DX時代に「トヨタ生産方式」は増々強くなる

工場見学と言えば、多くの場合、生産ラインの中を規則正しく、整然と製品が流れている光景を思い浮かべます。製品は様々。代表的なのは自動車組立工場。その他にも食品加工やそれらの梱包ラインなど、など、、たくさんあります。見学コースですから、“きれい”なところを見せる、、んでしょうけどね。

工場全部が“きれい”になっているわけではありませんよね。その工場で働いている人に聞けばすぐわかります。裏に回ってみれば、仕掛・在庫があっちこっちに散乱し、隅の方には山ができている、なんてことはよくあるんじゃないでしょうか。

まぁ、でも、経験則的にザックリと言えば、整理整頓の程度が良い工場は生産管理・在庫管理のレベルも高いかな、という関係はありそうです。だから、5Sって、改善の主テーマになってんでしょうね。

最近、あまり本屋さんに行かなくなりました。ネットで探した方が便利ですからね。

先日たまたま、本屋さんの前を通りました。この本屋さん、結構大きい。何気なく入り、生産管理関連の書棚の前を通ったとき、以前とはちょっと違ったイメージ。やたらに“トヨタ”関連本が目に付くのです。

もちろんトヨタ関連本は昔からありました。でも3割程度かな、、。しかし、ふと立ち寄った本屋さんの書棚にはトヨタ関連本が7割~8割。ネット上ではそんな傾向はないんですが、ねぇ~。

町の本屋さんは売れるモノしか置きませんので、昨今は、トヨタ関連本がよく売れるんだぁ~、、。

でも、特に最近は、「トヨタ生産方式」に対する関心は決して高くない、と思っていました。1980年代は日本製造業躍進の象徴、バブルがはじけた1990年代中~2000年代は日本製造業復活の救世主として、猫も杓子も“トヨタ、トヨタ、、”。しかし、「トヨタ生産方式」を導入できた企業は極わずか。どの企業も無条件に導入できるものではないのだ、と悟ったのではないか。そんなことが、“トヨタ離れ的現象”につながったのかなぁ、、。

で、また、トヨタ関連本が売れ出した? なぜだ? ホントか?

ここからは、私の、唯我独尊的推論。気楽にお付き合いください。

生産管理・在庫管理に関する書籍はたくさんあります。1990年代~2000年代は、様々な生産方式や生産管理法が提案されたんじゃないかと思います。TOC(制約理論)のDBR(ドラム・バッファー・ロープ)、一気通貫生産方式、トヨタ生産方式、、、それらにコンピュータが絡みMRP、MRPII、APS/生産スケジューラ、、、。

その大部分は今も現存し、製造現場で利用されています。しかし、ザックリと言えば、力強く生き残っているのは “トヨタ生産方式”じゃないかな。他の多くは、その存在感が薄くなっていりのではないかと思います。

「トヨタ生産方式」が生き残ったと言っても、「トヨタ生産方式」がどの企業にも取り入れられ広く普及した、ということではないんです。一面、「トヨタ生産方式」はどの企業も無条件に導入できるものではないのだ、との“あきらめ”もありました。と同時に、「トヨタ生産方式」の狙いと、高い生産性を実現するための背後にある原理、論理が理解されたこともあります。もちろん、トヨタの業績も裏打ちしているのでしょう。

一時の“トヨタ生産方式ブーム”ではない、地に足が付いた、といった感じの存在感が、「トヨタ生産方式が生き残った」というイメージにつながっている、と思うのです、、。

そんなイメージと、巷の本屋さんに並ぶトヨタ本の割合が多いということと、関係がありそうな気もしてきます。どんな関係なのか、穿ってみたいと思います。

直感的に思うことは、「トヨタ生産方式」と現在主流となっている「生産管理」の親和性が良いから、、ではないか。

需要予測、(大・中・小)生産計画、月次生産計画、、在庫管理、、、などなど、計画基準の生産管理の考え方が“教科書”に書いてある生産管理の基本。この基本に「トヨタ生産方式」は“ピッタシ”。

教科書に書いてあることが現実に再現されているのが「トヨタ生産方式」、という感じ。

「トヨタ生産方式」をベースにした生産管理は、原理・原則、目指す目標、重要な管理項目等々に矛盾がなく、理路整然と説明されているように感じます。だから、一冊の本として、きれいにまとめやすい。読むほうも理解しやすい。理論と実践が結びつく。実用書としての評価も高くなる。だから、売れる、、。

