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No.29 環境の変化に取り残された生産、在庫、原価、プロジェクト管理

現在、多くの在庫関連の書物に書かれている在庫理論は、どうもしっくりしない、と感じている方は意外に多いのではないかと思います。私も、その一人です。

在庫管理の領域を、少し高い位置から俯瞰してみましょう。在庫管理の場所をその管理責任も含めて、倉庫とします。倉庫には在庫があり、入庫と出庫の機能があります。実に単純なメカニズムです。在庫量は入りと出で決まる。出は受注・出荷、入りは補充発注。出荷も補充発注も倉庫で行いますが、納期に関しては、どちらも倉庫でコントロールできるところは限られています。

なのに、適正在庫論。適正在庫量の計算式は在庫関連の本に書いてあります。それが正しいかどうかは別にして、適正在庫量が仮に設定できたとして、入庫、出庫をコントロールできない状態でどうやって適正在庫量を保つんでしょうね? しっくりしませんねぇ。

発注点方式は、ある在庫レベルを設定し、それ以下になったら予め決めておいた数量を補充発注する方式。なくなったら注ぎ足す。これは、直感的には、非常にわかりやすいですが、理論というほどのものではないように感じます。

この2つの例から推察できることは、在庫管理の要、というか、最重要ポイントは在庫量である、ということではないでしょうか。在庫管理だから、在庫量が最重要ポイントであるのは当たり前じゃないの、というか、、。

しかし、ですよ、在庫量をコントロールすることは、前述の理由で非常に難しい。難しいというよりは、ほとんど不可能。理に合ってませんよね

実は、理に合ってないのは在庫管理だけではなく、生産管理や原価管理など生産に関連する領域で共通にみられる現象です。

もちろん、理に合っていないといっても、何から何まですべてが理に合っていないわけではありません。理に合っていない部分は一部分です。また、理に合わない部分は、最初からそうだったのかというと、そうではないと思います。つまり、初めは理に合っていた、と。

初め、というのはいつ頃かというと、大量生産が始まりその形が出来上がりつつある頃、ではないか。大量生産の特徴は、同じものを大量につくって、原価を下げ、大量に売りさばく。つまり、つくる側の生産性を最大にすることが重要。そのためには、予め決められたものを決められたとおりに繰り返し生産する。そのような背景で、月次生産計画、一個原価計算、資材管理などの管理方法が形成されていったと考えられます。

生産管理も原価計算も資材管理も、その当時は、すべて理に合っていた。それが合わない部分が出てくるようになった。何故か。

大きな変化は、製品・サービスの多様化と変化の速さ、売り手市場から買い手市場への移行などではないかと思います。この環境変化が、なぜ理に合わない部分を生じさせたか。在庫管理については、「No.28 在庫管理のルーツを探る」で言及しましたので、そちらをご参照ください。

原価計算はどのような影響を受けたんでしょうか。原価計算の目的の一つは、売値を決めるため。そのためには製品1単位がいくらでできているか、製造原価を知る必要があります。それに販売経費やその他の経費を加え、利益を上乗せして販売価格を決めます。

大量生産初期は、生産の主体は作業者。作業者の人数は生産量に合わせて比較的自由に調整できました。ですから、作業者の費用は変動費として扱うことができます。設備はたいしたことありませんでしたし、その他の間接人員もそれほど多くはありませんでした。で、原価の構成は、ほとんどが変動費で固定費の割合は低かったのではないか。また、製品の種類も少なく、例えばフォードでは黒のT型フォード、1車種。だとするとその製品の原価構成と企業の原価構成はほぼ同じで、一個原価も同じ構成比率であったと考えられます。つまり、製品一個原価で企業の利益を管理することができたということになります。

時代は、多品種・少量生産へ移行します。生産設備は高価になり、間接人員も増えました。作業者を生産量に合わせて調整するにしても、すぐにはできず、時間がかかるようになりました。作業者の費用は変動費から固定費的になってゆきます。その結果、固定費比率が高くなってきました。

