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No.54 生産スケジューラーが使える条件

生産管理とは切っても切れない関係にあるのが生産スケジューラー。生産スケジューラーを使っている生産現場もあれば、使っていない現場もあります。絶対に必要だ、というわけでもないようですが、いろいろな効果もあり、便利なツールでもあるようです。

生産スケジューラーの販売会社の宣伝文句によれば、
・納期短縮
・迅速な納期回答、納期回答精度の向上
・仕掛、在庫削減
・生産リードタイム短縮
・生産スケジュール作成の省力化
・スケジュールのリアルタイム・アップデート
・稼働率アップ
・・・・・
と、いいことづくし。

が、しかし、生産スケジューラーを導入した企業の半数以上が効果を出せずにいるとか、中には大金をはたいて導入した生産スケジューラーをまったく使っていない企業もあるとか、という話をよく聞きます。

生産スケジューラーとは、使わなくてもいいし、使って効果が出ることもあるが、使えない、あるいは、使うとかえって混乱することもある、という、まぁ、何とも得体の知れないもののようです。ということで、生産スケジューラーについて、考えてみようかな、と。

生産スケジューラーとは、あるまとまった仕事を達成するため、(タスク+リソース)をある順序に、時間軸上に並べたもの。イメージはガントチャートですね。縦軸に、まとまった仕事や工程、リソースなどが並んで、それぞれのタスクごとの開始時刻と終了時刻が明示されているチャートです。

スケジュールの特徴としては、
*事前につくる。
*実行可能な時間を指定。
      時点計画;開始と終了時刻指定
      期間計画;ある期間を指定

スケジュールに従って行動するわけですから、スケジュールは事前につくらなければならないのは当たり前として、もうひとつ重要なことは、実行可能であることです。この実行可能というのが、少々あやしいところがあるんです。特に時点計画の場合は。例えば、ある作業者がある仕事をしようとするとき、スケジュールでは9;00AMに初めて10:00AMに終了するとなっているとしたら、材料Aはそろっているか、Bはどうか、治工具は、機械の段取りは、仕様は、、、と実に多くの条件が揃わないと開始できません。運よく時間通りに始められたとして、10:00AMに終わるかどうか、、、。

こうみてみると、スケジューリング通りできるかどうかはスケジューリングだけでは決まりません。材料は事前に揃っていて、治具・工具や機械設備はいつでも動かせる状態で、標準作業が決まっていて、作業者はよく訓練されていて、、、といった生産現場の管理状態が大きな影響を及ぼすことになります。スケジュール通り実行できないのは、生産現場の管理レベルが低いからだ、という話、よく聞きますね。

逆に、管理レベルを上げるために生産スケジューラーを導入しようとする企業もたくさんあります。効率の良い作業スケジュールを短時間につくり、それに従って管理すれば、管理レベルは上がるだろうという期待です。管理レベルが高くないと生産スケジューラーは使えない。一方、生産スケジューラーを使って管理レベルを上げる。いったい、生産スケジューラーとは何なんだ!

生産のスケジューリングは、タスク(仕事、ジョッブ)、リソース、オーダー、資材、、等々、考慮しなければならない要素が非常に多いんです。すべての組み合わせをチェックして、最適解(一般的には最短時間で終了する組み合わせ)を求めようとすると、現在の、あるいは、将来のコンピュータの計算速度をしても、実生活時間をはるかに超える時間がかかってしまいます。再スケジュールも相当の時間がかかることになります。様々な近似アルゴリズムを使って簡略化していますが、実情に合わないことが多いようです。スケジューリングには膨大な処理時間がかかることを指摘しておきたいと思います。

生産スケジューラーにはちょっとした弱点、うーん、弱点と言っては失礼かな、特徴があります。それは、処理時間や運搬時間などの変動(ゆらぎ)を扱えないのです。変動を平均と標準偏差で表すことが多いと思いますが、例えば、タスクの開始時間を平均9:00AM、標準偏差10分、と指定することができない、ということです。余裕時間を入れることはできますが、確率分布の計算ができないんです。ですから、納期回答はOKか、NOか、のどちらか。何月何日の納期なら70%、それより1週間遅くなれば90%の確率で納入可能、なんていう答えは出てこないわけです。