これを裏からみると、これまでの様々な生産方式と教科書に書いてある生産管理の基本に矛盾がある、ということになります。DBRにしても一気通貫生産方式にしても、方法論としては“おもしろい”。しかし、計画基準の生産管理の基本に沿って管理しようとすると、様々な問題が生じ、実行できない。そんなことを繰り返しているうちに、影が薄くなってしまったのではないか。

「トヨタ生産方式」は1970年代辺りから、ずーっと、話題になり続けています。2000年代、特に2010年代に入り、一段落した感がありました。で、ブームの再来はあるのでしょうか?

「ある、ある、、」と私は思います。

それは、第4次産業革命、、IoT、DX、、の到来です。

デジタル技術と生産方式の関係をみるとわかりやすい、と思います。「トヨタ生産方式」ほどデジタル技術との親和性が良い方式は、他に、ありません。MRPはタイムバケットが大きすぎてダメ。その欠点を修正しようとしたDBRも、スケジューリングがうまくいきません。APS/生産スケジューラも誇大広告に走るばかり。

MRPもDBRもAPS/生産スケジューラも、まったく使えないというわけではありません。それぞれに使える条件があります。しかし、その使える条件は明示されないことが多く、うまく行ったとしても、“偶然”。“偶然”を再現することは簡単ではありませんので、失敗例の方が多くなるのもむべなるかな。

「トヨタ生産方式」の管理要素は“デジタル”です。ムダの排除、分業、標準作業時間の管理、平準化、、。例えば、かんばん方式。かんばんの枚数はデジタルで計算できます。実際は、多少のバラツキを考慮して1~2枚増やしたりしますが、、。サイクルタイムでの同期生産ができるということは、工場全体をデジタルで管理できることを意味します。

MRPもDBRもAPS/生産スケジューラも、もちろん、コンピュータを使って計算します。デジタルで処理しています。デジタルと相性が悪いのが、現実のバラツキ、変動、変更、、、。仮に、立派な生産スケジュールができたとしても、実行するときには、計画した時の条件とは異なっている。これでは実行可能なスケジュールとは言えません。ですから、使える条件は、バラツキ、変動、変更、、がないこと。あっても許容範囲内。どの程度が許容範囲内かも明示されていませんので、うまく行ったとしても、“偶然”、ということになります。

DX時代に「トヨタ生産方式」は、ますます、強くなる、、。

あなたはどう思いますか?

簡単に、ザックリとまとめますと、

  • 現行生産管理の基本=トヨタ生産方式
  • 現行生産管理の基本≠DBR、一気通貫生産方式、、

現在の生産管理ではコンピュータの利用が必然ですから、上記にコンピュータや情報処理(IT)技術が絡んできます。それを加えますと、

  • 現行生産管理の基本トヨタ生産方式 ⇒ IT技術との相性が良い
  • 現行生産管理の基本DBR、一気通貫生産方式、、⇒ IT技術との相性が悪い

となりそうです。

このような切り口から、実際の生産現場で起きている生産管理がらみの問題・課題がみえてきます。

トヨタ生産方式が現行生産管理の基本に整合し、且つIT技術との相性が良いとなれば、これから迎えるDXではますます有利な立場に立つのではないでしょうか。なぜか?

トヨタ生産方式の特徴をみればすぐにわかります。主なものを挙げますと、

見込生産

実行月の生産計画固定

平準化生産(分業、作業の標準化、、)

かんばん方式

、、、

この中で、絶対に必要な条件は「月次生産計画固定」。そのためには「見込生産」が必然です。受注生産ではダメ。DBRも一気通貫生産方式も、見込生産と受注生産の区別が曖昧で、ドサクサ紛れで受注生産もOK、って言ってるようですが、、。

「現行生産管理の基本」は「月次生産計画固定」が条件で、その条件を満たすのは「見込生産」ということです。

あまりにも“バッサリ”と斬り過ぎたでしょうか?

でも、現在の生産現場の慢性的な混乱を理解するのには有効な切り口だと思いますよ。


投稿日

カテゴリー:

投稿者:

タグ: