前々から思っていたんですが、在庫管理に関しての疑問がくすぶり続けているんです。ますます増えているようにも感じます。今年(2018年)初め、ある発表会に行きました。そこで発表されてた在庫管理に関するプレゼンを聞いて、唖然、というか、愕然というか、、。中身がないどころか“うそっぽい”内容なんです。それが、日本を代表する“コンサルタント会社”の方の発表。態度は堂々としてましたがね、、。
発表会だけではありません。巷で目にする在庫管理の本の中にも、発表会のそれと比べて勝るとも劣らぬ“悪(わる)本”が結構あります。発表会の内容は公表されていませんので、一応どなたでもアクセスできる在庫管理の本をまな板に載せて、斬ってみたいと思います。
ある在庫管理の本を取り上げます。以降、A書とします。書名、執筆者などは伏せておきますが、書からの引用文はそのまま転記させていただきます。赤字の部分がそれです。ありていに言えば、書評ということなんですが、記述内容の背後にある基本的、論理的な部分に焦点を当てていきたいと思います。先ずは、気が付いたところから、
「倉庫を集約して在庫を減らす」
ごく当たり前のこと、、と読み進めると、
「倉庫を集約すれば在庫は減らせますよね」と聞かれることがあります。答えは「NO」です。そもそも出荷状況に応じて必要な量だけ在庫を持っているはずとしたなら、倉庫がいくつあろうとも必要な在庫量は変わりません。
ぬぬぬっ! 私の常識は「倉庫を集約したら在庫は減る」ですから、この説明に違和感を持ちましたね。どう考えれば「倉庫を集約しても在庫は減らない」ことを説明できるのか、見当が付きません。他の在庫関連書物を調べてみました。が、「倉庫を集約したら在庫は減る」と書いてある本はありますが、「倉庫を集約しても在庫は減らない」と書いてある本は見当りません。巷の認識を基準としてみれば、「倉庫を集約しても在庫は減らない」と主張するこの本がユニーク、ということになります。
一生懸命探してみましたが、「倉庫を集約しても在庫は減らない」をサポートする理論は見つかりません。で、著者に直接聞いてみました。「倉庫を集約しても在庫は減らない」という説もユニークですが、著者の説明もユニークでした。こんな趣旨の説明を頂きました。
「いま、ある企業で、A倉庫に40、B倉庫に30、工場倉庫に30配置したとしたら(40、30、30が配置量)、在庫の合計は100。ここで、A倉庫とB倉庫とを集約したら、安全在庫が減って、60の在庫で済むとなった場合、その減った分は工場倉庫で持つことになる。つまり、工場倉庫の配置量が30から40となり、倉庫への在庫の配置量は減るが、全社在庫の100という量は変わらない。」
みなさんは、この説明を読んで納得しますか? 私には「チンプンカンプン」。著者は物流業界の方、私は製造業界にどっぷり。その違いで、使う言葉の意味に多少のズレがありました。コミュニケーションの過程で修正はできましたが、言葉の意味合わせをしても理解できないんです。どこが、、ですか?
「A倉庫40+B倉庫30=70 が集約したら60になった。」
ここまではいいんですが、、次が、、
「その減った分は工場倉庫で持つことになる」
つまり、工場倉庫の在庫が30から40になる、、。
なんで、工場倉庫が増えるんですかね? わかりませんね。需要が増えるわけでもないんだから、工場倉庫は30のままでいいんじゃないでしょうか。
ところがこの説は、物流業界では“常識”であるようなんです。こんな説明も付随していました。
「物流においては、“在庫が減る”ではなく、在庫の“配置量が減る”と言うのが正しい。しかし倉庫を集約しても安全在庫も含めて在庫の総量は決して減らない。」
さて、こうなると、物流業界の在庫管理と工場の在庫管理と、何か違うのかな? と思ってしまいます。ますますわからなくなってきました。もしかすると、私の知らない理論みたいなものがあるのかなって、思ったりして、、。で、また、著者に聞いてみました。返ってきた応えが、
「在庫を削減するためには、生産の対応が必要ということです。」
だ、と。なんじゃ、こりゃ! と驚いた後に、よぎりました、、。 そうか、生産の対応は物流の分野じゃないんだ。納得、していいのかどうかわかりませんが、物流業界のご認識とは、そのようなことのようです。
在庫管理論の立場からみれば、供給先が生産工場であれ、倉庫であれ、共通の理論であるべき、ですよね。工場の対応という個別の条件を持ち込んで、
「倉庫を集約しても在庫は減らない」
と一般化するのは、どうかと思いますよ、、という私見を著者にぶっつけてみたところ、同意いただけましたので、この件は、落着。
しかし、驚きました。物流業界と製造業の在庫管理に対する感覚というか、考え方というか、の差がこんなにもあるとは。もしかすると、物流業界の在庫管理にはもっと面白いことがあるかもしれない、と思い、探してみました。ありましたよ。
物流コンサルタント会社のWebsiteに「拠点集約・分散時における在庫変動について」というのを見つけました。
John Sussamsの“平方根の法則”っていうのがあるんだそうで。始めて聞きました。「任意のレベルのサービスを確保するのに必要な安全在庫量は、場所(拠点)の数の平方根に比例して変化する」、んだそうです。ところがこの法則、拠点の需要比率が均等でないと“ダメ”。均等じゃないときどうするか、ですが、例えばn箇所を1カ所に集約する場合の安全在庫量は次のよう計算するんだそうです。
こんな式、みたことありません。この式でいいの?って、問い合わせているんですが、返事はまだもらっていません。なんでこんな面倒くさいことをするのかな、、。
在庫拠点集約の原理は、すごく、簡単なんですがね、、。いま、倉庫Aの在庫の平均が、その分散をVa、倉庫Bの在庫の平均が、その分散をVbとします。2つの倉庫を集約してそれを倉庫ABとし、倉庫ABの在庫の平均を、その分散をVabとします。αは安全係数、補充時間はすべて1とします。
倉庫Aと倉庫Bを合算した在庫量=
集約した倉庫ABの平均、分散、在庫量は、
集約した倉庫ABの平均在庫は、倉庫Aの平均在庫と倉庫Bの平均在庫とを加えたもの。これは直観的わかりますよね。分散はどうでしょう。倉庫ABの在庫の分散も単純な足し算で求まるんです。分散の加法性っていうやつです。
Vabc=Va+Vb+Vc
倉庫が何カ所でも同じです。
別個の倉庫の場合とそれらを集約した場合の在庫量の違いは、俗に言う安全在庫の大きさです。適当な数値を入れて計算してみるとすぐにわかります。常に、
複数倉庫の在庫量合計 > 集約した倉庫の在庫量
の関係にあることがわかります。但し、欠品率、補充時間、補充発注方法及びその条件は集約前後で同じとします。
この関係さえ知っていれば、在庫拠点の集約、あるいは分割による在庫量の問題は比較的簡単に解けるのではないでしょうか。