インダストリー4.0とか第4次産業革命とか、最近、頻繁に聞くようになってきました。ザックリと言えば、インターネットが社会環境の隅々まで張り巡らされ、それにあらゆる“もの”が繋がる。この技術を利用すれば、多様化、複雑化するものづくりの生産性を大幅に改善できるのではないか、ということのようです。
どこから話を始めたらいいかなと思いつつ、 “コミュニケーション” という言葉が浮かんできました。インターネットとはコミュニケーション手段じゃないの、という軽い発想ですが、、。どのような特徴があるのか、を話の口火としてみましょうか。インターネット以前のコミュニケーション手段との比較が分かりやすいと思います。
インターネット以前のコミュニケーション手段といえば、新聞、ラジオ、テレビ、電話(携帯)、手紙、、、などがあります。歴史を遡ると、一番古いのは手紙。文字と紙の発明があって手紙が生まれ、それを遠いところまで配達する必要が出てきて、郵便の仕組みができた。印刷技術が発明されて大量に印刷できるようになると、書籍や新聞が普及してきた。手紙・郵便~書籍・新聞をコミュニケーションの視点からみますと、手紙や郵便は特定の人(あるいはグループ)との間のコミュニケーション。書籍や新聞は特定の人(あるいはグループ)と不特定多数の人々とのコミュニケーション、と分けることができます。特定の間のコミュニケーションをプライベート・コミュニケーション、不特定多数向けをマス・コミュニケーションと呼んでおきます。
18~19世紀に電気や電波が発見され、20世紀に入って電話、ラジオ、Fax、テレビが普及し始めました。電気通信によって、距離、時間が大幅に短縮されましたが、電話やFaxはプライベート・コミュニケーション、ラジオやテレビは不特定多数向けのマス・コミュニケーション、と同じように分類することができます。図1にそのイメージを示します。
図1 媒体(技術)とコミュニケーションの分類
インターネットの特徴をこの流れでみてみましょう。インターネットでは、メールはプライベート、アマゾンなんかはマス、そしてフェイスブックやラインはグループ内コミュニケーション。みんな含んでる。これまでのプライベート、マスという垣根がなくなっちゃったんですね。これがインターネット・コミュニケーションの重要な特徴ではないかと思います。
電話、ラジオ、テレビなど、電気通信技術で距離や時間は大幅に短縮されました。インターネットはどうでしょうか。日本向けアマゾンのサーバは米国だし、フェイスブックのサーバはアイルランド。距離も時間も意識することなくアクセスしています。これを“距離感の喪失”と呼んでおきます。
従来のコミュニケーションは基本的には人と人のコミュニケーションでした。インターネットでは、人だけではなく、それ以外の“もの”もつながってきます。最近よく聞くIoT(Internet of Things)ですね。ここでは、人も、ものも、つながる、ということでIoE(Internet of Everything)を使っておきます。
まとめますと、インターネット・コミュニケーションの特徴は次のようになります。
・個人+グループ+大衆
・距離感の喪失
・IoE
その他にAI(Artificial Intelligence;人工知能)の進化も考慮する必要がありそうです。AIもインターネットにつながってきますので。
IoEは、人も機械も、部品も工程仕掛も、資材納入業者も顧客も、、、インターネットにつながることを意味します。人、もの、すべてインターネットにつながる。AIもつながる。となれば、これまでにない高度な情報処理ができるようになるでしょう。
インターネットはすでに広く普及していますので、ものづくりへの影響も出ていると思いますが、これから10年後、20年後ぐらいのタイムスパンでみたらどうなるか、夢を膨らましながら、勝手に想像してみたいと思います。
ものづくりの基本は、売れるものを素早くつくること、とすれば、需要情報が重要になります。何がいつ売れたか、売れた後にどのように使われているか、、、などの需要情報は常時取り込めるようになります。その他、需要に影響する関連情報も入手しやすくなるでしょう。これらの情報を基に、AIを利用し需要を予測する。さらにAIの学習能力向上により予測精度も次第に高くなることが期待できます。受注する可能性の高いものを見極める能力は格段に上がるでしょうし、ほぼリアルタイムで需要予測ができるようになると考えられます。
