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No.43 定量不定期発注;流動インベントリーの大きさ

定量不定期発注は、巷では、発注点方式を指すのが一般的です。しかし、かんばん方式では、例えば、パレット収納数(かんばん1枚の部品点数)が5個だとして、5個消費されるごとに かんばん を戻すという使い方をするのが普通。これって、定量(5個)発注方式じゃないでしょうか。でも、発注点はありません。発注点のない定量不定期発注方式がある、ということですね。

発注点がないことのメリットは、No.40~No.41を参照いただければ、と思います。発注点を設定して、それを発注のトリガーとする方法は、一見分かりやすいのですが、在庫補充の基本原理には合っていないように思います。

ではどうするか。発注点ではなくて、消費量を基準にすればいいわけです。例えば、ある時点から受注量を積算していって、予め決めた数量に達した時にその数量を発注する。その時点からまた受注量を積算して、その数量に達した時に発注する、ということを繰返すわけです。こうすれば、発注点は必要ないですね。注文が来るタイミングがばらつきますので、発注間隔もバラツキます。つまり、定量不定期発注となるわけです。

定量発注方式=発注点方式が定着したのはなぜなんでしょうね。かんばん方式では、発注点のない定量不定期発注を行っているのに。かんばん方式を定量発注として使っていても、不定期性はあまり感じられないからでしょうか。あるいは、かんばん方式はトヨタ生産方式との結びつきが強く、“こうあらねばならぬ”という縛りがあるためでしょうか。かんばん方式はかんばん方式として、特別に扱われてきたのかもしれません。

消費量を基準とした定量不定期発注方式のメカニズムについて、もう少し詳しくみていきましょう。考慮しなければならない要素は定量発注数量ですが、これは予め決めておく数量です。Ocとします。Ocをいくつにすればいいか、巷では経済的発注量などで説明されていますが、納得性はイマイチ。別途、詳細に検討したいと思っていますが、ここでは議論しないことにします。

その他に考慮しなければならないことは、ある時点で受注した数量は一般的にはちょうどOcにはならずに、端数が生じることです。図1を参照ください。この端数分の補充発注は次回に回されます。つまり、補充が遅れることになります。欠品を出さないためにはこの分を流動インベントリーに加えておく必要があります。端数の分布の一例を図2に示します。

Oc

図1 定量発注時の端数の発生

発注遅れ数分布

図2 端数(発注残り数)の分布の一例

定量発注量Ocと端数が流動インベントリーにどのような影響を及ぼすかをみてみます。Ocは定量、つまり一定ですので、流動インベントリーの平均に加算されますが、分散は増えません。端数ですが、量/件Qのバラツキ(変動係数Cq)が大きくなるに従い裾野を片側に長く引く分布形状になります。端数の分布は片側分布ですので、流動インベントリーの平均はその分、加算されることになります。加算される量は、確率を顧慮した最大値となります。端数の最大値をFrとすると、Frは次の式で表すことができます。近似式です。

Fr1                    α;安全係数

端数のバラツキはFrに含まれますので、流動インベントリーの平均に加算しておけば、分散はそのままで構いません。つまり、流動インベントリーの平均D ̅とその分散Vdは次のようになります。

Teiryo_D             (式1)

Vdr_shiki6

Vdr_shiki7         (式2)

ここで、
   tp;納入リードタイム平均、Cp;納入リードタイム変動係数
   Ti;受注間隔平均、Ci;受注間隔変動係数
   np;納入リードタイム間の受注件数平均  np
Oc;定量発注数量
   Q;数量/件(受注件数1件当りの受注数量)平均、Cq;数量/件の変動係数

流動インベントリーの大きさ(必要在庫量)は次のようになります

SSTI           (式3)

具体的に、以下の数値を入れて確かめてみましょう。
ti=10、Ci=1
tp=100、Cp=0
定量発注数;15
q=3、Cq=0.5

安全係数α=2.6として、端数Frは、

Fr2

流動インベントリーの平均は、(式1)から

D_rei

分散は、(式2)から、

Vd_rei

となります。流動インベントリーの大きさは、安全係数を2.6とすると、次のようになります。

流動インベントリーの大きさ SSTI_rei

流動インベントリーの大きさは初期在庫数量となります。

80個の初期在庫を置いてシュミレーションしてみました。初期状態から60番目の出荷までの倉庫在庫、注残、発注待ちの推移を図3に示します。

zaiko

図3 流動インベントリーの推移

図4は倉庫在庫の分布を示しています。

zaiko_bunpu

図4 倉庫在庫の分布

定量不定期発注は発注点方式がよく知られていると申し上げましたが、単純で簡単なダブルビン方式という方法もあります。2つの入れ物があり、片方が空になったらその分を発注する方法です。ひとつの入れ物分が発注点と考えることができますが、ひとつの入れ物分が消費されたときに発注する、と考えることもできます。後者の視点を発展させれば、入れ物を複数用意して、空になったらその分を発注するという方法にたどりつきます。こうなれば、もはや特定の発注点はなくなり、消費した分だけ発注するという消費基準の定量発注方式となります。かんばん方式も基本的には消費した分、発注します。特定の固定した発注点方式にこだわる必要はなくなるわけです。“在庫基準から需要基準の在庫管理へ”という方向性が見えてきました。在庫補充の構造が分かりやすくなったと感じていただければ幸いです。