「製造時間でなく待ち時間(滞留時間)を短縮しよう」と主張する本間峰一氏。工程を流れる製品の生産リードタイムの中で待ち時間は80%を占めるという。だから生産リードタイムを短縮するためには待ち時間を短くする方が効果的だ、と。で、具体的なアプローチは?
コンサルの最初の手順として最大値(異常滞留)の発生原因を分析してつぶしておく必要がある。業務改善コンサルなら当たり前のアプローチだ。
というフレーズを手掛かりに、前回、本間峰一氏の改善ロジックを概観してみました(前回のBlogをご参照ください) 「当り前のアプローチ」というなら、多くの人が納得する論理があるはずですが、それがよく見えない。裏に何か隠れているロジックがあるのでしょうか? メールから関連する説明を抜粋し、彼の改善コンサルの手法や背景をもう少し詳しくみてみましょう。
待ち時間対策がより重要だという話は沖電線の対策検討をする中ででてきました。当初の悩みはスケジューラの活用がうまくいかないことだったように思います(アスプローバはすでに導入して使っていました) そもそもなんで現場で製造順番が変わるのかという会議での疑問が発端だったように思います。
その後沖電線以外の工場でも工程リードタイム分析をするようになってどこも同じような状況だということがわかってきました。それで現在の私のコンサルでは入口で滞留時間を分析するようにしています。
コンサルの初めに滞留時間分析をすることになった経緯はわかりました。スケジューラ通りではなく現場で勝手に製造順番を入れ替えることが待ち時間が長期化する原因のひとつではないか、との思いがあるようです。そして、
私は現場は指示通りには動いていない可能性が高いという前提から現状確認に入ります。現場が勝手に製造順を入れ替えることは普通だという前提で工場を見るようにしています。
だから先に先入先出を徹底させる現場コンサルが必要だと申しあげているのです。
現場が勝手に製造順を入れ替えるのはけしからん。生産計画で指示した通り、先入先出でつくるようにさせるのがコンサルの役目だ、と彼の強い矜持が感じられます。
このような考え方は、生産管理の基本として製造業に広くいきわたっています。これを“生産計画基準”と呼んでおきます。この生産計画基準の工程管理ですが、うまく機能する企業は極限られ、多品種少量生産とか変動のある生産環境など大部分の企業ではうまくいきません。企業ごとに工夫し、独自の生産管理方法をとることになります。
ところが、ほとんどの生産改善コンサルタントはこの生産計画基準の考え方を採っています。「生産計画通り生産をしないのは製造の管理が悪いのだ」。本間峰一氏も、「現場コンサルの仕事は、現場が指示通りに動くようにすることだ」、と。
では、生産リードタイムが長くなる、ここでは工程間の待ち時間が長くなるのは、現場が指示通りに動かないことが原因なのか。例えば、「製造現場で勝手に製造順番を変える」と生産リードタイムは長くなるのか?
私の製造現場での経験から言えば、Noです。納期に余裕のあるオーダーを後回しにして、納期に遅れそうになったオーダーを優先して流す。これって、納期管理の基本。後回しにしたオーダーの生産リードタイムは確かに長くなりますが、優先して流したオーダーの生産リードタイムは短くなる。どこの生産現場でもやっていることじゃないでしょうか。
具体的例としては、
親会社の内示で生産開始したら、途中で親会社が納期変更したのでそのオーダーは現場の班長の独自判断でストップさせて別の製品の加工を先に動かした。その結果そのオーダー加工品は工程途中で半年以上止まっていたが、誰も気づかなかった。
現場班長の独自判断って、間違っていたんでしょうか? 半年以上先に納期が延びたのに当初の計画通り完成させても半年以上、在庫となるだけ。製造能力をもっと優先度の高いオーダーに振り向ける方が工場の生産性は高くなります。だからストップした。これって、正当な優先順管理じゃないでしょうか。
「製造現場で勝手に製造順番を変える」
という表現がよくありませんね。「製造現場では生産状況を監視し、納期に間に合うよう製造順番をコントロールする」ってことじゃないでしょうか。
滞留させたからといって納期遅れにはつながらないのでずっと放置されるというのが多いです。
これって、現場が納期管理を行っている証左ではないでしょうか。
現場が行う正当な納期管理も、生産計画基準では、「勝手に製造順番を変える」“悪者”となるんですね。
生産改善コンサルタントって、大部分が生産計画基準です。このような改善コンサルタントが現場に入るとどうなるか。生産リードタイムが短くなるはずもなく、現場はめちゃめちゃになりませんか? 沖電線に聞いてみたいものです。
「当り前のアプローチ」の背後にどのような論理があるのか探ってみました。見えてきたのは、生産計画基準という生産管理の規範です。現場改善コンサルタントの大部分は生産計画基準。「製造は、上で決めた生産計画に忠実に従って生産を行わなければならない」、とうそぶく。現場を上から目線で捉え、心底は「現場は指示を無視して勝手な順番でつくる」という猜疑心に満ち溢れている様子がうかがえます。
