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No.30 在庫基準から需要基準へ

倉庫

在庫管理について考えてみましょう。在庫管理が必要なところは在庫があるところです。例えば、倉庫。倉庫といってもいろいろあります。完成品倉庫、資材倉庫、部品倉庫、工場倉庫、地域倉庫、物流倉庫、、、。工場にある半完成品倉庫、工程内にある仕掛置き場も在庫のあるところ。小売店もそうですね。

在庫管理というと、在庫の現物管理という狭義の在庫管理もありますが、ここでは、欠品を起こさないように在庫量を管理するという広義の在庫管理を対象にしています。念のため。

で、前述したような様々な在庫すべてをひっくるめて、在庫管理の対象としたいわけです。資材倉庫の在庫には適用できるが、小売店の在庫には適用できない、ということでは不便ですから。でも、様々な在庫をひっくるめて捉えていいか、あるいは捉えられるか。もちろん、検討してみなければわからないことですが、課題に取り組む前に、感触ぐらいは確かめておく必要がありそうです。

様々な在庫の共通項を探してみましょう。完成品倉庫、資材倉庫、部品倉庫、工場倉庫、地域倉庫、物流倉庫、工場にある半完成品倉庫、工程内にある仕掛置き場、小売店の在庫、、、の共通項は何か、と。

大上段に構えるほどの問いではありません。在庫に共通することは、出と入りがあること。実に単純な構造です。出と入りと在庫、この3要素が相互に関係しあっているわけです。

目的は? これも単純に考えておきましょう。欠品しないように、在庫がいつもあること。まとめると、在庫管理とは、「在庫がいつもあるように出と入りを管理すること」--①。これでいいですか?

うーん。これって、違うんじゃないかな、と思うんですよ。前回も触れたんですが、出と入りを管理するっていうことは、非常に難しいんです。出は、顧客が決めること。入りは納入業者に依存していること。入りの方はある程度コントロールはできそうですが、出の方は難しいんじゃないでしょうか。ですから、在庫管理を「出と入りを管理すること」にしちゃうと「理」に合わなくなる恐れがあるのではないか、な。

で、どうしましょうか。こんなのはどうでしょうか。
「出に従って、在庫が切れないように入りを管理する」――②

「何が違うんだ?」 そう感じる方が多いと思います。両者を少し書き換えてみましょう。
① 在庫を基準として、出と入りを管理する
② 出を基準として、在庫が切れないように入りを管理する

基準とするものが、①では在庫、②では出。これが大きな違いです。①はこれまでの在庫管理の考え方ではないかと思います。在庫管理だから在庫(量)を基準とする、ということに違和感はありません。適正在庫という言葉は説得性があります。

②の出を基準とする、ということに対しては、どうでしょうか? ちょっと、違和感がありますか? 出というのは、大雑把にいえば市場の顧客が決めること、です。ある程度予測はできても、変動が大きく外れることの方が多い。「そんなの、基準となるかい?」と。

②を在庫管理の基本的なコンセプトとすることについてもう少し掘り下げてみましょう。基準を在庫(量)から出(ていく量)にするということは何を意味するのでしょうか?もちろん、①も②も目的は同じです。目的が同じなら、簡単でわかりやすい方がいい。①の基準はそのような理由がぴったりです。では、②の理由はなんでしょうか。

出は需要に置き換えることができます。需要は、予測はできても、変動しバラツキます。しかし、需要をコントロールすることは、一般的には、できません。だとしたら、需要はコントロールの対象ではなくて、追従する対象とした方がいいのではないか。言い換えると、需要変動に追従するように在庫を管理する。

「①だって、需要をみているんじゃないの?」。当然の反応です。その通りです。需要予測をして、そのバラツキの範囲を想定し、安全在庫を確保する。①も需要をちゃんとみています。「だったら、①と②の違いはなんですか?」

発注点方式という在庫管理の方法があります。在庫量があるレベルを下回ったらある量(通常は予め決めた量)を発注する、という方法で、そのレベルを発注点と呼んでいます。発注点をどこにするかは、納入リードタイムやその間の需要量などによって決めます。当然需要予測をし、安全在庫を考慮します。この場合、在庫管理の主要な基準は発注点です。つまり、①は需要をみてはいますが、在庫量に基準を置いて、それを通して需要をみている、ということができると思います。

②は需要を、在庫量に基準を置かずに、直接みている、ということになります。「そんなことしたら、在庫管理なんてできないんじゃないの?」と言われそうです。多分、そう思う方の方が圧倒的に多いんじゃないかと思います。

結論はなんだ? と急がないでください。②のコンセプトが重要だ、ということを強調したいんです。①と②の違いは、在庫管理に限らず、生産管理、工場管理さらには企業経営にも共通にみられることだからです。

工場の生産性はインプット分のアウトプット。それは売り手市場の頃の話。売れないものをいくら効率よくつくっても企業の業績は良くなりませんね。いや、むしろ悪くなります。買い手市場のマーケットでは売れるものしかつくってはいけないわけですので、生産性向上が企業業績向上に結びつくためには、生産性の定義も変わってきます。

市場で需要のあるものをできるだけ速く、効率よくつくる。つくる側が勝手に決めたものをできるだけ速く、効率よく、ではなく、需要のあるものをできるだけ速く、効率よく、です。であれば、市場の需要を基準に考えなければならないことになります。

工場は市場が求めるものをできるだけ速く、効率よくつくるようにしなければならない、ということになります。在庫管理も、当然のことながら、需要基準で考えなければならない訳です。

固定された発注点ではなく、常に変動し、予測し難い需要を基準とする。適正在庫という基準ではなく、つかみどころのない需要を基準とする。無謀なチャレンジでしょうか?

変動が激しい、つかまえどころがはっきりしない需要を基準とする在庫管理とは、いったい、どういうものなのか。在庫理論の改進にチャレンジ! ご期待ください。