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No.83 間欠需要;補充時間任意での適正在庫は?

前回は、需要の分布形状がわからなくても、適正在庫を計算できますよ、という話をしました。エクセルを使って、比較的簡単に計算できます。そろばん、計算尺が電卓となり、今はエクセルと、計算道具も進化してきました。数式ではわかりにくいこともエクセルを使うと簡単に計算できる例は、他にもいっぱいあるのではないでしょうか。

前回は集計時間が1カ月、補充時間も同じく1カ月の条件で適正在庫を算出しましたが、実際の補充時間は集計時間と同じであることはほとんどありません。補充時間は納入先の事情(供給能力、場所、契約、、)や輸送手段など様々な条件が重なり合って、その大部分は在庫管理側の外部にあるからです。自社で決めることはできず、受け入れるしかありません。実用面からみますと、任意の補充時間での需要分布を試算しなければならないわけです。今回は、これにチャレンジ。

前回の説明を簡単にレビューします。図1は月ごと受注数量と受注件数の推移です。2月、3月、4月、5月そして9月の受注はゼロでした。(詳細データはNo.82の表1参照)

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図1 月ごと受注数量と受注件数の推移

図2は受注数量を横軸に、図3は件数を横軸に、4図は量/件を横軸に、それぞれの度数をグラフにした棒グラフです。

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図2 受注数量の分布

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図3 受注件数の分布

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図4 量/件の分布

需要のメカニズムを利用して試算した月間需要分布の一例を図5に示します。図2の受注数量の分布から図3と図4のデータを使って、図5の試算結果となった、ということです。図2から安全在庫や適正在庫を求めると、飛び飛びの数値しかありませんので、大雑把なりますが、図5ではサービス率が1%刻みで割り出すことができます。

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図5 需要のメカニズムを利用して試算した月間受注数量分布

では、補充時間が任意の時間となった場合について考えてみます。分布形状は不明ですので、分布のパラメータを利用することはできません。で、どうするか。やっぱり、需要構造に潜むメカニズムを利用するしかありません。

先ず、受注件数の特性からみてみます。図1の月ごとの受注件数に着目します。1年間の合計受注件数は15件。12カ月で割ると1.25件/月となります。では、2カ月単位でまとめてみるとどうなるか。15÷6=2.5(件/2カ月)となります。3カ月単位では3.75件、4カ月単位では5件、、。

つまり、集計時間が2倍、3倍となれば、その間の受注件数も2倍、3倍となります。受注件数は集計時間に比例することがわかります。事例では12組の限られたデータしかありませんが、データ数を増やしてみれば、この関係はより明確に確認できると思います。

量/件の特性はどうか。受注件数のように時間との関係があるのかどうか、集計時間を1カ月単位、2カ月単位、3カ月単位で量/件の平均を計算してみます。表2がその結果ですが、集計時間との関係はなさそうです。

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表2 集計時間に対する量/件

受注件数と量/件の関係はどうでしょうか。例示したデータだけでは、データ数も限られているため結論は出せませんが、ここでは、不特定多数の顧客を想定して、受注件数と量/件は互いに独立である、と仮定してみます。現実的・経験的には、許容しうる仮定ではないかと思われます。

受注件数と量/件とも、分布形状のパラメータは使えません。それに代わって、利用できる特性と仮定をまとめますと、
* 受注件数の母集団は変わらないとする。
* 受注件数は時間(集計時間、補充時間)に比例する。
* 量/件の母集団は変わらないとする。
* 受注件数と量/件は独立であると仮定する。

先ず、補充時間に対する受注件数の分布はどのようになるのかをみてみます。実データの集計時間を1単位として補充時間を倍数(小数点可)で表すことにします。計算の一例を①~⑥の順を追って説明します。表4参照。

① 補充時間を整数部と小数点以下に分ける。
② 受注件数のデータから(表3)ランダムに抜き取り、表4の整数部1の列に抜取回数分記入します。ここでの抜取回数はデータ数×100=1200(回)としました。

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表3 受注件数のデータ

③ 整数部2の列には、あらためて受注件数のデータからランダムに抜き取り、その値と整数部1の同行の数値を足した値を記入します。これを1200回繰り返します。
④ 整数部3の列には、あらためて受注件数のデータからランダムに抜き取り、その値と整数部2の同行の数値を足した値を記入します。これを1200回繰り返します。以下同様に、補充時間の整数部と同数の列までつくります。
⑤ 小数点以下については、整数部1の抜取データそれぞれに小数点以下の数値を掛けます。抜取順に累計してゆき、1以上になったらその整数部を新たな受注件数値として残し、残りの小数点以下の数値に次のデータを累計して行きます。これを繰り返します。
⑥ ④と⑤で得られたデータを加算し、指定した補充期間での受注件数の推計値とします。

補充時間が0.5、1、2.5、5.8(集計期間基準)での受注件数の分布推計計算結果の一例を図6に示します。

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表4 計算に使ったエクセル表の一例

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図6 補充時間に対する受注件数の分布

次に受注数量の計算をしますが、これは前回(No.82)説明した方法と同じなので省略します。集計時間を基準として、補充時間が0.5、1、2.5、5.8のときのそれぞれの受注数量分布の一例を図7に示します。図8はサービスレベルに対する適正在庫の一例です。

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図7 補充時間に対する受注数量の分布

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図8 サービスレベルに対する適正在庫

間欠需要では在庫補充の頻度も少なく、供給先からみれば扱い難い製品であり、納期のバラツキも大きくなりがちになります。任意の補充時間だけではなく、補充時間そのものがバラツクことも多くなります。次回は、それを考慮に入れて適正在庫を算出する方法にチャレンジします。