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No.7 JITとは、何だったのか

前回(No.6)、いきなり「生産ラインの基本要素と基本特性」と、核心部分のテーマに入ってしまいました。 ことを急ぎ過ぎたようです。実は、前置きがもっとありまして、そちらに立ち寄ってから本流のテーマに戻りたいと思います。で、、、

JIT(ジャストインタイム)関連の話をしてみたいと思います。JITといってみたり、トヨタ生産方式といってみたり、 TPSだ、リーン生産だ、といろいろ呼ばれています。専門家に言わせると、 微妙に意味合いが違うようですが、ここではみんなひっくるめてJITと呼ぶことにしましょう。

私がJITとかかわりあうようになったのは、ソニー(株)在職中に「生産革新」なる名のJITベースの改善活動で、でした。 1990年台初めごろだったと思います。ずーっと生産畑を歩いてきましたが、JITについては、本を読んで用語のいくつかを知っていた程度。 ソニーのカルチャーとはちと、いや、かなり違う。某コンサルタントの指導スタイルには度肝を抜かれました。 3つの言葉なんていうのがありまして、あらん限りの声を出して叫ぶんです。一回や二回じゃないですよ。疲れ果てるまで、、。

生産理論なんてどこにもないんです。3つの言葉の中の1つは「やってみてから考えろ!」、ですからね。これって、「考えないでやってみろ」ということですよね。 理論なんかあるわけがない。声を張り上げたり、考えもせずに何かをやったり、っていうのが、ソニーのカルチャーに合わないんです。でも、後から気がついたんですが、 「やってみてから考えろ!」っていうのはそれなりに理があるようなんです。動物(人間も動物ですが)が運動機能を高める過程で脳から命令信号が出る前に手や足が動くんだそうで。 つまり脳から手足に一方方向で命令信号が出るのではなく、手足から脳にも信号が出てフィードバック・ループを形成していると。専門外でよくわかりませんが、 JITもそんなメカニズムを利用してたとすると、なかなか奥が深いわ。ちなみにトヨタでも、大声で叫んだりしてんでしょうかね、、、

小生も、実は、のめりこんだ方で、一時的ではありますが、JITの信者になってしまいました。いつだったか、近くを通ったとき大野耐一さんの墓参りなんかしてましたから、、。

JITにのめり込んだ理由は、何なんでしょうね。初めは、考えないでやるわけですから、言われた通りにやるっしかない。つべこべ言わずに黙ってやる。ただ、おもしろいのは、 「自分で考えてやれっ!」てコンサルは繰返し言うんですよね。でもどうやっていいかわからないから結局、言われた通りやるわけですが、結果もそれなりに出るんです。 でっかい倉庫が空っぽになったり、工場のスペースが半分ぐらい空いたり。こんな光景を目の当たりにすると信じてしまうわけですよ。JITの教祖様は誰かって。それは大野耐一さんです。 だからお墓参りに行ったんです。某コンサルタントは教祖様にはみえませんでした。でも預言者的ではありましたが、、。

JITがなぜこんなにも強烈なツールなのか、にわかに理解することはできませんでした。増産だ、増産だと増やすことは得意でしたが、 減らすことはあまり関心がなかったこともあり、なぜ仕掛・在庫が魔法のようになくなったのか、不思議でしたね。 そういえば、宗教には不思議や奇跡がつきものですからね。JITを信じたのも「不思議」がきっかけでした。

もうひとつの不思議はセル生産。整然とした生産ラインがある日突然、パイプの構造物で埋まり、雑然としたジャングルのようにというか、 バラックで埋め尽くされてしまうんです。100年も前の手工業時代の工場のように。これは不思議というよりはカルチャーショックでした。 ソニーもこうもしないとだめなのか、ソニーも落ちるところまで落ちてしまったのかと、ちょっと寂しくもあり、でした。

しかしこのセル生産の不思議は、すぐ解消されました。立派な生産ラインより屋台生産の方が効率はいいと言うことですね。 例えば10人の直列ラインがあるとすると、そのラインの生産数は一番できの悪い人、こう言っちゃいけませんね、つまり、ボトルネックで決まる。 これを5人ずつの2グループに分けると、一つのグループのボトルネックは同じですが、別のグループのボトルネックはもう少しましなわけです。だから生産数が上ると。 それもそうなんですが、フレキシビリティが増す。こちらの方が効果は大きいと思います。

JITにのめり込んでいる間は、工場改善なんて簡単なもんだ、なんて思えてきました。仕掛や在庫はみるみる減って、 そのうちなくなってしまうんじゃないか。まじめにそう思ったわけではないのですが、 「仕掛・在庫はゼロが目標だ」なんて言うコンサルのいう言葉を信じて、私も他の人にそんなことを平気で言ってました。

在庫ならいいのですが、人が減る、というのは始末が悪い。改善すれば今まで10人でやってた作業を7人でできるようになる。 3人はどうすんの?他のところに回すといったって、他のところも改善して人が余るんですよ。「活人」なんてコンサルは言ってました。「省人」ではないよ。「活人」だよと。 全体の生産数量が増えるわけではないから、余った人はどうやって「活」躍すればいいのでしょうか、、、?

ほんとになくなってしまうのかな、と期待と疑問と心配と、、、でみていた仕掛・在庫ですが、ごく常識的な状態になってきました。 あっという間に減った仕掛・在庫はその後、ぜんぜん減らなくなっちゃいました。コンサルは「まだまだ小学生レベルだ、この工場は!」って、活を入れるんですが、 仕掛・在庫は減りません。そうこうしていると、仕掛・在庫が少しずつ増えてくるんです。 コンサルはますますいきり立つわけです。「小学生から幼稚園児になったのかっ!」てね。

俗に言えば、リバウンドですよ。食うものも食わずにダイエットしたら、ますます腹がへって以前以上の太っちょになった、って言う話、良く聞きますよね。 工場だっておんなじ。仕掛を減らせば手空きが増えて生産性が低下する。セル生産で改善しても手空きには勝てません。 倉庫在庫を減らせば出荷に支障をきたす。これはいかん、となってリバウンド。

「改善日」にはコンサルが工場を回るんですが、その日だけは仕掛・在庫はあってはならない存在ですから、 どうするかというと、隠すしかないわけです。工場の隅にシートをかけて隠したり、工場の裏に隠したり。コンサルもさるもの、見つけちゃうんですね。奥の手は、コンサルの視察日には、 仕掛・在庫をトラックに積んで近所の空き地に一時避難するんです。これ、実際にあった話です。

そんなこんなでJITへの信仰心も薄れてくるのはしかたがありません。そうなってからの「生産革新」は惰性でした。

実は、JITを、というかトヨタ生産方式を本気になって勉強したのはJITに疑問をいだくようになるころからです。 驚くような改善効果のスピードとリバウンドそして停滞。ジェットコースターのように急降下かと思えば、天と地がひっくり返り思考停止する。 JIT用語は突き詰めると矛盾だらけ。「生産性は最高に、仕掛・在庫はゼロに」、 「平準化をして売れた分だけつくる」、、、。思考をブロックするJIT用語の羅列に腹が立つこともたびたびでした。

出会い、驚き、信じ、そして疑いを抱くようになったJIT。私にとってJITとは、なんだったんでしょうか、、。