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No.51 個別受注生産は近い将来こうなる

第4次産業革命は、大量生産ではなく、多種少量生産の領域で大きな変革を起こすのではないか、という話をしてきました。多種少量生産の代表的モデルとして、個別受注生産を取り上げ、それにインターネット・コミュニケーションがどのような変化をもたらすのかを次に考えてみたいと思います。

前回、個別受注生産では、ほとんどの場合、日程計画が基準とならないことを確かめました。他に何か基準になるものでもあるのでしょうか? あるとすれば、経験的な勘。これは侮りがたいのですが、属人的で体系化は難しい。

生産計画や日程計画は、生産管理の基本。重要な役割があります。初めにそれを確認しておきます。すでに繰返し申し上げておりますが、現在の生産管理は生産計画を基準にしています。生産計画通りつくれば、予定通り製品は完成する。予定通り製品ができないのは、生産計画がきちんとできていないからだ、と。

他にも重要な役割があります。生産は作業者、現場管理者、設備担当、資材、品質管理、営業、設計、、、と様々な人が協力して行われます。それぞれの担当者がバラバラな動きをしたのでは効率よく生産はできません。現状を正しく把握し、担当ごとに連携をとり、整合性のとれたオペレーションを行う必要があります。その元になるのは生産計画(日程計画)です。

中長期的には、生産能力(機械設備や人員)の増設や削減などの生産体制(態勢)の準備、構築にも中長期の生産計画は欠かせません。

生産計画や日程計画の主な役割を簡単にまとめますと、 ① 生産活動のスケジュール
② 各担当者(部署)が連携するための共有情報
③ 生産体制(態勢)構築の基本情報
ということになるのではないかと思います。個別受注生産では日程計画が基準とならない、となれば、①~③の役割を果たすことができず、生産管理の仕組みが機能しないことになります。現在の生産管理が抱える慢性的な問題の本質はこのあたりにありそうです。

このようにみてきますと、インターネット・コミュニケーションが個別受注生産にどのような影響を及ぼすか、という問いは、インターネット・コミュニケーションは現在の生産管理が抱える根本問題を解決できるのか、という壮大な課題へと展開してゆくことになります。

第4次産業革命とは? と気軽に始めた議論ですが、糸を手繰っていくと、とてつもなく大きな課題にたどり着いた、というか、ぶつかってしまいました。現代の生産管理論を向うに回して、真正面から議論をするか、軽くいなして場をつくろうか、、、。読者のみなさまは真正面からのガチンコ勝負を望んでいると察します。その方が面白いですからね。

では、真正面から、、。
生産管理の基準である生産計画がうまくつくれないとき、それに代わる基準が必要になります。で、前回、あれこれ迷いながら見つけ出した新たな基準は「納期が守れるかどうか」。でも、これって、よくわかりませんね。もっと、具体的に定義しないと基準としては使えません。

生産ラインを動かす生産計画が使えなくなったら、どのようにして生産ラインを動かせばいいか、を考えてみましょう。それは、いたって簡単です。工程の前にワークがあれば処理し、終わったら次工程に送る。ワークがなければ何もしない。工程前に複数のワークがあれば、先入先出で処理する。これで生産ラインの中をワークは流れます。

では生産ラインへの投入のタイミングはどうするか。これはいろいろ考えられますが、基本的には顧客納期に間に合うように投入することになるんじゃないかと思います。例えば、納期を基準として生産リードタイム分遡った時刻に投入する、など。

流れる速さはまちまちで複雑です。が、これは物理現象ですから、そこにはある規則性があり、法則性があります。どんな規則性があるかは、もう既にわかっています(生産ラインの物理特性については、このWebsiteの「生産理論のひろば」ー「生産ラインの基本特性」をご参照ください)。もちろんコンピュータで計算できますし、シミュレーションすることもできます。但し、様々な変動がありますので、流れる速さは確率分布として捉えることになります。

