米国の大学生向けの教科書的な本は、「生産スケジューリングは絶対に無理なのでやめるように」と明言している。
「Asprova解体新書」のプロローグ(13ページ)にある記述です。「教科書的な本」とはFactory Physicsではないかと思います。読んでみると、
生産スケジューラが「処理時間固定(or決定)」「処理ジョッブ固定(or決定)」を条件にしているのに対して、「処理時間のバラツキ」や「ランダムなジョブの投入」が不可避な現実の生産ラインでは、この物理的条件の違いを解消する策は存在せず、従って、「生産スケジューラは実行可能なスケジュールを生成できない」
と説明されています。「生産スケジューリングは絶対に無理なのでやめるように」の裏付けは取れました。わざわざネガティブな説明を最初に出したからには、この問題に対する“答え”みたいなものが「Asprova解体新書」に書いてあるのでは、、と微かに期待しました。
Factory Physicsが指摘する問題がどのように取り上げられているのか、それに対する対策らしきものがあるかどうか、「Asprova解体新書」のすみずみまでみてみました。が、、、何もありませんでした、、。・・・いやいや、ありましたよ。びっくりするようなことが、、、巻末(230ページ)に、
「査読を快く引き受けてくれました佐藤知一氏、本間峰一氏、勝呂隆男氏に感謝いたします」
と。「Asprova解体新書」の内容に同意してバックアップしている専門家がいるんです。
実は、ちょっと古い話ですが、こんなことがありました。
きっかけは2冊の本。一冊目は、
「革新的生産スケジューリング入門」佐藤知一氏著、2000年4月15日発行
読んだのは、2000年中頃だったでしょうか。APS(Advanced Planning & Scheduling)で盛り上がっていた頃です。APSは“(オーダがランダムに次々に飛び込んでくる)動的問題”と“(作業時間等が変動する)確率的問題”に対応するスケジューリング方法だ、というあたりに興味を持ちました。興味を持ったといっても、疑いの目でですが、、。
もう一冊は、
「“JIT生産”を卒業するための本」生産革新フォーラム編著(メンバー;佐藤知一氏、本間峰一氏他5名)、2011年12月30日発行
JITに関する本は、それまでに数え切れないほど出版されています。様々、読みました。理論に重点を置いたもの、現場のやる気を主題にしたもの、導入成功事例集的なもの、、などなど。「“JIT生産”を卒業するための本」の中身は、正直に言えば、何を言いたいのかよくわからない、という感じでした。
その頃はTOCにどっぷり、でした。TOCも突き詰めていくと、つじつまの合わないところが目立つようになってきました。
*ボトルネックだけをスケジューリングすればよいというOPTというソフトの販売をすぐにやめたのはなぜか。
*DBR(Drum Buffer Rope)からスケジューリングをしないS-DBR(Simplified-DBR)にグレードダウンしたのはなぜか。
ゴールドラット、エリーシュラーゲンハイム(S-DBRの提唱者)、オーデットコーエン(ゴールドラットスクール校長)らと話しているうちに、だんだんわかってきました。
そして、Factory Physicsを一通り読んで、“生産スケジューラ(APS)で動的問題も確率的問題も原理的に解けない”ということがわかってきました。
生産革新フォーラムというグループがあります。代表幹事が本間峰一氏、メンバーに佐藤知一氏他「“JIT生産”を卒業するための本」の共同著者がおります。その会合で、2014年7月16日、講演を行い、次のような話をしました。
*稼働率を高くすると急激に待ち時間が長くなること
*その待ち時間を挽回することはできず、工程を経るごとに累積され生産リードタイムは長くなっていくこと
固定時間で作成したスケジューリングでは、この待ち時間は計算されませんので、生産スケジューラから出力されたスケジュールと待ち時間を含むスケジュールとはかなりの差が出てきて、ほとんどの場合、“実行不可能”となる、、というような話を交えて、、。
本間峰一氏の反応は、“ほとんど理解できていない”という感じでした。しかし、佐藤知一氏の反応には手ごたえを感じました。後日、彼のBlog https://brevis.exblog.jp/22236990 でも紹介しています。
内容に違和感はありません。“待ち行列現象”はご理解いただけたと感じました。
あれから6年ほどたちました。“待ち行列現象”を生産スケジューリングではどのように捉えているのか、佐藤知一氏にメールしてみました(2020年1月)。
