もう、そろそろ、お目覚めになりませんか?

かつて製造大国といわれた日本の製造業。ここ30年、元気がありません。欧米と比べると、なにかが違う。紙・ハンコ文化から抜け出せず、デジタル化が遅れているっていうことで、デジタル庁をつくりました。まぁまぁ、それなりに動き出しましたが、、。で、製造業のDX(デジタル・トランスフォーメーション)はどうなんでしょうか。停滞する日本製造業復活のまたとないチャンス到来、、のはずなんですが、、。

秒単位の詳細スケジュールを組める生産スケジューラへの期待を抱き続けている日本。時間厳守に重きを置く文化的価値観の影響があるのかもしれませんが、どうも裏目に出ているようです。

専門家諸氏にAPS/生産スケジューラが動かない理由を聞いてみると、BOMの管理が悪い、資材・部材の納期管理が悪い、設備のメンテナンスが悪い、営業と生産現場のコミュニケーションが悪い・・・などなど、挙げたらきりがありません。集約すると“管理のレベルが低いから”。ここ数年で100名を超える方々と意見交換をしてきましたが、「待ち行列現象」で起きる待ち時間が原因だと指摘した専門家は皆無。

なぜ、APS/生産スケジューラが動かない理由に、現場の管理の低さだけを指摘するのか。なぜ「待ち行列現象」に言及しないのか。彼らとのコミュニケーションを振り返ってみると、時間の正確さをリスペクトする文化的背景とは別な、日本の実態が浮かび上がってきます。

私が意見交換してきた専門家諸氏とは、APS/生産スケジューラの開発・販売会社、工場改善コンサル、生産管理関係システムエンジニア、学会、大学教授・・・など。大部分の方々は泥臭い製造現場に身を置いている方ではありません。多くはIT関連の方々。つまり、製造現場を外からみている人たちです。

生産品を効率よく流すために計画(ガントチャート)をつくります。生産品目が増え、工程が複雑になると、人手でスケジュールを組むのは大変で、ITツールが必要になります。そのニーズに応えるのがAPS/生産スケジューラ。詳細なスケジュールを短時間で生成し、様々な機能が付加されて、使いがっても良くなっているようです。

今や、IT技術は社会の隅々にまで使われています。詳細なスケジュールを比較的簡単につくることができるAPS/生産スケジューラも生産性向上に大いに威力を発揮することは間違いありません。だから、APS/生産スケジューラの供給者・支援者らは自信をもって売り込み、「これを使えないのは使い方が悪いからだ」となるのは当然かもしれません。

しかし一方、製造現場では、「APS/生産スケジューラなんて使いものにならない」。

これが実態です。

APS/生産スケジューラ推進側の専門家諸氏は、なぜ、製造現場の声を聞けないのだっ?

と、誰しも思いますよね。

ここなんですよ、問題は!!!

私からみれば、APS/生産スケジューラが使いものにならないのは、

「生産現場の管理レベルが低いから」、

ではなく、

「APS/生産スケジューラ推進側の専門家諸氏の〇〇レベルが低いから」だ、

って感じですかね。

〇〇レベルって、どんなレベルだっ?

うーん、いい言葉がみつからないんですよ。

専門家諸氏は大学教授初め、関連領域の専門家。一般の人と比べたら専門知識、専門技術、、などのレベルははるかに高いことに疑いはありません。「どんなレベルが低いのだ」と開き直られれば、応えに窮してしまいます。

ということで、○○レベルの感触をつかんでいただくために、要領を得ない説明をしますので、お付き合いのほどを、、。

問題のポイントは、専門家諸氏が「APS/生産スケジューラが製造現場では使いものにならない原因」について認識しているかどうか。

“「待ち行列現象」で起きる待ち時間が原因だと指摘した専門家は皆無”と申し上げました。それを補強するエピソードをひとつ、ふたつ。

本間峰一氏とのメール交換、その一端は(Blog;生産ラインの基本特性もわからないコンサルタントが、、)をご参照ください。Blogを読んでお分かりになると思いますが、議論の中で「待ち行列現象」に言及するところはありません。ところがこの方、メール交換の最後の方で、

“待ち時間理論のことは知っています。昔音声通信ネットワークの設計をしていましたので、その時にアーランの法則を使っていました。”

と。「待ち行列理論」を仕事で使っていた方ですよ。音声通信ネットワークで起きる「待ち行列現象」が“生産ライン・ネットワークでも起きる”ということの認識がまったくない。