もうひとつ。これはあまり認識されていませんが、重要なことです。生産ラインではリソースの稼働率が高くなると待ち時間が指数関数的に長くなるという性質があります。待ち時間が処理時間の3倍、4倍と長くなりますので、到底、無視することはできません。このWEBSITEでは「フロータイム(投入から完成までの時間)の跳ね上り」と呼んでおります。この現象は物理現象ですので、変動がある限り避けることはできません。フロータイムの跳ね上りを考慮している生産スケジューラーはどこにもないんです。

需要の変動も重要な要素です。ある期間生産計画を固定して、需要の変動を遮断する方法は昔から行われてきました。生産計画を固定できる企業はいいと思いますが、そうできない多くの企業では、需要の変動の影響を受けてしまいます。見込でたてた予定も、受注の入り具合で変更せざるを得なくなります。特急の注文が突然入ります。急いでスケジュールを変更しなければなりません。しかし再スケジューリングも相当の時間がかかります。スケジューリングの問題だけではなく、現実を反映させるための確認作業も時間がかかるでしょう。そして、そして、、待ち時間が急激に長くなることも考慮せず、どんどんオーダーを入れていったらどうなるか。納期遅れの続出。普段おとなしい人が阿修羅のごとき形相で現場を駆け巡る姿を思い浮かべる方も多いと思います。

こうみてくると、生産スケジューラーの使える範囲というのは、すごく、限られているんじゃないでしょうか。生産スケジューラーの販売企業の宣伝文句とのギャップ。誇大広告じゃないの、いやいや虚偽広告だ、、なんて思ってしまいます。みなさまのところではどうでしょうか? 生産スケジューラーを単独で使っているよりもシステムの1部として利用されているケースが多いのではないかと思いますが、生産スケジューラーの機能、うまく使えてますか? うまく使えていなくてもがっかりすることはありません。生産スケジューラーとは、そんなもんなんだ、ということですね、、、。

で、この生産スケジューラー、もっと使いやすくなるんでしょうか? 十数年前、APS(Advanced Planning and Scheduling)が華々しくデビューしました。APSを紹介したある書には、
   *リードタイムを極限まで短縮
   *MRP/JIT/整番管理の欠点を補う
   *顧客に納期を確約できる
   *企業間の最適化を実現する
   *革新的製造業のための方法論
とあります。何か、新しいアイディアが入っているのかと期待して読んでみました。いくつかの工夫はあるようでしたが、前記した生産スケジューラーの基本的な弱点を改善する方策は何もありませんでした。あれから十分な時間が経っておりますが、上記項目の改善効果は確認されたんでしょうか? ご存知の方がおりましたら、ご教示頂ければありがたいです。

生産環境でのスケジューリングには、他の分野のそれと比べても、とてつもなく高い障壁があります。それは計算時間が膨大であり、不確定要素の取り込みができないことに由来します。コンピュータの進歩に期待しても、超えられるような問題ではないように思います。もしかして、量子コンピュータならできるかも。それまで待ちますか、、。

スケジューリングで時点計画に対して、期間計画という方法があることについて触れておきます。期間計画というのは、例えば今月は製品Aを5,000台、製品Bを3,500台、、製品Wを1,000台、というような計画です。月初につくろうが、月を通して平準化してつくろうが、月末までに出来上がっていればいい、という計画です。私が生産現場で働いていた頃はこのような計画でした。いつ何をつくるかは現場に任されていました。月初はバンバン投入、後半は掃き出し、そして完成は月末集中。評価基準は月産計画を達成することでしたので、だんご生産であろうがなんであろうが、生産計画が達成できればいいわけです。計画を上回る生産をすると、ほめられました。いい時代でしたね。

スケジューリングというと時間間隔の短い計画で、月産計画のような期間計画はスケジューリングという言葉がなじまないかもしれませんが、スケジュールも計画も予定も基本的にはどれも同じ、と考えておきます。

月産計画が与えられて、日程計画を組むとき、生産スケジューラーは重宝するんじゃないでしょうか。この場合、最短のスケジュールではなくて、リソース最小とか仕掛・在庫最小などの最適解を求めることになると思います。月産計画の変更がないこと、あっても再スケジュールしなくてもいい範囲の変更、という条件付きですが、、。

まとめますと、生産スケジューラーの活躍する環境は、
   *生産計画(日程計画、工程計画、設備割り当て計画、人員割り当て計画、、、)が固定、または小幅な変更しかない場合
   *限定された範囲で、短時間のスケジュールを生成する
       例えば、スケジュール期間を1~2日、自工程から川上にスケジュール期間遡る範囲で、スケジュールは毎日更新、など。
ということになるのではないでしょうか。