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No.70 「受注順生産問題」と「処理時間変動問題」

「受注順生産問題」と「処理時間変動問題」。聞いたことのない言葉で申し訳ありません。字面からある程度、お察しは付くと思いますが、問題の核心を共有することが重要ですので、少々、紙面を割きます。

先ず、「受注順生産問題」。これは、受注生産をイメージしていただくといいと思います。注文が来ます。ある時間を置いて次の注文が来ます。ほどなく3件目の注文へと続きます。注文が舞い込む時間間隔はランダム。受注生産品目は分かっていても、どの製品が何個、納期はいつか、注文が来るまでもわかりませんから、注文が来てから生産を始めることになります。さらには、受注生産ですので、作業の標準化や習熟は少品種多量生産品の見込生産と比べると、作業時間のバラツキは大きくなりがちです。このような受注生産で、きちんとした生産スケジューリングができるかというと、これは極めて難しい。前回、お話ししたように、ほとんど生産スケジュールは役に立たないんです。

とすると、舞い込む注文を舞い込む順に生産ラインに投入しながら、生産管理を行う、という状況が想定されます。注文ごとに仕様は異なり、数量も納期も異なる。生産ラインを流れるスケジュールもない。それで、生産性、品質、納期をどうやって維持・向上させればいいのか、このような問題認識を「受注順生産問題」と言ってるわけです。

「処理時間変動問題」は「受注順生産問題」と互いに密接な関係があり、重なり合っています。現在の生産スケジュールでは、最適なスケジュールを立てるためには、処理時間は固定されていなければなりません。固定されていても、最適組合せ問題をみてわかるように、簡単な場合以外コンピュータの計算速度をもってしても最適解は得られず、様々な妥協的方法でしのいでいるのが現実です。ましてや、処理時間が変動したのでは、スケジューリングは不可能だ、と言い切っていいのではないかと思います。で、どうするか。これが「処理時間変動問題」です。

これまでの生産管理では、この2つの問題を真正面から捉えようとはしていないように思います。ICT(情報通信技術)の進歩と生産スケジューリング技術の改良で解決できるのではないか、と考えている御仁が多いのかもしれません。しかし、ITCがいくら進化しても、桁違いに高速な量子コンピュータが出現しても、生産スケジューリングの延長線上には答えはないのではないでしょうか。いや、永久に“ない”と断言しなくたっていいんです。一旦、そのように考えてみてはどうか、という程度でもかまいません、、。

「受注順生産問題」と「処理時間変動問題」。どこから手を付けたらいいのか、どのようにして解けばいいのか、皆目見当が付きません。初めから、完璧な答えなんか、無理です。直観的には、「処理時間変動問題」の方が、とっつきやすい感じはするんです。なぜって? なんとなく、、。で、どっちみち、系統立てたアプローチは無理ですから、あっちに行ったり、こっちにいたり、時には戻ってみたり、、。行き当たりばったり、手探り、試行錯誤、、決してスマートではありませんが、なりふりはあまり気にせず、前に進みましょう。

先ず。変動について考えてみたいと思います。例えば、工程の処理時間。ある時は30分、次は25分、そして38分、33分、、、とバラツキます。ではこれから始める処理は何分かかるか、分かりますか? 答えはいろいろありそうです。
*30分(29.5~30.5分)
*30分ぐらい
*25分~35分
*40分以下
*20分以上
*わからない
*、、、

どれが間違いで、どれが正解だと簡単には言えません。それぞれにそれぞれの言い分があります。バラツキがない場合、この工程の処理時間は30分、一定ですから、答えは一つ。しかし、バラツキがあると答えがいっぱい出てくる。どれが間違いで、どれが正解だということもできない。実にいい加減なはなしになってきます。これでは、管理なんてできません。

しかし、値が定まらないという現実を拒絶すると解決の道はほぼ完全に閉ざされてしまいます。現実を受け入れるしかありません。定まらない値をどうとらえるか。雲をつかむような話とは、このようなことを言うのでしょうか。つかみようのない雲をどうとらえるか、かなりの難問ですね。

先人の知恵に学びましょう。このような曖昧さを扱っているのが統計学。そうそう、この統計学を利用することにしましょう。詳しくは統計学についての書籍はたくさん出ていますので、そちらを参照していただきたいと思います。

ここでは、「処理時間変動問題」に絡めて、簡単に触れておきます。統計学では、変動する値を確率変数として捉え、その値がどのように分布するかをみて、その分布の形状、平均、分散(標準偏差)等で捉えます。最も多くみられる分布形状は正規分布と呼ばれる、釣鐘状の分布です。その他にも様々な分布形状がありますが、いくつかの分布は数式モデルで定義されるものもあります。確率変数間の加減乗除の公式もあり、状況に合わせて利用できます。

各工程の処理時間を確率変数で捉えると、生産ラインの投入から完成までの工程フローに従ってその所要時間が加算されていきます。そうすると、投入から完成までの生産リードタイムが計算できるのではないでしょうか。生産リードタイムも確率変数となるでしょう。ですから、生産リードタイムも何時間とか何日とか、一定の値ではなく、ある分布でバラツキます。そうなると納期達成率の中身も変わってくるのではないでしょうか。

これまでの納期遵守率が、例えば、70%だとすれば、全オーダーの内、70%のオーダーは納期内に納入できて、30%は納期内に納入できなかった、という意味ですが、生産リードタイムが確率変数で捉えられるようになると、オーダーごとに、例えば10月20日の納期であれば、それ以内に完成する確率が90%、10月18日の納期であれば80%、10月25日の納期だったら99%というようになるのではないか。オーダーごとの納期遵守の確率がわかって、何になるの、といぶかる方もいらっしゃるかもしれません。しかし天気予報だって、台風の進路予想だって確率で示されてますよね。昔はそうではありませんでしたので、あやふやなことを確率で示すことができるということは、進歩とみていいのではないでしょうか。生産管理が新たな段階に入る予感がするわけです。

統計学だけでいいのかどうか、よくわかりません。限りある生産能力に対する投入制限、オーダーの処理順の制御もしなければならないのは確かですので、それらをどうするか。役に立つ理論があるのかどうかも、はっきりしません。進めていくうちに出てくるかもしれません。少なくても、スケジューリング理論や最適組合せ問題の解法はまったく役に立たないわけですから、、運を天にまかせる境地で、Good Luckを祈りましょう。

「受注順生産問題」と「処理時間変動問題」。これからの生産管理問題を議論するときのキーワードとなる、そんな予感がします。