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No.96 品質管理と生産管理の違い

日本の生産管理の基礎となる理論は貧弱です。欠けている理論の一例として“待ち行列理論”を紹介しました。もちろん、待ち行列理論があれば生産管理が必要とする理論がすべて取り揃うわけではありません。代表例として挙げたまでです。

とは言ってもイマイチ、ピンときません。世の中には生産管理に関連する様々な科目がたくさんあります。生産技術、在庫管理、トヨタ生産方式、セル生産、、MRP、ERP、APS、、インダストリアルエンジニアリング、オペレーションリサーチそして最近はデジタルトランスフォーメーション、、挙げればきりがありません。

ひとつで完璧な生産管理理論の基礎をカバーする科目はありませんが、複数の科目を重ね合わせれば基礎となる理論領域はカバーできるはずです。いや、まだ人知の知らない理論があるのか。そこまで悲観的である必要はないでしょう。

生産管理という領域で利用しやすいように、既に知りえた知識が体系化されていない、とみるべきかもしれません。

ますます、わかりにくくなってきたようです。もう少しわかりやすい説明はできないものか、、。逆に、「理論のある管理法」とはどのような管理なのか。具体的な例はあるのか。環境が違ってはあまり参考にもならないので同じ生産環境を背景にしている方がいいかな、などと、思いめぐらしてみると、浮かび上がってきたのが“品質管理”。

第二次大戦後、生産管理とともに品質管理も米国から入ってきました。戦後間もない頃、子供のおもちゃと揶揄された日本製品がやがて高品質の代名詞となり、ものづくり大国へと発展する原動力となったのは品質管理のおかげだ、といわれております。

米国の品質管理の始まりは、1920年代、大量生産品の品質を管理するために、シューハートが統計的方法を応用したことだと言われています。ただ、統計学は難解過ぎて、あまり利用されなかったようです。本格的に研究されたのは戦時中の軍事産業でした。

日本での品質管理に関する主な出来事を羅列してみます。

* 1950年7月、米国のデミング博士が来日。「品質管理セミナー」を開催
* 1951年 デミング賞が創設される
* 1954年 J・M・ジュラン氏が来日し品質管理の実践方法などを紹介
* 1950年〜1975年 QCサークル活動、「統計的品質管理(SQC)」を実践;この頃から、飛躍的に日本の製品の品質が向上
* 1975年〜1990年 TQC(Total Quality Control:全社的品質管理)の導入
* 1990年〜 ISOの導入;海外へ進出する企業は、ISOの認定を取得することが必修に
* 1996年 TQCからTQM(Total Quality Management:総合的品質管理)へ
* 1999年~ モトローラで開発されたシックス・シグマが日本企業でも導入

大きくみますと、初めは管理図や抜き取り検査などの現場の手法でしたが、QCサークル⇒TQC(TQM)⇒ISO⇒6シグマ と適用範囲が広がり、企業経営の重要な柱に成長してきた経緯がみて取れます。

品質管理は、よく、統計的品質管理と呼ばれることからわかるように、統計理論が基礎となっております。

統計理論は、決して簡単な理論ではありません。米国でもすぐに取り入れられたわけでもないようです。第2次大戦中の軍事産業の中で研究、体系化されました。なので、ものづくりの現場での実績はあまりなかったのではないか、と考えられます。そんな背景もあってか、品質管理は統計理論の露出が多くなったのではないでしょうか。

とは言うものの、管理図、統計的検定、抜き取り検査、分散分析、実験計画など、生産現場での具体的な応用事例すべてが統計理論で説明されています。理論と実践の整合性が高かったことが品質管理の普及・発展に寄与したのではないか、と考えられます。

統計理論とは、ひらたくいえば、“バラツキ”の理論。ランダムな“バラツキ”にも法則があり、その法則を利用して、品質のバラツキを管理する。品質管理は“バラツキ有”が大前提となっていることが特徴のひとつです。

