前回のブロッグで、疑問点を二つほど挙げました。
*対トヨタ生産期間比10倍の差を解消できるか?
*連結機構なしの工程間仕掛・在庫をどのように管理するのか?
この疑問を解くカギは「待ち行列問題」ではないか、とうすうす感じていました。一旦は、待ち行列現象の説明がない理由はなんとなくわかった、つもりでいましたが、上記の二つの疑問を解消するためには、在庫問題と待ち行列問題の関係を藤本教授はどのように考えているのか、知る必要がある、、と思い、本書にある待ち行列問題についての説明を再読してみました。
p240
基本的には、あるサービス施設(例えば銀行の窓口)を想定し、顧客の到着のパターンを確率的に仮定し、顧客に対するサービス時間も確率的に仮定し、また待ちラインの構造や優先ルールを設定したうえで、待ち行列のパターンを解析的に算出する。例えば、到着パターンがポアッソン分布(平均到着率=x)に従い、窓口のサービスが、指数分布(平均サービス率=y)に従う「1ライン・1窓口・先着順」のシステムにおいては、であることが知られている。
これは巷で見かける待ち行列理論の書物にある説明と同じです。次に、待ち行列問題と在庫問題が似ていることに言及しています。
p241
実は「待ち行列」は問題の基本構造が、前述の在庫問題と似ていることを指摘しておこう。例えば、在庫におけるEOQ問題や、最適バッファー在庫問題は、インプットがあり、アウトプットがあり、その間のストックないし停滞を問題にする点で、待ち行列問題と共通している。在庫問題では、インプットが材料投入、アウトプットが材料消費、その間に在庫が溜まるが、待ち行列問題ではインプットが顧客の到着、アウトプットがサービスの完了(顧客の退出)であり、その間に行列ができる。
これを図にすると図1のようになります。似ているといえば似ていますが、違っているところもあります。
図1 在庫問題(上)と待ち行列問題(下)
この違いを本書では次のように説明しています。
p242
基本構造は同じだが、待ち行列問題では、インプット(顧客の到着ベース)、アウトプット(顧客の要求による)ともに企業側でコントロールできず、不確実性がともなう。「EOQ」問題では、インプット、アウトプットともに不確実性なしを前提にするし、「安全在庫」問題でも、アウトプットはある程度不確実だがインプットは決定論モデルである。しかし、待ち行列問題では、インプット(到着)、アウトプット(サービス完了)ともに、確率的に与えられる(図6.27)。
図6.27と説明を対比してみますと、EOQ問題は、インプットはオーダーロットで決定、アウトプットは生産ロットで決定されているので不確実性はなし。図では在庫の増減は直線で表している。安全在庫問題ではインプットは決定論モデルなので在庫の山の高さは一定であるが、アウトプットはある程度不確定なので、在庫減少が非線形(曲線)で表している。待ち行列問題はインプットもアウトプットも不確実なので在庫の増減が非線形で表していると、解釈できます。
私なりに表1のようにまとめ直してみました。
問題 | インプット | 在庫 | サービス (ワークセンター) | アウトプット |
在庫問題 | 数量・時期; 計画+バラツキ | 材料・部品・中間品等 | 数量・時期; 計画+バラツキ | |
待ち行列問題 | 客到着間隔; ランダム | 客の 待ち行列 | 開始時刻;available 所要時間;ランダム | 退出; サービス終了後 |
表1 在庫問題と待ち行列問題の比較
表1でわかりやすくなったわけではありませんが、待ち行列問題にはワークセンターがありますが在庫問題にはない、という違いがあることはわかります。なので「基本構造は同じ」という説明がピンときません。
待ち行列問題のインプットは外部からの来客ですので独立したバラツキをもちます。サービスが可能なのはワークセンターが手空き(手待ち)状態のときだけで、またサービス時間は客によって異なります。手空き状態で客がいなければ未稼働状態となり稼働率低下の要因となります。ワークセンターがサービス中のときや待っている客がいるときは、来た客は待つことになります。
在庫問題では、アウトプットは引取る次工程の消費量・パターンなどに依存しますが、インプットは発注方式(定量や定期)や納入リードタイムなどに依存します。インプットのタイミングと数量は発注方式、納入業者、納入手段などによりばらつきます。
ザっとみても、在庫問題と待ち行列問題のインプットとアウトプットは、もの(材料・部品・中間品等)と客という違いだけではなく、数量やタイミングの決定条件がまったく異なることが分かります。従って、在庫問題に待ち行列問題の解法を応用してうまくいくのだろうか、という疑問がわいてきます。
全体的に在庫問題に対する待ち行列問題の位置づけがよくわかりません。両者、構造が似ているといいながら、在庫問題はインプットもアウトプットも決定論モデルであるが、待ち行列問題は確率的モデルであり、適用しやすいのはジョッブショップだがジョッブショップ問題は待ち行列の応用の中では難しいので留意すること、と後ろ向き。結局、待ち行列理論を在庫問題に応用する説明はどこにもありません。
まとめますと、
*在庫問題は待ち行列問題と似ているが、
*在庫のインプットとアウトプットをみると、決定論と確率論の違いがある、
*待ち行列問題の適用例としてジョッブショップ問題があるが、難しい、
*在庫問題に待ち行列問題を応用することは困難、
と藤本教授は考えたのではないか、と推察されます。
でも、まだ疑問は残ったままですぅ、、。
*対トヨタ生産期間比10倍の差を解消できるか?
*連結機構なしの工程間仕掛・在庫をどのように管理するのか?
次回、もう少し深く、斬り込んでみます。