工場内部をみてみましょう。生産現場は、人と機械設備の共同作業場です。そこにワーク(被加工物)が流れてきます。人、機械、ワークの必要情報はすべてコンピュータ―に取り込まれます。流れるワークの仕様は、一個、一個異なることが前提でしょう。機械は流れてくるワーク個々の仕様に合わせて処理し、作業者には、担当する作業ごとに、指示が出ます。流れる工程は初めから決まっているわけではなく、機械の故障、部品の不具合、仕様変更などがあれば、被害が最少になるようにルートが変更されるでしょう。
資材供給業者には部材が切れないように自動発注されます。あるいは納入業者側で自主的に判断するかもしれません。市場の需要を基準に生産工場と資材供給する業者が繋がり、工場では、自律的にオペレーションが行われるとう姿が浮かんできます。
最新の需要予測があって、生産ラインでは、人、機械、ワークが必要な情報を共有しながら自律的に生産活動が進行します。では、何を、いつ、いくつつくるかはどのようにして判断するのか。従来は、生産計画から降りてきた日程計画に従って投入してたわけですが、、。
従来の生産計画、日程計画がインターネット・コミュニケーションの環境ではどうなるかをみてみましょう。前述のように最新の需要予測が常時、コンピュータの仮想空間にあります。一方、生産ラインの状況(個々のワークの位置、時間経過等々、、、、)が分かります。これらの情報を基に、必要な時間軸で生産計画を生成します。この生産計画を暫時生産計画と呼んでおきます。投入はこの暫時生産計画に従って行われることになります。
図2 暫時生産計画(投入計画)の1例
暫時生産計画からつくられた投入計画の1例を図2に示します。横軸は日、縦軸は時刻です。今日(1日目)の投入予定はA,B,C,Dです。明日(2日目)の投入予定ははE,F,A,Gです。実線は受注が確定した分(受注生産の場合)か、生産が決定した分(見込生産の場合)で、破線の予定は、AIが生成した生産予定です。
この暫時生産計画は時々刻々と変化します。投入されれば暫時生産計画から消えます。受注があれば、暫時生産計画に入れられます。もちろん生産環境によっては、リアルタイムで反応させなくてもいいかもしれません。半日とか1日とかごとに更新することもあるでしょう。
仮想の工場を持つこともできます。この機械を一台増やしたらどうなるか、この製品の生産数を2倍にしたらどうなるか、、などなど、仮想工場の中でシミュレーションしてみます。その結果をみて現実の工場に反映させることができるようになるでしょう。
情報へのアクセスは、当然、何らかのルールの下で規制されますが、技術的には、世界のどこからでも必要な情報を共有することができます。隣の敷地にある工場も、地球の裏側にある工場も、まったく同じようにみることができるようになります。
もちろん、このようになるためには、いろいろとやることがあります。ひとつは標準化。データのやり取りの方法を標準化する必要がありますが、目下、いくつかのグループが形成され、主導権争いをしているようです。セキュリティーの問題もあります。なんでもつながるということは、つながらないようにする技術も同時にないと、危険です。今でさえ、サイバー攻撃が問題となっていますので、将来はますます重要な問題となりそうです。
即時性も重要な要素になるのではないかと思います。情報処理のスピードや伝送容量など物理的特性や逐次型かイベント指向かなどの処理方法など、これからの技術進歩に期待するところもあるでしょう。
18~19世紀に始まった蒸気機関による第1次産業革命、20世紀に入ると電力利用による大量生産が始まり(第2次生産革命)、1970年ごろから集積回路やコンピュータなどによる自動化が進展(第3次産業革命)し、そしてインターネットによる第4次生産革命が始まろうとしています。図3はコミュニケーション手段と産業革命との関係を簡単にまとめてみた図です。
図3 産業革命とコミュニケーション手段
図3を眺めると、第1次産業革命は蒸気パワー、第2次産業革命は電気、第3次産業革命は電子回路制御が主変革因子だとすれば、第4次産業革命はインターネットが変革の主因子になるという流れがはっきりみて取れます。インターネット・コミュニケーションが、その関連技術と相まって、産業構造に多大な影響を及ぼすようになる現実をどのように理解し、どのように受け入れるのか。すでに、第4次産業革命は始まっています。我が社は、我が工場は、我が製造現場は、、、。時代の波に乗り遅れないようにするためには、どうすればいいのか。一緒に考えてみましょう。