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No.97 「バラツキと共存できる“生産管理”の構築」

前回、生産管理の基礎となる理論が貧弱だ、ということを、同じ現場で行われている品質管理との比較でみてみました。両者の特徴をザックリまとめますと、

*品質管理はバラツキを前提に、統計理論をベースにしている
*生産管理はバラツキを排除した中央集権的計画基準をベースにしている

となるのではないか、と。大きな違いは、バラツキを許容するか、排除するか。そういう言い方をすると誤解されそうですね。品質管理でも生産管理でも、バラツキはない方が良いに決まっています。ですから、どちらもバラツキをできるだけ小さくすることが重要だという考え方は共通です。

バラツキを小さくする(なくす)ために、バラツキを“許容する”のか、バラツキそのものを“排除する”のか。この違いをもう少し詳しくみていきましょう。

バラツキを“許容する”品質管理では、当然ですが、バラツキと共存します。というより、バラツキの中で暮らす、かな。何をどうすればバラツキと共存できるのか、そのためにはバラツキの素性を知る必要があります。

であれば、バラツキに真正面から向き合い、その性質や特性をきちんと理解しておかなければならない。ごまかしは利きません。「理論」が必要になってきます。それが「統計理論」、ということになるのではないでしょうか。

生産管理ではどうか。生産管理に大きな影響を及ぼしたのがMRP。見込・大量生産環境で発達したMRPでは、固定時間が使われており、バラツキ、変動は考慮されていません。現実はバラツキがあります。どうするのか。バラツキの程度を一定の“余裕時間”に換算し、それを固定時間に加えるようにする。バラツキの影響をなくす(少なくする)ためには、余裕時間を長くとる。そうすると、全体のリードタイムが長くなり、工場の生産性が低下する、というジレンマというかトレードオフを抱えることになります。

現在、「中央集権的計画基準をベース」とした生産管理が行われているわけですが、うまくいっている企業もあれば、常に混乱した現場を抱えている企業もあります。企業の生産管理の状態(安定性)は、ザックリと言えば、生産環境(生産品需要、原材料供給等)のバラツキの大きさに左右されることになるのではないか、、と。

「中央集権的計画基準をベース」とした生産管理がうまくいく企業、というか、生産方式は、ご存知、「トヨタ生産方式」。しかし、「トヨタ生産方式」は限られた企業でしかうまくいかないのはご承知の通り。大部分の企業の、生産現場ではうまくいきません。

つまり、「トヨタ生産方式」がうまくいかない企業では、
“「中央集権的計画基準をベース」とした生産管理はうまくいかない”、
ということになります。

では、「トヨタ生産方式」がうまくいかない企業では、どのような生産管理を行えばいいのか。あれがいい、これがいい、と、これまで多数の方策、方式が提案されてきましたが、これといったものは、

“ないんです”。

どこを探してもないんです。一時、TOC(制約理論)のDBR(ドラム・バッファー・ロープ)が話題になりました。ボトルネック工程だけをスケジューリングすればOK、なんて言ってました。ところがうまくいきません。挙句、スケジューリングを止め、S-DBRに進化(後退?)しました。一気通貫生産方式なんて言うのもありましたね。うまくいかないのは“見え見え”。今、どーなってんでしょうね。APS/生産スケジューラも一時、話題になりましたが、こちらは、誇大広告の連発で奮闘中のようです。

どれもこれも、うまくいかないんです。まったく使えないか、というと、そうでもなく、ごく限られた条件では、まぁまぁ、使えることはあります。でも、再現性がない、移植できない、、。

「トヨタ生産方式」は「中央集権的計画基準」をベースとした生産管理との整合性がピッタシ。が、しかし、「トヨタ生産方式」がうまくいかない企業の生産現場で機能する生産管理の理論がない。

この状態を、
“生産管理の基礎となる理論が貧弱だ
と申し上げたわけです。

解決の方向性は、見えてきたのではないでしょうか。

「バラツキと共存できる“生産管理”の構築」

ひらたくいえば、品質管理的発想で、“バラツキの中で機能する生産管理を構築する”、とでもいうのでしょうか。

当然のことながら、統計理論が入ってきます。工程の処理時間が確率変数となります。

これだけで、つまり、工程の処理時間が確率変数となっただけで、MRPもAPS/生産スケジューラも、どれも使いものにならなくなります。

もちろん、バラツキが小さいとか限定的な範囲だとか、使える領域もあるんですが、生産管理一般にひろく適用することはできません。

品質管理では、あれだけ高度な統計理論を使いこなしているんだから、それを生産管理に応用することぐらい、それほど難しいことではない、のでは?

私も、そう思っていました。探しているうちに、

「あっ、これだ!」

と思ったのが、TOCのDBR。バラツキをバッファー(時間バッファーや在庫バッファー)で吸収しようとする生産方式です。バラツキを吸収するため余裕時間を加えるということはMRPでも行っていますので、特に、新しい考え方ではないんですが、生産ラインの能力を決めるボトルネック工程に着目したことがポイントでした。

「ボトルネックに着目する」。これは、わかりやすかったですね。バラツキを積極的に取り入れながら、そして、スケジューリングもきちんと行う。

統計理論はどうなってんだろう。

TOCが提唱するプロジェクト管理手法に、CCPM(Critical Chain Project Management)というのがあります。

実は、DBRのバラツキの処理方法とCCPMのバラツキの処理方法が違うんです。DBRでは投入からボトルネック工程までの時間に余裕を持たせ(時間バッファー)、ボトルネックの能力を変動から守ります。一方、CCPMでは、各タスクのバラツキをまとめて後に置き(プロジェクトバッファー)、その消費状態を見ながら、プロジェクトの進捗を管理します。(詳細は省略します)

同じTOCの領域で、なぜ、バラツキの処理方法が違うのか、疑問でした。

生産スケジューリングとプロジェクトスケジューリングに違いがあるのでは。直観的にそう思いました。

CCPMの各タスクのバラツキを最後にまとめておく、という考え方は、統計理論(分散の加法性)を利用しているのではないか、と思われます。では、DBRの投入からボトルネック工程までの時間バッファーも分散の加法性を利用しているのか。

いろいろ調べてみましたが、よくわかりませんでした。

TOCの書には、大雑把な表現が目立ちます。「3分の1」という数があちこちで出てきます。それと呼応して、「赤、黄、青」。信号みたいですね。時間バッファーの長さについての理論的な解説、計算方法はありません。“やってみて”、“短かったら長くして”、“長すぎたら短くする”。どうやら“試行錯誤”、“経験則”で、大雑把に、決めるようなんです。

生産管理で統計理論を取り入れている例を探してみました。実は、たくさんとまでは言えませんが、結構あります。但し、文献レベル。個別テーマがほとんど。生産管理全体を捉えたテーマは見つかりませんでした。

プロジェクト管理では統計理論を取り入れているのに、生産管理では、取り入れていない。なぜ、なんでしょうか。

“生産管理の基礎となる理論が貧弱だ”

ということの背後にはこの辺りの理由もあるのかな? だとすれば、

バラツキと共存できる“生産管理”の構築”

って、簡単ではなさそうです。