彼にしてこれですから、他の専門家諸氏が「待ち行列現象」を認識している可能性は低いとみていいんじゃないでしょうか。

専門家諸氏が認識していないこの物理現象って、珍しい現象ではありません。社会生活で普通にみられるごくありふれた現象です。

  • スーパーのレジに並ぶ人の列、
  • コロナワクチン接種で並ぶ人の列
  • ディズニーのアトラクションに並ぶ人の列
  • ・・・

・・・そして製造現場では、

  • 生産工程の前に並ぶオーダ(ワーク、被処理物、、)の列

待つ列ができれば、待つ時間が発生します。この待ち時間って、すごく長くなる。3時間待って診察は3分とか、話題のラーメン屋では2時間待ちとか、、。「待ち行列現象」は生産ラインの工程でも、多かれ少なかれ必ず起きるんです。

仕事が増えると工程内仕掛が急に増え、生産リードタイムは急激に長くなる、、こんなことよく経験しませんか。

ついでにエピソードをもうひとつ。

待ち時間を考慮したAPS/生産スケジューラって、ないのかなぁ~と思いながらググっていると、おもしろいBlogをみつけました。その中に“生産スケジューラの導入が90%失敗する理由」と題するBlogが3編あります。

この会社(スカイディスク;創業2013年)は生産スケジューラの開発ベンダー。 “導入が90%失敗する”という問題提起に惹かれて、、、。90%失敗は私の経験値とほぼ重なりますので、、。そして“AI生産スケジューラ”と書いてあります。AIで生産スケジュール問題を解決しようとしているのかな、と期待して、Blogを読んでみました。

問題分析はかなり詳細に行われれています。但し、90%失敗の原因追及は的外れ、なんですね。ちょっとした改良はあるようですが、決定的な“秘策”は見当らない。

メールで聞いてみました。単刀直入に「待ち行列現象による待ち時間をどのように処理していますか?」と。返ってきた応えは、イマイチ。「待ち行列現象」を理解している様子はまったくありません。念のため、「御社のスケジューラを使うと失敗率は改善しますか?」と質問してみました。返答なし。やっぱし、ただの生産スケジューラでしたっ。

エピソードを2つ、紹介しましたが。言いたかったことは、日本の専門家諸氏は、APS/生産スケジューラが使いものにならない原因が「待ち行列現象」にあることを認識していないこと、です。

これに対して、欧米ではどうか? 主な関連する出来事を羅列してみます。

  • 1980年代、生産ラインの能力はボトルネック工程の能力で決まるので、ボトルネックだけを詳細にスケジューリングすればよいとするスケジューリング・ソフトがゴールドラットによって開発される(DBR;Drum Buffer Rope)。その販促用に書いた小説「ザ・ゴール」に書いてある通り改善したら、スケジューリング・ソフトを導入した企業より高い効果が出た。スケジューリング・ソフトの有効性が否定され、開発・販売を中止。
  • 1990年、米国ノースウエスタン大学で生産ラインを物理学の視点から解析・研究するFactory PhysicsをベースにMaster of Management in Manufacturing Programがスタートした。待ち行列現象も詳細に論じられている。
  • 1993年、待ち行列理論を用いて生産ラインの確率的特性を論じたStochastic Models of Manufacturing Systems;John Buzacott他著が出版される。
  • 2000年、DBRのボトルネック・スケジューリングの原理的欠陥を避けるため、工程のスケジュールを廃止したS-DBR(Simplified DBR)をEli Schragenheimが著書Manufacturing at Warp Speedで発表。
  • 2000年後半、欧米の生産スケジューラ・ベンダーの多くが姿を消す。

まとめますと、欧米では1990年代には、詳細なスケジューリングで工程を管理することの原理的欠陥に気が付き、2000年代には大部分の生産スケジューラ・ベンダーが姿を消した、ということです。

これに対して、日本では、ほとんどの専門家諸氏がその欠陥に気付くことなく、APS/生産スケジューラ・ベンダーは姿を消すどころか、スカイドライブのように新たに参入してくる、、、この違いですよ。

レベルの差を感じるんですよ。洞察レベルの差?、分析レベルの差?、認識レベルの差かな?・・・ピタッとした言葉がみつかりません。雰囲気だけでもお察し頂ければ、、。

多分、専門家諸氏は、まだ、大量生産時代の夢の中、なのかな?

もう、そろそろ、お目覚めになりませんか? 時代はすっかり変わりました、、、。


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