前回、受注数量を一定として、受注間隔が一定の場合と数量/件が一定の場合の違いをみてみました。
次に、受注数量が増減するとき、どうなるかをみてみたいと思います。ある製品のある期間の受注数量の平均を200、受注件数の平均を10、数量/件の平均を20とします。これを基準として、受注間隔が一定で数量/件が変化するときと、数量/件が一定で受注間隔が変化する場合とを比較してみます。
条件は、受注間隔の分布を指数分布とします。受注件数の分布はポアッソン分布に従いますので、受注件数の平均と分散は同じ数値になります。数量/件の分散は平均値に比例すると仮定しています。結果の一例を図1に示します。
図1 受注数量の増減に対する標準偏差
受注間隔が一定で数量/件が変化する場合は受注数量の標準偏差は受注数量の平均に比例します。一方、数量/件が一定で受注間隔が変動する場合は、基準とした受注数量200を境に、
*受注数量の平均<200の領域では受注数量の標準偏差は、数量/件一定>受注間隔一定
*受注数量の平均<200の領域では受注数量の標準偏差は、数量/件一定<受注間隔一定
という関係にあることがわかります。
受注間隔一定で数量/件が変動するということは、受注先では定期不定量発注(以下、定期発注)を、数量/件一定で受注間隔が変動する場合は、定量不定期発注(以下、定量発注)を行っていると考えることができます。
例えば、受注数量の平均が200から400へ増加するとき、受注先が定期発注している場合は、最大受注数量(平均値に標準偏差の3倍を加算)は、400+3x128=784 となり、定量発注している場合は、400+3x92=676 となります。
この差が大きいか、小さいかは置かれた環境によって異なると思います。例えばコンビニのような小売店では不特定多数の客が来て、一度に買う数量も少ないでしょうから、ほとんど差はないと思われます。
しかし、B to Bの場合は、得意客が2~3社というように、受注先がぐんと少ない場合が多いんじゃないかと思います。そのようなとき、顧客が定期発注しているのか、定量発注しているのかで、受注数量のバラツキ具合に差が出ます。その結果、欠品率や在庫数量に差が出ることになります。在庫削減を進めるとき、無視できないことかもしれません。
発注側も受注側も、できるだけ抱える在庫数量は少ない方が良いし、欠品はない方が良いとなれば、利害を共有する部分ではないかと思います。発注方法を決める上で、自社の都合だけではなく、発注先の都合も考慮することで、両社にとってレベルの高い在庫管理ができるのではないかと期待されます。
No.36とNo.37で受注数量と受注件数と数量/件の関係について調べてきました。現在の在庫管理では、在庫を補充発注するときは、発注間隔と数量/件を分けて考えています。受け手側に回ったときは、発注間隔は受注間隔に相当し、受注間隔は、ある期間の受注件数に変換され、受注件数と数量/件で受注数量が決まりますが、受注間隔と数量/件を分けて考えることはほとんどなく、受注数量のみで考えられているようです。
在庫管理単位はサプライチェーンの基本ユニットと考えられます。サプライチェーンの視点からみれば、在庫管理ユニットを流動する在庫は統一された次元で捉えるのが自然ではないでしょうか。前述のように、在庫管理ユニットの前後で統一を欠いた次元で流動する在庫を捉えることで、在庫理論を歪めている可能性があります。その歪みは、大きいのか小さいのか、許容できるのかできないのか、などの判断は現実の環境条件の中で行われればよし。少なくとも在庫管理のメカニズムをより正確に理解しておくことが重要ではないか、と思います。
次回は、納入リードタイムが変動する場合について考えてみたいと思います。これもまた、今の在庫理論とは違った捉え方になるかもしれません。