現場改善会計論をたどると見えてくる“ものづくりの盲点”

日本管理会計学会論文賞を受賞

現場改善会計論(GKC)には、東大教授の名前が出て来るし、京大教授の名前も出て来るので、両教授の教えを継承しているのがわかります。もう10年以上研究を続けているようですが、まだ、道半ば。最終的にはどのような結論になるか、期待も少しはあったんですが、、。

論文の中身について、数回にわけて分析してきましたが、現場改善効果を金額換算して工場(企業)全体の利益改善額に結び付けるというGKCの方法はまったく機能しないことは、論文そのものが証明していると言ってもいいぐらい明白です。使ってみるまでもなく、使えないことはすぐにわかります。

論文そのものは、「反面教師として」の使い道はあるかな、というのが前回の話ですが、それで収まるようなことでもなさそうです。この論文(現場改善効果の類型化―会計的視点からの考察―)は、日本管理会計学会の論文賞(2022年)を受賞しているんです。査読をパスしただけではなく、論文賞という学会のお墨付きまでもらって、、、。勢いに乗って、「現場改善会計論: 改善効果の見える化」(中央経済社)を2023年12月に上梓しています。

なぜ、これほどまでに低劣な論文が、厳格であるはずの査読を通り、学会の論文賞受賞に至ったのか。論文の内容もさることながら、学会の“質”にも疑念を感じざるを得なくなります。

現場改善会計論だけに関したことなのでしょうか? 他の論文を読んだわけではありません。多分問題ないのかもしれません。

日本管理会計学会だけの問題なのでしょうか? 他の学会の論文をくまなく調べたわけではありません。他の学会は問題ないのでしょう。

ただ、受賞論文の共同執筆者として上總康行京都大学名誉教授、論文で依拠した「設計情報転写論」の提唱者、藤本隆宏元東京大学教授とのつながりをたどっていくと、部分的、局所的問題だと片づけるわけにもいかない、そんな思いがしてきます。

上總康行教授は会計学が専門のようです。私はまったくの門外漢ですので、会計学的見解は控えたいと思います。ただ、会計畑で長年研究されていた大学教授の論文とは思えない不合理な内容には、少々驚いております。素人なりに論文を読ませていただいた限りでは、論文賞を受賞した理由・根拠のようなものは見当りませんので、学会に問合せしているところです。

文科省が推進する東大ものづくり経営研究センター

藤本隆宏教授については、彼の主張する「設計情報転写論」、著書「生産システムの進化論」、「生産マネジメントⅠ」、、等々で、致命的な間違いが“ゴロゴロ”出てくることをこのブログで再三取り上げております。

この間違いが拡散し始めるきっかけとなったのが、文部科学省が推進する「21世紀COE(Center of Excellence)プログラム」の一環として、2004年4月、東京大学大学院経済学研究科 ものづくり経営研究センター の設立。その中にある「ものづくりインストラクターⓇ養成スクール」で、間違いだらけの“生産理論”が今なお、教え続けられています。2024年からは、藤本隆宏教授が代表理事をしている ものづくり改善ネットワーク に場所を移して開催されることになっているようです。

なぜ、この間違いだらけの生産理論が20年以上も教え続けられているのか。

「ものづくりインストラクターⓇ養成講座」のカリキュラムをみれば、いわくつきの「現場改善会計論」もある。藤本隆宏教授が担当する講座も多い。

藤本隆宏教授の著書、講演、意見交換を通してわかったことを羅列しますと、

  • 生産の「流れ」を重視するが、その流れのメカニズムの説明がない。
  • 何をどうすると生産リードタイムが短縮するか、技術的な説明がない。
  • トヨタ生産方式で、最も重要な、基本的な特徴を物理的、工学的視点で説明していない。
  • トヨタの進化は「怪我の功名」である・・・正気か?
  • ・・・・

“?” が付く記述、説明はその他にも、挙げたらキリがないほど出てきます。これが技術・生産管理、進化経済学を専門とし、トヨタ生産方式をはじめとした製造業の生産管理方式の研究で知られる東大教授の専門知識レベルです。

講座の内容は、当然のことながら、藤本隆宏教授の専門知識をベースに構成されていますので、そのレベルの低さは、他の一般的なセミナーと比べても、見劣りすることは明白です。有能なインストラクターが育つとは思えません。むしろ、現場に混乱をもたらし停滞を助長するのではないか、とさえ思われます。これが20年以上も続き、これからも続けようとしているのです。