本間峰一氏とのメール交換で気になったところを、つらつらと、まとめてみます。
異常値原因
- 故意にストップさせた、伝票処理ミス、、などの“属人的なもの”である
- 状況;大企業ほどこの結果確認作業をしていないことが多く、信じられないような異常値が放置されている
- 但し、滞留させたからといって納期遅れにはつながらない
異常値対策
- 属人的な異常値の原因を洗い出してつぶすだけでもかなりの時間がかかる
- 的外れにならないように必ず改善による結果数字を確認する
- 原因の多くが属人的なものが多いので地道に皆でデータを見ながら話し合うのが筋
「当たり前のアプローチ」で待ち時間が短くなる論理的根拠は何か、とお聞きしましたところ、
- 管理レベルが十分ではないため、定量的な議論をできる状態ではない
- 異常値が大きすぎ、、平均値が使えない・・・データ処理がうまくいかない
- 的外れにならないように必ず結果数字を確認するようにしているが、それをしていない
- 異常値が放置されている
という説明でした。どうみても論理的説明にはなっていません。推測するに、本間氏が想定している論理的裏付けは「当り前のアプローチ」のそれと同じで、「当り前のアプローチ」の論理に沿って現場状況をみると、論理的な説明ができる状態ではない、ということなんでしょうか。きっと、そうなんでしょうね。
で、ルール違反やらミスやら、人間様のしでかす属人的なものが原因だ、となるわけですな。
しかし、ですよ。生産活動って、ほとんどが人間と関わっていますよね。需要・市場を形成しているのは人、何をいつまでに何個つくるかを決めるのも人、、。持ち時間の異常値の原因が属人的なものと言ったって、原因を特定していることにはなりませんね。もちろん効果も出ません。いやそれどころか、様々な混乱を引き起こします。
なんでこんなデタラメなコンサルを行うんでしょうか? いや、デタラメなコンサルを行っているのは本間峰一氏だけではありません。多くのコンサルタントも、似たり寄ったりではないかと思います。
ここに、重大な問題が隠されています。
本間峰一氏とのメール交換で驚いたことは、彼は「生産ラインの基本特性」をまったく理解していなかったことです。多数の著書があり、月刊工場管理に寄稿する日本を代表する生産管理のコンサルタントが「生産ラインの基本特性」の知識がないとは、、。それで、生産システムがらみの生産現場の問題解決って、できるの? いやいや、彼だけじゃないんです、「生産ラインの基本特性」を知らないのは。日本の生産管理関係者や現場改善コンサルタントの大部分も「知らない」んじゃないでしょうか。「日本のものづくりが危機状態にある」原因かもしれません。
「生産ラインの基本特性って、なに?」って、訝る方も多いかもしれません。
では、ある生産ラインに投入したワーク(オーダー)が完成するまでの時間、つまり生産リードタイムがどのような要素で決まるか、をご存知ですか?
例えば、5工程の直列ライン。どの工程の処理時間(加工時間、製造時間)も1時間なら、生産リードタイムは、、、何時間でしょうか。
「5時間でしょっ」
「必ず、いつでも、5時間ですか?」
「うーん、処理時間に変動がない場合、、ですかね」
「じゃ、処理時間がバラツク場合はどうなるでしょうか?」
「・・・うーん」
「例えば、処理時間の平均が1時間で標準偏差が0.25時間(15分)だとしたら、、どうなる?」
「・・・ハハーン、分散の加法性で計算すればいいのか。平均は5時間、バラツキ(標準偏差)は15の二乗×5の平方根≅33.5分、となり、生産リードタイムは平均が5時間、標準偏差が33.5分の正規分布になる」
「・・・正解、なんだけど、条件があるんだよね。いつもそうなるわけじゃない。」
「えっ、どんな条件ですか?」
「生産ラインのワークの平均投入時間間隔が、、そうね、5時間とか、だったらそうなるかな。でも1時間だったらそうはならない、、、」
「どうして?」
「投入間隔が短いと、工程が処理中のことが多くなり、ワークはその前で待たなければならないんだ。その分生産リードタイムは長くなる」
「なるほど、、で、待ち時間って、計算できますか?」
「できるんだけど、平均値だけ。バラツキを計算する方法はないんじゃないかな。いろいろ提案はあるんだが、実用的な方法はまだみつかっていないようだ」
「え~っ、コンピュータを使っても計算できないの?」
「シミュレーションはできますよ」
「じゃ、計算できるんじゃないですか」
「だけど、シミュレーションを行うごとに結果が違う、、特に、稼働率が高くなると、、」
「ふ~ん・・・」
「つまり、実用的な精度で待ち時間の分布を予測(計算)することはできないんだ・・・。限定的条件付きなら、、、できなくもないんだが・・・」