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No.107 見込生産の基本;「売れた分だけつくる」

時間で工程の流れを制御することはできない。時間ではなくて、順序だよ、と。で、生産ラインの流れをワークの順序を主な次元として管理する方法はないかと考えていくと、問題・課題がぼろぼろと出てきます。でも、これらの問題、直観的には、どうしようもない難題というよりは、まぁ、なんとかなるんじゃないの、という感じの問題かな。

先ずは、問題を整理してみなきゃ。その前に、問題の本質を理解していないと、、。

工場でモノをつくることの最も本質的なことって、なんだろう?

モノをつくる直接的な目的は? 簡単にいえば、何のためにモノをつくるの?

売るため、でしょ。売れないモノをつくっても、、、そんなモノつくり続けたら倒産しちゃいますよね。

注文が来てからつくるか、注文を見込んでつくるか。前者が受注生産、後者は見込生産。私の経験則では、両者の違いは大きい。前者は顧客固有の仕様とか、生産開始時期や納期の制約がありそうです。後者は大量生産品が多く、また、生産時期もつくる側の都合がある程度許容されるのでは、、。細かくみれば、さらに様々な違いがありますが、ここでは本質的な違いって、どんなことかな、と。

受注生産と見込生産の生産管理の視点での違いをザックリといえば、直観ですが、受注生産は時間管理、見込生産は在庫管理かな。受注生産は時間管理だけか、というと、もちろんそうではありません。数量も重要な条件です。見込生産も在庫の数量とともに背後には時間管理もあります。ですから、ここでは、

受注生産は主が時間管理、従が数量管理
見込生産は主が数量管理、従が時間管理

という感じでしょうか。まぁ、どちらも、時間と数量の次元で管理する、ということになりそうです。

受注生産と見込生産の違いを背後に意識しながら、課題を整理してみましょう。

先ずは、こんなことが重要じゃないかな、ということをつらつらと、、

受注生産では、
*納期や計画に対するオーダごとの進捗度の把握
*順序によるオーダごとの優先度制御
*投入条件(順序など)での納期内に完成するオーダごとの確率の推定
*投入後、納期内に完成するオーダごとの確率の推定

見込生産では、
*販売(出荷)➡生産計画➡生産ライン投入➡入庫の在庫循環の仕組み構築
*必要回転在庫量の算出
*在庫量の安全度の把握
*需要変動に対する調整
*一時的特殊注文に対するアベーラビリティの確認
*不良品等の補充

ザっと挙げてみました。検討していくうちに必要な課題も出てくるんじゃないかと思いますが、こんな課題をたたき台にして、先ずは走り出してみましょう。

受注生産と見込生産。簡単な方から手を付けてみます。どちらが簡単か。直観的に見込生産の方でしょうね。

ということで、見込生産から取り上げます。

工場でモノをつくることの最も本質的なことって、そうそう、

「売れるモノをつくる」➡「売れる分だけつくる」

でも、見込生産ですよ。注文が決まっているわけじゃありません。売れるかどうかわかりませんので、どのくらい売れるか「予測」します。つくる数量は、工場の生産能力とか生産リードタイムが影響してきます。売れる数量、タイミングもランダムに変動します。生産に必要な資材の発注も生産に間に合わせなければなりません。

・・・てなことを考えていくと、、複雑ですよね。だから、生産管理って、難しいのよ。

発想の転換を図りましょう。・・・というか、少し、妥協してみましょう。

「売れる分だけつくる」➡「売れた分だけつくる」

「売れた分だけ」ですから数量は確定します。予測する必要はなくなります。製造にとって数量が確定するということは大変なメリットです。

「売れた分だけつくる」って、どこかで聞いたことありませんか?

「使った分だけつくる」、「引き取られた分だけつくる」、「消費された分だけつくる」、、

そうです。ご存知「かんばん方式」です。

世の中では、「かんばん方式」はトヨタ生産方式の中でしか成立しない、といわれています。「かんばん方式」の失敗例も数多く報告されていますが、その主原因は平準化生産ができていないから。簡単にいえば、バラツキがあると「かんばん方式」はうまくいかない。

発想の転換を図りましょう。

「かんばん方式」の原則は、「引き取られた分だけつくる」でしょ。「バラツキがないこと」なんていう条件は、絶対的な条件なんでしょうか。

トヨタ生産方式では平準化生産が基本。それをベースに「かんばん方式」が成立する、と巷では理解されています。

しかし、ですよ。トヨタ生産方式といえども、バラツキが皆無、ということではなく、非常に小さい(少ない)ということ。「かんばん方式」のかんばん枚数も「計算値+1~2枚」となっています。1~2枚のかんばん枚数がバラツキ吸収目的です。

バラツキが大きいときは、、そうそう、かんばん枚数を増やせばいいんじゃないの、、と。邪道ですかね、こういう考えは。

「かんばん枚数を増やす」、ということは、当然ですが「在庫が増える」ことになります。

で、問題は、どの程度在庫が多くなるか。現行の在庫管理と比べてみます。現在主流の在庫管理では、必要在庫量(理論在庫)は(サイクル在庫+安全在庫)となっています。「かんばん方式」にバラツキを加え、両者の回転在庫量を計算しますと、おおむね、次のようになります。(計算の詳細は省略します)

現行在庫管理 ≧ かんばん方式

現行在庫管理では、発注方式の違い等により多少の違いはありますが、「かんばん方式」より在庫は多くなる傾向にあります。控えめに言えば、「かんばん方式」だからといって在庫が増えることはない、と言えます。

ですから、
「バラツキがあってもかんばん方式は使える」
ということになります。

ちょっと寄り道になりますが、トヨタ生産方式の生みの親である大野耐一氏著の「トヨタ生産方式」(1978年5月初版発行)にこんなことが書いてあります。

~~~~~

(p78~)「かんばん」の弾力性

(中略)プロペラ・シャフトは自動車の重要な機能部品であるが、完成品をつくるのには意外とやっかいな代物である。

シャフトのアンバランスをなくすために、仕上げの段階で、小さな鉄片のバランス・ウェイトが作業者の手ではり付けられる。

この小さな鉄片のバランス・ウェイトは五種類あって、プロペラ・シャフトのアンバランスの程度によって、そのなかから選ばれてはり付けられる。アンバランスがなければ、バランス・ウェイトはいらない。場合によっては何個もはり付けなければならない。これら五種類のバランス・ウェイトの使用量はまったく不規則であって、普通の部品のように、生産計画がわかれば使用量がわかる、といったものではない。(中略)

「かんばん」は、毎日安定して使用される部品の管理にしか使えないものと考えている人が多いようだが、これは間違いである。引取の安定した部品でないと、「かんばん」は使えないと、早呑み込みをしているようである。これもまちがいである。(中略)

私は、「かんばん方式」はけっして硬直化したものでないことを強調しておきたいのである。使用量の不安定な、一見、「かんばん」では御しきれないようにみえる特殊専用部品の管理にも、「かんばん」は有効な道具であることが、バランス・ウェイトの例にみられるとおり、トヨタ自工内部で実証されていることを知ってほしいのである。

~~~~~

発想の転換、できました。

これで、トヨタ生産方式のへんな呪縛から解放されました。一般の生産で、

「売れた分だけつくる」

ことが可能であることがわかりました。生産管理で最も重要な生産数量の根拠が明確になりました。

「かんばん方式」を基本原理とした見込生産の方向性がみえてきました。