生産形態。
◆ 見込生産とは受注確定前に生産活動を開始する生産形態。

これだけです。簡単でしょ。顧客仕様か自社仕様かは、関係なし、ということです。これで受注生産だ、見込生産だ、という議論はかなりスッキリするんじゃないかと思います。スッキリすることで、生産管理のもやもやした問題もわかりやすくなると思います。

生産工場では見込生産と受注生産が混在しているのが普通です。どこからどこまでが受注生産で、どこからどこまでが見込生産という区分は、生産管理上、非常に需要です。重要な理由は、すでに触れましたように、管理方法がまったくといっていいほど異なるからです。ですから、受注生産か見込生産かは明確に区分しておかなければならないわけです。

動的生産管理(DPM)では受注生産はT-Unit(Time Based Control Unit)、見込生産はS-Unit(Stock Based Control Unit)という管理ユニットを使うことになります。詳しくは、このWebsiteの「受注生産」と「見込生産」をご覧いただきたいと思います。

前述した◆◆の条件を生産ラインに適用しますと、
生産リードタイム < 顧客リードタイム ―――受注生産
生産リードタイム > 顧客リードタイム ―――見込生産
となります。その1例を図1に示します。

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図1 見込生産と受注生産の区分の1例

補足しておきますが、生産リードタイムは負荷率によって大きく変わります。生産能力を上回る需要があれば、通常の生産リードタイムの数倍になることも珍しくありません。これは受注生産でも見込生産でも起こります。ですから、生産リードタイムと顧客リードタイムの関係は生産能力と需要の関係をみて判断することになります。

受注生産と見込生産の区分は、生産管理上、非常に重要であるにもかかわらず、そう認識されていないのはなぜなんでしょうね。現代生産管理は、
「生産管理の基本は組織をつくり、生産計画を立案、それに従って生産活動を統制する」
という立場をとっています。見込生産も受注生産も生産計画基準です。受注生産も見込生産も同じように、工程(生産ユニット、生産ライン、、)ごとにいつ、何を、いくつつくるかが日程計画などで指図されます。

生産計画による生産管理は、生産計画が固定されていること、平準化されていること、および処理時間などの変動が小さい(トヨタ生産方式では3%以内など)ことなどの条件が揃えばうまく機能します。ですから、現在の生産管理を否定しているわけではありません。管理体系としてまとまっており、生産管理の質的向上に多いに貢献していることは疑いの余地のないところです。

しかしそのような条件が満たされる生産環境はあまり多くはなく、生産計画はコロコロ変わり、平準化などほど遠く、処理時間の変動は激しいというところが圧倒的に多いのではないでしょうか。日本の企業数の99%が中小企業だというデータからも類推できます。

後者のような環境では稼働率が80%ぐらいから急激に生産リードタイムが長くなります(正確にはフロータイムの待ち時間が長くなる。これをフロータイムの跳ね上りと呼んでおります)。これを生産計画(日程計画、スケジューリング等)で考慮することができるのでしょうか。私が知る限り、稼働率と生産リードタイムの関係を考慮した生産計画は見たことも聞いたこともありません。もっぱら稼働率を気にして、できるだけ高く計画しますので、生産リードタイムは急峻に変化する領域で生産活動を行うことになります。生産現場の混乱の原因はこんなところにもあるんじゃないでしょうか。基準が生産計画である限り、この泥沼から抜け出すことはできません。

生産ラインの特性をみれば、受注生産と見込生産の区別は、火を見るよりも明らかなのに、巷では、曖昧論が横行しているのは、不思議な感じがするぐらいです。その背景を次のようにまとめ直してみました。

[原則];(何を、いつ、いくつ買うか)顧客が決まってから生産を始めるのが受注生産、顧客が決まらない状態で生産を始めるのが見込生産。
[現実];受注生産も見込生産も、生産現場を統制する方法は生産計画(日程計画、工程計画、スケジューリング、、)であり、計画と乖離しないように生産することが生産管理上の最重要課題。受注生産、見込生産の違いはあまり認識されない。
[区別];受注生産と見込生産との生産上の区別はほとんどなく、その違いを付随する別の属性である顧客仕様か自社仕様かで見分けるようになる。
[曖昧];仕様の決定者(社)と受注生産か見込生産かの関係はない。関係のない属性で区別する結果、曖昧になる。
[原因];生産計画基準の生産管理は、生産ラインの基本特性を顧慮していない。
[混乱];変動の大きい生産環境では、生産計画と現実の乖離が大きくなり、混乱が常態化する。受注生産と見込生産に関しては、どちらがどうだ、こうだという不毛な議論が巻き起こる。
[実現性のある解決策];、、、、?

みなさまのご参考になれば幸いです。