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No.3 TPS導入失敗の責任者は誰だ

Wallace J. Hoppが言う「工場管理の科学的枠組みの欠如」と私が主張する「生産管理の基本理論の欠如」とは、ほぼ同意であります。 Hoppの視点は、Lean(JIT、TPS)、シックス・シグマ、SCMという括りで生産性改善の流れを捉えました。私はTPSとDBRに的を絞りました。 異なった視野、視点でみたわけですが、欠けているものは同じにみえるということですね。

生産ラインの挙動、特性は、基本的には物理現象です。だったら、物理学や工学として捉えなければならないんじゃないかな。それがないから、 様々な不合理が正当化されて、現場を混乱させてしまう、、。

おなじみのトヨタ生産方式(以下TPS)について振り返ってみたいと思います。どのようにTPSが世の中に広まっていったのか、という視点で。

TPSが知られるきっかけになったのは、トヨタの業績によるところが大きいんじゃないかと思います。「トヨタのようになりたければトヨタを真似よ! TPSだ、TPSだ」と。 猫も杓子もTPS。一時は、郵政事業や官公庁、病院など、およそ生産環境とはかけ離れたところでもTPSの導入が試みられました。

もちろん、効果があったことは間違いありません。が、失敗例もその何倍、いや何十倍かな、ありました。うまくいかない企業では、 「TPSはトヨタでしかできない」という愚痴がささやかれました。そうすると指導コンサルから、「TPSの導入がうまくいかない理由にするな!」とお叱りを受けるのです。そして、 「言った通りにできていないではないか。できないのは君たちの力がないからだ」という叱責が続くのです。

「言われたとおりにやる(やれ)!」これがTPS普及のキーワードだったのではないか、と思っています。先に、「方法ありき」。 「TPSとはこのようにやるものだ」とTPSのコンサルタントは指導します。その工場が何をつくっていようと、どのような市場環境、 生産環境であろうと、トヨタの方法を手取り足取り指導するわけです。それができないと、「まだまだ幼稚園だな」と。

工場にコンサルを迎えるとき、改善活動に参加する全員が玄関前に長蛇して、「よろしくおねがいします」と。自社の社長が工場に来るときでさえ、 そんなことしたことないのに、、。

TPSのコンサルタントの多くは、上から目線の指導スタイルをとります。自分を神格化する傾向があります。「人を活かす」とか「やる気」など、 モチベーション論を組み合わせます。そして、「トヨタ生産方式は経営論である」とぶち上げます。

「TPSはどのような企業にも導入可能である」という前提条件が正当化されていきました。工場だけではなく、郵政事業や官公庁、 病院などでもTPSの導入が試みられたのもそのような前提条件が正しいと信じられたからではないでしょうか。

TPSのコンサルタントは、トヨタ出身者やそのような人たちから指導を受けた方々が多いと思います。そのような方々は、トヨタでしか、もう少し広くみて、 自動車産業かそれに類似した工場でしかTPSを体験して こなかったのではないかと思います。ザックリと言えば、「TPSのコンサルタントはトヨタしか知らない」。

「TPSはどのような企業にも導入可能である」という前提と、「TPSのコンサルタントはトヨタしか知らない」という実態のギャップの中に、 TPSを導入しようとする企業が飲み込まれていったのだと思います。

TPSを導入しようとする企業の多くは、問題を抱えていました。中にはわらをもつかむ状態の企業もあったのではないかと思います。 TPSのコンサルの言葉は神の言葉に聞こえるのもやむをえません。 うまくいかなくても「あなたの会社は力不足ですね」というコンサルの言葉に納得せざるをえないのです。

最近は、「うちは、TPSは向かないよ」という経営者が増えてきました。一時期のTPSブームは落ち着いてきました。 TPSがうまくいった一部の企業はいいとして、うまくいかなかった多くの企業にとって、問題が解決したわけではありません。TPSのコンサル諸氏が、 自動車産業以外の生産環境でTPSを導入するとき、 それぞれの生産環境に合わせてTPSを適用できなかったのが問題ではないのか。答は、Yes and No。

TPSを様々な生産環境に適用しようといろいろと工夫をしたことは確かです。そのために適用範囲も広がったと思います。ストア、レイゾウコ、セル生産、ウサギ追い、、、 などその過程で考え出されたものではないかと思います。しかし、TPSの枠組みが変わることはありませんでした。

「TPSはどのような企業にも導入可能である」という正当化された前提は、学習効果の結果、「TPSはある生産環境でのみうまくいく」というように変わってきました。が、 「TPSのコンサルタントはトヨタしか知らない」という状況はそのままではないかと思うんです。

では、自社の生産環境を知り尽くしている生産管理担当者がTPSを自社に適用できるようにモディファイできたか。発表される改善事例は多々、 あるのですか、中身はイマイチ。継続性もあまりないようです。

TPSが優れた生産方式であることは認めなければなりません。そして、それが自動車産業全体、またそれに類似した産業、企業、 工場の生産性改善に多大な貢献をしたことも認めなければなりません。と同時に、TPSの恩恵を受けずに、かといって、 TPSに代わる方法もないまま悶々としている企業が多数在ることも認識しなければなりません。

トヨタしか知らないトヨタ出身のコンサルタントが悪いのだ、というのは簡単ですが、ではどうすればいいのでしょうか。 自社の生産環境を知り尽くした生産管理担当者がTPSを応用できないのが悪いのだ、 というのも簡単ですが、ではどうすればいいのでしょうか。

問題の本質はなんなのか?

TPSにはすばらしいアイディアがたくさんあります。生産性向上のための様々な工夫はどれも説得性があります。例えば、種類の異なったものを同じ生産ラインで 同期生産する平準化生産。仕掛を最小限に抑えて、外注も含むライン間を欠品なくつなぐかんばん方式。

お気づきでしょうか? 行き着くところは、「工場管理の科学的枠組みの欠如」であり、そして「生産管理の基本理論の欠如」です。

物理学を基礎として工学(機械、電気、電子、コンピューター、、、、)があります。各種の工学を利用して自動車、テレビ、スマホ、、、 などなどの製品が作り出されています。生産管理、工場管理には、物理学や工学に当たるものがない、 ということです。生産技術、生産工学など、らしきものはありますが、中身がありません。

行き詰まり感のある生産管理、工場管理の現状を打破するためには、物理学、工学に匹敵する基本理論が必要なのです。