現場改善会計論;「改善効果の見える化」・・・100年前のはなしですか?

「時間」をキーワードに現場改善会計論(以下、GKC)を斬ってみました。論文の中にも時間が論理構成上重要な要素である旨の記述があります。しかし、どこをどのように斬っても、「時間の理」が観えてきません。「時間」とは、我々の住む世界を構成する基本次元のひとつ。GKCの時間概念そのものが時空間の法則に反しているのではないのか。ここでいう時空間の法則とは、相対性理論や量子論のはなしではなく、古典物理学でのはなしです。念のため、、、。

・・・でも、GKCって、東大や京大教授の教えを引き継いでいるんですよ。「一理」はなくても「一利」ぐらいはあるんじゃないの、と思うわけです。 ・・・で、ちょっと趣は異なりますが、「時間」を「歴史」という時間軸に換えてみれば、なにか、“らしきもの” がみえて来るかも・・・。暇つぶしに歴史探索してみましょうか。

原価計算、管理会計分野の歴史について参考になるのが下記の書。

RELEVANCE LOST The Rise and Fall of Management Accounting
H.Thomas Johnson、Robert S. Kaplan 1987

邦訳版;レレバンス・ロスト: 管理会計の盛衰 鳥居宏史 訳

すでにお読みになった方も多いと思います。ここではGKCを支える「論理」みたいなものが歴史(過去の時系列)の中に存在したのかどうか、存在したとすれば、その歴史的背景とはどのようなものだったのか、などなど、上記書を参照しながら、主に米国での管理会計の歴史を、私見を交えて要約してみます。

Relevance Lostが出版されてからほぼ40年が経過しました。それ以降現在(2025年2月)まで、会計分野でも様々な改善が加えられたと思われますが、管理会計が抱えてきた諸問題は解決したのでしょうか。

1980年代の米国は日本との貿易摩擦を抱え、製造業に深刻な問題を抱えていました。Relevance Lostから、その原因の一端が管理会計にもあったのだ、ということが垣間見られるのではないかと思います。その頃の日本は “ものづくり日本” を謳歌していた時代ですが、1990年代に入るとバブルが崩壊し、失われた30年、40年の時代に入ります。この辺りについては次回に回して、1980年代半ばまでの米国の管理会計を下敷きにして、現場改善会計(GKC)の特徴を浮き彫りにしてみようと思います。

現場改善会計(GKC)と重ねてみると、

米国での管理会計の歴史をザックリと振り返ってみました。Relevance Lostによれば、管理会計の目的を次のように記述しています。

「管理会計システムの目標は、中間製品や完成品ごとに原価を計算し、加工工程の能率を測定する基準を提供し、管理者、労働者に生産性目標達成を促すことであった。」

一方、GKCが目指したのは、「改善効果の見える化」。

現場改善会計論の提唱―原価管理から余剰生産能力管理へ
日本管理会計学会誌 管理会計学2023 年第31 巻第2 号

から引用してみます。

19世紀米国での管理会計の始まりの背景とGKCの動機、目標はほぼ重なるようです。

Relevance Lost から40年

管理会計システムは、1925年以降進化は止まり、下記のような管理会計の問題が顕在化します。

① 現場改善に、管理会計情報は役に立たない
② 製品原価を歪める
③ 短期利益目標を重視し、長期利益を軽視する

これは1980年代に指摘されたことです。その後約40年、さまざまな改善が提案されていますが、問題解決には至っておりません。個別製品原価計算で顕著に表れる原理的な欠陥をみれば、今後も根本的な解決の可能性は低いとみていいのではないかと思われます。

初期管理会計とGKCの共通点

初期管理会計とGKCのねらいは一致します。とすれば、GKCが成立する条件は、初期管理会計で行われた原価計算のそれと共通するのではないか。管理会計が始まった頃の状況をもう少し詳しくみてみたいと思います。

管理会計の始まりは問屋制工業から工場制工業に代わったのがきっかけでした。問屋制工業の前は家内制工業。家内制工業とは、職人が原材料や道具など生産に必要なものを自ら調達し、生産する形態です。職人が自らの資金で資材を買い、自らの労働力を使い、自ら販売する。生産品の取引は、市場で行われていました。

需要の増加など市場の変化に伴い、問屋制工業が出現します。問屋制工業とは、問屋が職人に原料や道具を貸与してモノを作らせ、それを買い取るという生産形態です。買い取った製品(半製品)は次の工程(職人)に運ぶこともあれば、市場で取引されることもあります。

時代とともに、生産数量および生産品種の拡大が続く中で、分散する工程(職人)の管理が煩雑になってきます。そして現れたのが工場制工業。工場を建て、そこに賃金労働者を雇用して生産する。市場で流通していた半製品は、工場の管理下に入るので、管理会計が必要になりました。

工場管理で重要なことは労働者の作業能率を高めて製品原価を下げることです。そのためには作業者の「手空き(手待ち)」を防ぎ、常に作業ができるようにワーク(被処理物)が手元にあるようにすることです。

その当時の生産形態は月次のまとめ生産(ロット生産)であったと思われます。倉庫には1~2カ月の在庫を置き、販売予測と在庫数をみながら月次生産計画を立てる。月初投入~月末完成・入庫というサイクルで回していたと思われます。

このようなまとめ見込生産だと、工程間にふんだんに仕掛が滞留し、作業者が手空きになることを防ぐことができます。つまり、作業者の負荷率(稼働率)はほぼ100%になります。これにより工数管理が簡単になり、原価計算も容易になったと思われます。

これが可能であったのは、

  • 生産品種はひとつ。複数種の場合もあるがすべて類似品
  • 流れ生産ではなく「まとめロット生産」である
  • 在庫を介した月次見込生産である
  • 製造工程は簡単な道具を用いた手作業
  • 少しの訓練で誰でもできる(熟練を要する作業は少ない)
  • 生産品種はひとつなので段取り替えはほとんどない
  • 工程仕掛、在庫は生産数や工程数の割には多い
  • 生産リードタイムは長いが特に問題とはならない

このような生産環境では、生産数と投入工数がほぼ比例し、中間製品や完成品ごとの原価の跡付けが可能となり、また加工工程の能率を正確に測定することができるようになった、と考えられます。

GKCではどうか

先に挙げた管理会計が始った頃の生産状況であったならば、GKCは機能したのでしょうか。GKCが目指した「改善効果の見える化」は実現できたのでしょうか?

例えば、ある工程で10分の作業時間が8分に改善されたら、需要がある場合、どのぐらい原価が下がるのか。あるいは生産数量がどのぐらい増えるのか。企業としての利益はどのようになるのか。・・・このようなことが簡単に計算できますかぁ~、GKCで・・・。

答えは、「Yes」です。

やっと・・・やっと、見つかりましたね。「改善効果の見える化」が実現する条件が、、。

・・・ということは、

GKCが100年前に発表されていれば、管理会計の目的を実現する具体的手法として注目されたかも、、、。


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