トヨタ生産方式の技術移転;日本では、

ものづくり経営研究センターができる前はどうだったのか、簡単に振り返ってみます。注目するのはやはり、トヨタ です。

1973年のオイルショックがきっかけです。トヨタ生産方式(以下、TPS)が知られるようになりました。TPSをまねしたいという企業が現れるのは自然の流れ。

“異業種にトヨタを導入する”という考えのもとに、ウシオ電機、オイレス工業、紀文食品、、、などが中心となって、1980年代初めに NPS(ニュー・プロダクション・システム)研究会 が発足しました。支援したのが、トヨタ生産方式生みの親、大野耐一とその弟子、鈴村喜久男。トヨタ直々の指導体制です。当時の日本を代表する日立、松下、トヨタを追い越すという目標もあったようです。

どのような指導方法だったのか、その一端を「NPSの奇跡」(篠原薫著、東洋経済新報社、1985年10月発行)から引用してみます。

[210ページ]

トヨタで(1980年代半ば時点で)20数年試行錯誤を繰り返しながら形づくられてきたトヨタ生産方式を教えるのは、確かに、難しい。言葉で説明しても、簡単にはわからない。「トヨタのやっている通りにやれ!」となるのは、わからないでもありません。

NPS研究会に参加の企業で、トヨタを再現できた企業はあったのでしょうか? NPS研究会の成果は、その後、何冊かの書で報告されています。リードタイム短縮、在庫削減、5Sなど、成果はあったようです。しかし、トヨタ生産方式が異業種に導入されたか、という視点でみれば、そのような事例は“皆無”。

NPSが発足して40年以上経っても、トヨタを再現できないままです。でも、今でもNPS研究会はご健在。ホームページを開くと、

そして、

と。“ 異業種にトヨタを ”・・・から・・・“ 製造業の為の経営哲学 ” へと 哲学 を掲げてご存命です。

1990年初めのバブル崩壊後、業績悪化に苦しむ企業が、製造業に限らず、郵政事業や官公庁までもが、トヨタ生産方式の導入に取り組みました。NPSよりもさらに雑多な企業がトヨタをまねようとしましたが、トヨタを再現できた企業は“なし”。

APSへの期待

“トヨタブーム”が収まりかけた2000年初め、APS(Advanced Planning and Scheduling)が話題となりました。それまでのMRPⅡは月、週単位のスケジュールでしたが、APSは秒単位のスケジューリングが可能で、次のような事が期待できる、というのです。

  • 変化に俊敏に対応できる
  • リードタイムを極限まで短縮できる
  • 設計部門と製造部門をシームレスにつなぐ
  • 生産現場の活動を利益に結び付ける
  • サプライチェーンの全体最適に貢献する

TPSの導入では、生産システムの物理的・科学的説明はまったくなく、トヨタのやり方を模倣するだけでしたが、APSはコンピュータで詳細スケジューリングが可能だとする工学的裏付けもあり、おおいに期待が高まりました。

推進団体もいくつか立上り、ちょっとしたAPSブームが起こりました。が、結果は・・・ダメでした。APSへの期待は、“まぼろし”だったのです。

なぜ、トヨタを再現できないのか?

TPSが世に知られるようになった1970年代から今日(2024年7月)まで、TPSがどのように製造企業や関連企業をつなぐサプライチェーンにどのような影響を及ぼしてきたかを概観してみました。トヨタから一般企業への技術移転はうまくいったのか。

トヨタから一般企業への技術移転はうまくいったのか、の問いに対する応えは“Yes and No”。Just In Time、平準化、7つのムダ、なぜなぜ5回、、、等のトヨタ語は巷に溢れ、日本だけではなく世界に知られるようになりました。これは、TPSの考え方が広く受け入れられ、実際の生産現場にも少なからぬ改善効果を及ぼした、とみていいのではないでしょうか。

しかし、トヨタを再現できたか、というレベルでいえば、再現できた企業はごくわずか、ということになります。

なぜ、トヨタを再現できなかったのか。概観したイベントを並べてみるとわかりやすいかもしれません。

  • NPS研究会、1980年~
  • 猫も杓子もTPS、1990年代~2000年初め
  • APS、2000年初め~2010年中ごろ
  • 東大ものづくり研究センター、2000年中ごろ~現在

上記のイベントは、いずれも、TPS成立の基本的条件を満たしていないんですね。

それは、何か? キーワードは、

見込み生産

待ち行列現象

キーワードはたったの二つなんです。でも、これを見抜けた方はいらっしゃらない。工場管理者も、生産スケジューラ技術者も、、、。そして、世の中の間違った考えを正し、最新の技術を紹介しなければならない東大教授も、同じ穴のムジナ。穴に入ってしまうと肝心なところがみえなくなっちゃうんですね。そこが、

になっているのではないでしょうか。この辺りから、核心的な話になりそうなので、その前にいったん休憩! 次回また、、、


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