MRPもだめ、APSもダメ。じゃ、どうするの?
今回から、MRP、APSに替わる生産管理方法について話をしていきます。
参考になるのが「ザ・ゴール」に出てくる工場改善手法DBR(Drum Buffer Rope)。スケジュールがあるのはボトルネック工程のみ。その他の工程はなし。ボトルネック工程はスケジュールに従って作業を行いますが、その他の工程ではどのように流すのでしょうか。
ボトルネック工程以外の工程でのモノの流し方は「ロードランナー方式」。ロードランナーは鳥の名前です。特徴は、足が速く、急に走り出し、急に止まる。意味するところは、「モノが流れてきたら直ちに作業に取り掛かり、終了したら直ちに次工程に送る」。
「生産ラインの能力はボトルネック工程の能力で決まる」という原理に従い、ボトルネック工程だけをスケジューリングすればいいので、すごく簡単。その他の工程はモノの流れに従ってロードランナー方式で作業を進めればよい。これなら、実行可能性はほぼ、100%。しかも理に合っている。
と、思いきや、
『ザ・ゴール』を読み、その内容を実行しただけの工場のほうが、高いお金を払って我が社のスケジューリング・ソフトを採用したクライアントより高い成果を上げてしまったのだ。
って、どういうこと?
DBR用のスケジューリング・ソフトに何らかの欠陥があったんでしょうか。ひとつの工程だけをスケジューリングすれば良いわけですから、そんなに複雑なソフトではなさそうです。それがうまく動かなかった?
なぜ、DBR用スケジューリング・ソフトはうまく動かなかったのか?
次のパラグラフにその理由がかいてあります。
理解できるまでにはしばらく時間がかかったが、結局、簡単な結論に達した。ソフトウエアを導入することに努力が集中してしまい、もたらされる変化にどう対応すべきかまで神経が十分に回らなかったのである。
ソフトを使う人側の問題であって、ソフト側に問題があるわけではない、とゴールドラットは解釈していたようです。小説「ザ・ゴール」も大当たりしたこともあって、ソフトの開発・販売は中止し、問題とした製造現場の問題解決に舵を切り「制約理論」として主張していくことになります。
スケジューリング方法に問題があることに気づき、対策に動いたのが盟友エリ―・シュラ―ゲンハイム。改良版S-DBRを発表します。S-DBRでは詳細なスケジューリングはなくなり、ロット単位の大枠的なスケジュールとなりました。MRPの大雑把なスケジューリングを改良しようとして、ボトルネック工程だけを詳細にスケジューリングすればよいとするDBR。しかしその狙いは完璧な的外れ。S-DBRでは工程の詳細スケジュールはしません。DBRはS-DBRへと退化し、MRP化してしまった、、。
DBRの教訓は、
“詳細スケジューリングは実行可能性が極めて低い”
ということではないでしょうか。
なぜか。このWebsiteをお読みのみなさまはおわかりだと思います。簡単に言うと、表現が極端ですが、
“100%の稼働率でスケジューリングすると待ち時間は無限大となる”
からです。よく知られた式のひとつを例示します。
平均待ち時間=平均処理時間×{(稼働率÷(1-稼働率)}
これは処理時間と到着時間の変動係数が1の場合ですが、1でない場合でも0でなければ稼働率が100%になると待ち時間は無限大となる・・・と。
現実的には、待ち時間が無限大になることはありませんが、100%の稼働率でスケジューリングしても、実際の稼働率は90%とか80%とかに下がってしまうということです。
APS/生産スケジューラもできるだけ高い稼働率を狙います。しかもひとつの工程だけではなく複数の工程で高稼働率となるようにスケジューリングをすることになります。ひとつの工程の詳細スケジューリングでさえ実行できないのに、、、APS/生産スケジューラで作ったスケジュールが実行できないのは、当り前。
DBRがS-DBRに先祖帰りしたのも、必然的な結末だったわけです。
では、どうしたらうまくいったのか?
『ザ・ゴール』を読み、その内容を実行しただけの工場のほうが、高いお金を払って我が社のスケジューリング・ソフトを採用したクライアントより高い成果を上げてしまったのだ。
“「ザ・ゴール」に書いてあるように実行したら成果が上がった”
そこにはどんな秘策があったのでしょう?
小説にはいろいろなことが書いてありますが、一番重要なことは、、、これかな?
「ボトルネック工程では手空きが出ないようにして、100%の能力を絞り出せ」
「ボトルネック工程を隙間なく、100%の稼働率でスケジューリングする」
ことと何が違うんでしょうか?
どちらも同じようなこと、にみえますが、、、。
この違い。みなさんはお気付きですか?
100%の稼働率でスケジューリングしたボトルネック工程をスケジュールに従って作業をしても100%にはなりません。理由は、待ち時間が発生するから。
しかし、スケジュール(時刻)を無視して、手空きがないように・・稼働率が100%になるように・・、次々作業をする、、と、。
これって、生産現場をやりくりする経験豊富なベテラン管理者に共通するやり方。生産スケジュールがあったとしても、現実とのズレが発生することは日常茶飯。スケジュール通り作業はできません。その時、ベテラン管理者は経験をベースにした指図を出すわけです。そのポイントは、「ボトルネック工程に手空きが出ないように」。
つまり、生産工程の管理に「時刻管理」は使えない、ということです。
MRPも時刻管理を使っていますが、ロット処理で時間粒度が粗く、生産スケジューラのように工程ごと、ワーク(被処理物)ごとの時間管理はしません。
「生産工程の管理レベルを上げるためには、精度の高いスケジュールを作成し、それをベースに管理を行うこと」
これが生産管理の教科書に書いてある管理の概念ではないでしょうか。しかし、この考え方は原理的に成り立ちません。
「えっ! 時間で管理できないってぇ? じゃ、どうすればいいの?」
現在の生産管理の考え方って、物理現象に則していないんです。先ずは、「時間で工程の流れを管理する愚に気づく」こと。
モノの動きをよく見て、常識的に判断することで解決の方向性はみえてきます・・・