変動費以外の費用の割合が多くなり、それをどのように一個原価に配賦するかが原価計算の課題となってきました。一般的には、製品をつくるために要する時間に比例して配賦する方法がとられています。単位時間当りの費用を算出します。例えば、1時間当り4,000円で、製品をつくるのに要する時間が1時間半であれば、コストは6,000円。材料費が2,000円であれば、その製品の製造原価は8,000円。

そのようにして算出した製品種類ごとの原価構成は製品ごとに異なり、企業全体の原価構成とは一致しなくなります。また、単位時間当りの費用を算出する固定費の配賦条件は合理性を欠き、実際の生産との関連性が薄れてきました。その結果、製品一個原価で企業全体の利益を管理する過程で歪みを生じるようになりました。

生産管理の場合はどうでしょうか。いまだに月次生産が主流ですね。生産管理の基本は生産計画。生産計画がちゃんとできていないから生産管理がうまくいかない。生産計画なしの生産管理なんてありえない。ごもっともなのですが、現実はそうはいかないことが多いのも確かです。

例えば月次生産では、一ヶ月間の生産計画を固定しなくてはいけません。多少の変更はかまわないのですが、その範囲で収まらない場合はどうするか。そういう場合が多いんです。固定しなくてはいけないはずの生産計画が月の途中で変更になると、現実と計画との乖離が生じ、それが生産ラインの混乱をもたらすことになってしまいます。

需要の変動が激しく、生産計画を固定できない環境にある工場では、どのような生産管理を行えばいいのか。これが多くの企業が抱えている悩みのひとつではないでしょうか。

大量生産の始まったときの市場環境、生産環境はがらりと変わりました。しかし、生産管理も在庫管理も原価計算も、その基本的な部分は、そのまま。もちろん、その後様々な改良や工夫、新しい考え方、IT技術の発達などで、進化している部分はたくさんあります。しかし、どういうわけか、昔のままの生産管理、在庫管理、原価計算がすっかり定着しています。

今日の生産環境に合わせて、これらの管理理論を見直さなければならない時期に来ているように思います。合わなくなった部分を修正する、というアプローチは有効ではないように思います。基本に立ち返り、根本的に見直す必要があるのではないかと思います。

生産ラインの基本的なメカニズムを解析し、生産計画によらない、需要追従型の「動的生産管理(DPM)」は、そのチャレンジのひとつです。現在、在庫管理についても、基本から見直し、新たな理論を構築するため、研究を続けております。

原価計算の欠点は、以前より指摘されていました。改善案のひとつは、TOCが主張するスループット基準の管理会計ですが、TOCにこだわりすぎている部分があり、実用的な点から見直す必要があると考えています。

そうそう、もうひとつあります。プロジェクト管理です。管理の対象となっているのは比較的大きなプロジェクトじゃないでしょうか。参加する人、グループ、企業などが多く、また期間も長い。そういうプロジェクトは管理が難しいので、いろいろと管理方法が工夫されてきました。

しかし、顧客の要求仕様に合わせて設計し、製造して納品する受注生産などでは、設計は1人あるいは2~3人の少人数で行うことが多いと思われます。このような設計業務の管理にどのような方法を適用しているかといえば、プロジェクト管理の考え方を利用することが多いんじゃないかと思います。しかし、今のプロジェクト管理は大きなプロジェクトを対象にしていますので、1人~3人の、しかも比較的短い期間の設計業務のような領域にはうまく使えないわけです。

このような小規模、短期のプロジェクト、いや、こういうのをプロジェクトと言っていいかどうかわかりませんが、そのような業務を管理する方法も開発する必要があるのではないか、と考えています。

取り留めのない話になってしまいましたが、「動的生産管理」に続いて、在庫管理論、小規模プロジェクト管理、管理会計などの領域で新しい考え方を発信してまいりたいと思いますのでご期待ください。