MRPでは大雑把な計画しか立てられません。その弱点を修正する動きとして、きめ細かなスケジュールを作ることができるAPS/生産スケジューラに期待が集まりました。特に日本では、2000年初め頃、推進団体が組織されたり、関連書籍が出版されたりと、ちょっとしたブームが起きました。
その後、どうなったか。
MRPそしてAPS発祥の米国でも、APSへの期待がありましたが、一時的。1990年後半から、APS/生産スケジューラ・ベンダーが増えましたが、2000年に入るとその大部分は姿を消しました。
主流は、やはり、MRP。MRPの計画ロジックは基本的に何も変わっておりませんが、それなりに使いこなしているようです。国土が広く大雑把が許容され、多様な人種・文化の中では基準となる計画が必要で有効だ、というようなお国柄の影響もあるのかもしれません。
ジャスト・イン・タイムの日本では、MRPの大雑把さは受け入れられないようです。大企業ではMRP的なものを使っているところもありますが、米国と比べると、普及の程度は低いまま。日本人は、きめ細かなスケジュールがお好きなようで、APS/生産スケジューラが普及する文化的素地はあったはずですが、、。APSブームが起きた2000年初めから20年以上たちますが、いまだに、泣かず飛ばず。
日本では、MRPも使いこなせず、かと言って、APS/生産スケジューラもイマイチ。
欧米でAPS/生産スケジューラ・ベンダーが姿を消したのは、APS/生産スケジューラには原理的欠陥があることに気が付いたからです。MRPは、大雑把という弱点はありますが、計画ロジックは論理的です。
この違いは、デジタル処理では動くか動かないか、決定的な差となります。
APS/生産スケジューラの原理的、論理的欠陥とは何か。本Websiteでは再三申し上げていることですが、「待ち時間」が考慮されていないことです。生成されたスケジュールと実際の時刻とが大きく乖離し、実行可能性が著しく低下してしまいます。もちろん限定的な条件下では使えますが、その条件もまったく、示されていませんので、多くの場合、実際の現場で使えるケースは非常に少なくなります。
生産ラインでのワーク(被処理物)の待ち時間の様子は「待ち行列理論」で詳しく論じられていますので、ご興味のある方は覗いてみてください。
MRPもダメ、APS/生産スケジューラもダメ。だったらどうすればいいの?
工場改善小説「ザ・ゴール」の後書に、そのヒントみたいなものが・・・ある。
『ザ・ゴール』を読み、その内容を実行しただけの工場のほうが、高いお金を払って我が社のスケジューリング・ソフトを採用したクライアントより高い成果を上げてしまったのだ。
日本の工場ではMRPやAPS/生産スケジューラを導入してはいるが、うまく使われていないところが大部分。中には導入しても全く使われていない工場も少なからず、あります。
では、どうしているか、というと、上記の「『ザ・ゴール』の内容を実行する」と類似したことをやっているのではないか。
日本では、生産現場をやりくりしているのは経験豊富なベテラン。彼らがいなければ現場は回りません。MRPやAPS/生産スケジューラを使いこなしているのもベテラン。エクセルしかない工場でやりくりしているのもベテラン。
製造現場も千差万別。様々な業種、生産物、生産形態があります。
ところが、生産現場で奮闘するベテランたちの考え方、行動パターンには驚くほどの類似点、共通点があります。
『ザ・ゴール』の内容、ベテランたちの経験則を分析したら、そこから「MRPやAPS/生産スケジューラでは実現できなかった方法がみつかるのではないか」、、、
そして、「それを新しい生産管理のツールとして使えるのではないか」。
突拍子もない発想でしょうか。
いやいや、ひらたく言えば、生産現場ではいなくてはいけないベテラン管理者のコンピュータ化です。
多くの方の反応は、
「そんなこと、できるの?」
でしょう。
いや、意外と簡単かもしれません。
生産ラインの物理的な基本メカニズムって、そんなに複雑ではありません。それをベースにすればよい。生産現場のベテランは生産ラインの基本的メカニズムを経験的に体得し、それに沿ってやりくりしている。
経験則をベースにしたベテラン管理者の生産ラインでの流し方は、生産ラインの物理特性に合っている。しかしMRPやAPS/生産スケジューラは生産ラインの物理特性に合っていない。
MRPでもない、APS/生産スケジューラでもない・・・
生産ラインの物理特性をベースにした生産ラインの管理ツール・・・
ということです。
これができれば、DX(デジタル・トランスフォーメーション)もスムーズに乗り切れるんじゃないか、と思います。
次回から、具体的なはなしをしてまいりたいと思います。ご期待ください。