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No.45 定期発注と定量発注、、その違いは?

現在の在庫管理では、定期不定量発注方式(以下、定期発注)と定量不定期発注方式(以下、定量発注)では基本的な違いがあります。最も大きな違いは、定量発注では発注のトリガーとなる在庫量発注点があること。このためか、定量発注は発注点方式と呼ばれているのはご承知のことと思います。定期発注では一定時間ごとに発注しますので、そのような発注点はありません。

図1に定量発注の1例を示します。在庫が消費され、その量が発注点まで減少した時、予め決めておいた数量を発注します。調達リードタイム後に納入、入庫され補充されます。

欠品を防ぐためには、在庫が切れる前に納入されなければなりません。消費量が多ければ多いほど、納入リードタイムが長ければ長いほど、発注点は高くなり在庫量は多くなります。発注方法は簡単ですが在庫のアップ・ダウンが大きくなりますので、定量発注は、在庫管理のコストをかけたくない商品や単価が安い商品向きで、大雑把な管理でもよい場合に使われる、と説明されています。

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図1 定量不定期発注の1例

発注点の代わりに受注量(または出荷量や消費量)を使うとどうなるでしょうか。受注量が予め決めておいた一定量に達したら、その数量を補充発注する。この発想は、決して珍しいものではありません。卑近な例ではかんばん方式があります。発注点はありませんが、基本的なメカニズムは定量発注です。

受注した分を出荷し、その分をそのまま補充する。これが在庫補充の基本です。では、在庫をいくら持てばいいか。出荷した分が入庫されるまでの間にも注文は舞い込みます。その分は在庫で賄わなければなりません。つまり、保持する必要のある在庫量は補充時間の間の最大受注量となります。最大受注量は、受注量の分布の裾野のどのあたりにするか、欠品率等を考慮して決められます。

この最大受注量を在庫に置き換えるわけですが、そのすべてを実際の在庫で備えておく必要はありません。補充時間の間は発注残という状態にありますが、それも含みます。つまり、
補充時間の間の最大受注量=在庫+発注残
でいいわけです。

(在庫+発注残)が出荷・入庫で出入りし、ぐるぐると回り流動する。この(在庫+発注残)を流動インベントリーと呼ぶことにしました。つまり、補充時間の間の最大受注量が流動インベントリーの枠(大きさ)に反映され、この枠が維持されていれば、欠品率は設定以下になるということになります。

では、流動インベントリーの大きさはどうなるのか。ここでのテーマは定期発注と定量発注の違いですので、そこに焦点を合わせてみます。両者の違いをみるためには、異なる部分と同じ部分を分けて見ると分かりやすいと思います。

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図2 在庫補充の基本的メカニズム

図2は在庫補充の基本的なメカニズムを示したものです。注文を受けて出荷します。ある程度出荷されたら、ある数量をまとめて発注します。納入リードタイム後に入庫され、在庫に補充されます。発注から入庫までを納入リードタイム、出庫から入庫までの時間を補充時間と呼んでおきます。

発注から入庫までの納入リードタイムの間は、定期発注も定量発注も同じで、共通です。異なるのは、補充発注のためのまとめ方です。定期でまとめるのか、定量でまとめるのかの違いです。

共通部分について簡単に振り返っておきます。注文を受けたら直ちに出荷し、直ちにその分を補充発注しますが、この部分が共通です。定期発注とか定量発注との言い方にならえば、即納発注ということができるかもしれません。受注し出荷した時、出荷した量を補充発注するということは、注文はランダムに舞い込み、その時の量もまちまちであるのが一般的ですので、不定期不定量発注ということもできます。このときの流動インベントリーの大きさSSTIは次のようになります。

D

Vd

SSTI

ここで、
納入リードタイム間での受注量平均;D、その分散;Vd、量/件の平均;Q、その分散;Vq、納入リードタイム間の受注件数の平均;Np、その分散;Vnp、安全係数;α

これを基本形とします。定期や定量の補充発注のまとめによる時間や量がこの基本形に加算されることになります。

定期発注の場合、その発注サイクルをTyとしますと、Ty間の受注件数の平均をNyとすると、D、Vd、SSTIは次のようになります。濃茶色の部分が定期発注によって加算される部分です。

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Vd_teiki 

SSTI

定量発注では、定量値をOc、定量でまとめたときに生じる端数の最大をFrとして、D、Vd、SSTIは次のようになります。濃茶色の部分が定量発注によって加算される部分です。詳細については STIC発注方式を参照ください。

D

Vd

SSTI

式を見ただけでは、どちらが在庫が少なくて済むのか、わかりません。具体的な数値を入れて検討してみます。下記の数値を使ってみます。

納入リードタイム;Tp=100一定
受注間隔平均;Ti=10
量/件平均;Q=10
の条件で、Ocを40~240の範囲(同等のNyは4~24)で、受注間隔の変動係数Ci=1、量/件の変動係数Cq=0 の場合とCi=0、Cq=1の場合のSSTIを比較した結果を図3と図4に示します。縦軸がSSTI、横軸はOc、Ny。Ci=1のとき、定量発注より定期発注のSSTIが大きくなりますが、Cq=1のときは定量発注のSSTIが大きくなります。

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図3 Ci=1、Cq=0でのSSTI

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図4 Ci=0、Cq=1でのSSTI

次に、Oc=120 (Nyは12)に固定してCqを0~1の範囲で振った場合、Q が10のときのSSTIを図5、20のときのそれを図6、30のときのそれを図7に示します。Qが10のときは定期発注の方がSSTIは大きいが、Qが30になると定量発注の方がSSTIが大きくなる範囲が広くなります。

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図5  Qが10のときのSSTI

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図6  Qが20のときのSSTI

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図7  Qが30のときのSSTI

図8には、発注サイクルTyを120一定とし、受注間隔Tiを2~22の範囲で振ったときのSSTIの変化を示してあります。定期発注の方がSSTIは大きくなります。

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図8  発注サイクルTyを120一定

定量、定期方式の大まかな特徴をまとめると、次のようになります。

① 定量発注と定期発注の条件によって、SSTIの大小が異なる
② 実用的な範囲で考えれば、定量発注の方がSSTIは小さくなるケースが多い
③ 量/件Qおよびその変動係数Cqが大きくなると定量発注のSSTIが大きくなる

巷で、説明されている定量発注と定期発注の違いの一例を表1に示します。定量発注は「簡単」「安価なもの」「在庫多」、定期発注は「複雑」「高価なもの」「在庫少」という対比で理解されています。

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表1 定量発注と定期発注の違いの一例(巷では)

ところが、今検討している新しい在庫理論では、そのような違いはありません。むしろ定量発注の方が在庫は少なくて済む場合が多いようです。それは、定量でまとめることにより、ランダムな需要変動を吸収しているためではないかと考えられます。となると、表1のような区別は適切ではありませんね。現在の、疑念多き在庫理論は全面的に見直さなければならないのではないでしょうか。