私が知りたかったのは、生産スケジューラで実行可能なスケジュールを生成する条件は何か、ということでした。どのようなやり取りがあったのか、彼の説明を引用(青色部分)しながらその要点を列記してみます。先ずは、こんな説明から、、
① 標準作業時間の概念も存在せず、作業時間の実績値をとる仕組みもないような管理レベルの現場に、生産スケジューラを入れる価値がないことは、ほとんど自明だと思います。
管理レベルが低い現場では生産スケジューラを入れる価値なしとのこと。管理レベルについてもう少し具体的に知りたかったので、生産スケジューラが実行可能なスケジュールを生成する“実用的な条件”は何か、と尋ねました。次のような説明です。
② 主要な工程における実作業時間と品質(不良率)が、工場の管理目的から見て受容可能な範囲の精度で、推算できること
具体性はないので、工学的な表現でお応えいただけないかと再三お願いしました。が、残念ながら、“文学的”な説明しかいただけませんでした。待ち時間を計算できるかどうかについては、次のような説明がありました。
③ 固定リードタイムで無限負荷計画のMRPは、たしかに使えませんが、現在の生産スケジューラは実作業時間のみ固定で、待ち時間は自分で計算します。
条件付きではありますが、待ち時間は計算できるとの説明です。彼の実務の説明もありました。
④ わたしの業界では、計画策定時に、作業期間が確率的に変動するようなスケジューラを、必要に応じて各社で使っています。それにより、作業のクリティカリティを評価してモニタリングの方法を決めたり、フロート(TOC風に言えばタイム・バッファー)の配置を決めたりするのです。
作業時間が変動してもスケジューラは使えますよ、という説明です。そして、
⑤ 生産スケジューラは一種のシミュレータです。
と、生産スケジューラはシミュレータとしても使えると主張しています。こんな説明もありました。
⑥ 生産スケジューラは、マネジメントのためのツールです。管理目的も受容可能性の判断も、いずれも価値判断を含むマネジメントの問題であって、純粋な技術論ではありません。
他にも、おもしろい説明がいくつかあるんですが、今回の意見交換を通して感じたことをとりあえず、私なりにまとめると次のようになります。
~~まとめ~~
「マネジメント」を“生産管理”と置き換えて、生産スケジューラと生産管理の関係について考えてみたいと思います。生産管理と言えば初めに出てくる言葉は“生産計画”。生産計画の出来不出来が生産管理のレベルを決めるとよく言われます。もっと一般的に言っても、マネジメント・サイクルの基本はPDCA。その最初がPlan、計画です。ですから、生産管理の一丁目一番地が生産計画だ、というのが現在の主流の考え方ではないかと思います。
生産計画が現場に降りてくると生産スケジュールになります。詳細な生産スケジュールを作るのが生産スケジューラ。きめ細かな生産管理をするためには生産スケジューラはなくてはならない“ツール”である、と。
「生産スケジューラは、マネジメントのためのツールです」
これは、大量生産が始まって以来発展してきた生産管理の本流の中に定着している伝統的な考え方ではないかと思います。
では、生産スケジューラとはどんな効用のあるツールなのか。生産スケジューラ・ヴェンダーのサイトを覗いてみると、生産リードタイム短縮、在庫削減、納期遵守率向上、、、見込生産にも受注生産にも対応、柔軟・迅速な計画変更、、、と万能。生産スケジューラは生産管理ではなくてはならないツールと映ります。
ところが、実際現場に導入して、うまく動かせない企業をたくさんみてきました。うまくいったという企業はわずかで、しかも部分的な導入にとどまっている例が多いように思われます。
そんな企業に対して、「管理レベルの低い企業は生産スケジューラを入れる価値がない」と斬り捨てます。「生産スケジューラをうまく使いこなせない企業は、管理レベルが低い」とも聞こえます。
ではどの程度の管理レベルであれば生産スケジューラを入れる価値がるのか、その判断基準はあいまい。行間から忖度すれば、これで判断できないのは、マネジメントのレベルが低いからだ、と言っているようです。マネジメントのレベルが充分に高ければ、
*待ち時間も計算できる
*生産スケジューラをシミュレータとして使い、最適条件で生産を管理することもできる。
*バラツキがある場合は必要なところにタイム・バッファーを入れておけばよい。
となります。まとめますと、
「ジョブの投入時間間隔がランダムで、処理時間が変動しても、マネジメントのレベルが高ければ、それらのバラツキを生産スケジューラが機能する程度に管理することができ、生産スケジューラを重要なマネジメントツールとして使うことができる。」
というのが彼の主張のようです。