前記したように、品質管理は、現場のQC活動からTQC、TQMそしてシックスシグマと組織全体の管理規範へと発展してゆきました。シックスシグマのシグマ(σ)は母数のバラツキの程度を表す標準偏差のこと。適用の範囲が広がって、活動の名称が変わっても、背後に統計理論の存在をうかがい知ることができます。

一方、生産管理はどうでしょうか。欧米との比較でみるとわかりやすいと思います。

欧米が科学的、物理的、工学的、論理的であるのに対し、
日本は権威主義的、精神論重視、軍隊式、属人的で理論なし。

ではないか、と。(No.92 日本の生産管理;放っておけない異質性 等参照ください)

言い方を換えれば、日本の生産管理は、中央集権的計画基準。

管理には基準が必要です。基準は生産計画。生産計画も単位時間によっていろいろありますが、ここでは深入りしないでおきます。製造作業を行う時間を予め決めておく。その計画を組織全体が共有し、それにあわせて各組織が担当業務を行う。実に、当り前のはなしです。

管理では基本中の基本である計画。他の分野ではほぼ常識的に定着しています。その常識が生産管理でも当てはまるのか?

つまり、計画通り生産を行うことができるかどうか、ここがポイントです。できることもあるが、できないこともある。曖昧なんです。この曖昧さが、生産管理を“ぐじゃぐじゃ”にしているのではないか。

特急注文が入った
材料の納入が遅れた
作業員が急に休んだ
機械が故障した
仕様が変わった
部品の不良が増えた
・・・・

計画通りにできない理由(原因)を挙げればきりがありません。

このような要因が生産計画にどのように影響するのか。無視できる程度の要因ならいいのですが、無視できるかどうか、それさえもよくわからない。

で、生産管理のコンサルタントは、「管理が悪いからだ」とうそぶく。中には、「管理レベルを上げるためにも、どこそこの生産管理システムを導入したら、、」、と本末転倒なことを平気でのたまう生産管理コンサルタント様さえおります。

中央集権的計画基準の生産管理が成立するためには、変動、バラツキがないこと(あっても、許容範囲以内)が条件となります。現実は、様々な変動要因があります。特定できない要因もたくさんあります。生産環境は様々な、多くのバラツキに囲まれています。

生産管理と品質管理の違いがみえてきました。

*品質管理はバラツキを前提に、統計理論をベースにした管理方法。
*生産管理はバラツキを排除した中央集権的計画基準をベースとした管理方法。

同じ生産現場で、まったく異なるパラダイムが共存していることになります。

生産管理に関するバラツキは、大量生産が始まって以来なくなったことはありません。製品の多様化、世の中のグローバル化が進むにつれて、バラツキはなくなるどころか大きくなる一方です。

だからといって、バラツキを許容以下にすることはできない、といっているわけではありません。卑近な例は、ご存知、トヨタ生産方式。バラツキを排除すると、生産ラインの特性はすごく簡単になります。トヨタ生産方式は中央集権的計画基準といっていいでしょう。それができるのはバラツキがない(許容範囲以内)からです。

トヨタ生産方式では、バラツキは排除の対象。バラツキの理論(統計理論)は不要です。しかし、そう簡単にバラツキを許容範囲内に抑えることはできません。市場環境、産業構造、製品構成、、などなど、様々な要因、そして長年の試行錯誤を経て形づくられたものです。一般の企業が簡単にまねできるものではありません。

では、トヨタの品質管理は、統計理論を必要としない範囲までバラツキを抑え込んでいるか、というと、そんなことはありません。常にバラツキを小さくする努力を続けているものの、バラツキを無視できるほど小さくすることはできていないはずです。だから、品質管理には統計理論を使わなければなりません。

一般の企業は、常に、生産のバラツキを小さくする努力をしているでしょう。しかし、ゼロ(許容範囲以内)にはならない。では、バラツキの理論(統計理論)を生産管理に使っているか、というと、“使っていません”。なくならないバラツキを、“あってはならないもの”という“勝手な管理基準”で覆い隠しているだけなのです。

このままでは、IoTだDXだ、と騒いでも、混乱の度がさらに進むだけ、、。