インターネット・コミュニケーションには人だけではなくて、何にでもつながる。だから、Internet of Everything;IoEですね。生産ラインには様々な機械、装置があります。それらすべてがインターネットにつながります。機械ごと装置ごとにどのような状態かが分かります。作業者もつながります。今、誰がどの機械でどんな作業をしているかが分かります。ワークも個別につながります。ワークごとの仕様、処理順、処理方法などが分かります。

今、どのオーダーがどこの工程にあってどんな状態なのか、、、すべて、手に取るようにわかるわけです。ワークごとに、工程ごとの予定通過時刻および実際の通過時刻も分かります。予定時刻は平均値と最大値があり、それと実際の時刻とを比較し、最大値を超えていれば、「納期が守れない」確率が高くなるので、アラームを出します。ワークごとに予定に対する進捗率も分かりますから、遅れているワークを優先的に処理することもできます。

工程内にある仕掛(WIP)が多くなると、待ち時間が長くなり所要時間(生産リードタイム)も長くなります。納期が守れなくなるリスクが高くなりますので、WIPがある数量以上増えないように、投入制限をすることになります。

特急マークの付いたワークは、最優先で処理されます。

このように「納期が守れるかどうか」の判断基準は、ワークの通過時間であったり、ワーク間の相対的な進捗具合であったり、工程内にあるWIP数であったり、特急マークであったり、、、します。

なぜ、このようなことができるのか。生産ラインの物理特性が分かっていますので納期が守れなくなる条件もわかります。それを管理基準とすればよい、ということです。生産ラインの状態をほぼリアルタイムで把握できますので、いつでもアラームを出すことができます。これで、前述の ①生産活動のスケジュール の役割を果たすことができます。

次に、②各担当者(部署)が連携するための共有情報 としての役割について考えてみたいと思います。個別受注生産の流れを広げて捉えてみます。

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図1 個別受注生産の流れ

図1に、需要予測→引き合い→受注確定(投入計画)→生産ラインとほぼ時間の流れに沿って需要から製品出荷までの大まかな流れを示しています。日常の生産活動は、前述のように、常時アップデートされる投入計画と生産ラインの状態をみて行うことができます(これは①の役目)。受注確定に至るまでには仕様の確認、納期の調整、価格交渉、取引条件確認など様々な仕事があります。ここでは「引き合い」としておりますが、受注につなげる一連の作業を含みます。

受注が確定すれば、投入計画に載ってきます。基本的には、現状の生産能力の調整範囲内で注文を受けることになり、市場(顧客)と工場とのインターフェースとして機能します。図2に示しますように、引き合いと投入計画は時間軸が重なる部分があります。時間軸の長さは、事業環境や生産環境によります。

各担当者(部署)は投入計画や生産ラインの状況をほぼ、リアルタイムで共有することができます。

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図2 市場~インターフェース~工場;生産管理の情報スコープ

さらに、受注実績データ、経済環境、市場情報、顧客情報(営業)などの情報で中長期的な需要予測も行います。技術動向、需要の傾向などをみて経営のかじ取りや生産能力を調整します。需要予測の更新は、必ずしも、即時性は必要ないと思いますので、適時、事業環境に合わせて行う。これは、③生産体制(態勢)構築の基本情報 として使うことができます。

このように、これまで生産計画が担ってきた役目を、インターネット・コミュニケーションを利用した情報処理システムが肩代わりすることになるでしょう。将来、インターネット・コミュニケーションの発達によって、さらに高度な管理ができるようになるのではないかと思います。例えば、AI(人工知能)の利用で、生産率(単位時間当りの生産数)と生産リードタイムを高度にバランスさせたり、できるだけ有利な条件で受注したり、また、予測と結果のデータを分析して需要予測の精度が高まることも期待されます。

生産管理の基本は生産計画をきちんとつくること。しかし個別受注生産では、基準となるような生産計画(日程計画)をつくることはできない。ムリしてつくっても正確性に欠け、基準として使えない、、。このような問題をインターネット・コミュニケーションで解決できるのではないか。第4次産業革命は個別受注生産の問題解決という形で具体化してくると考えられます。