藤本隆宏教授との意見交換

MMRCを立ち上げた元東大;藤本隆宏教授(現早稲田大学)とメールで意見交換をする機会がありました。たまたま読んでいた藤本教授が著した「生産システムの進化論」(有斐閣1997年出版)でわからないところがありましたので、メールで質問をしたことがきっかけでした。

「生産システムの進化論」の出版が1997年と四半世紀前なので、今でも主張するポイントに変わりがないかどうか聞いてみました。

藤本です。「生産システムの進化論」をお読みいただきありがとうございます。4半世紀前の本ですが、主張するポイントは変わっていません。

とのことでした。

藤本教授の説明の中で、おもしろいというか、なじみがないというか、そういう説明がありましたので、紹介しておきたいと思います。

先ず、設計情報転写論について聞きました。

さて、ご質問の件ですが、生産とは、設計情報の転写であるというアイディアは、三菱総研で産業調査をやっていた1980年代前半の思いつきで、現在もこれがものづくり経営学の中心概念となっています。

とのこと。藤本教授の添付資料に次のようなくだりがありました。

当然、製品に最適化した多品種の部品を様々な生産ロットで作りますから、生産ラインも多くは「変種・変量・変流」という複雑な流れになるでしょう。複雑な分岐・交流を繰り返す工程は、ちょっと稼働率が上がると、週末の高速道路同様、すぐに「仕掛品の渋滞」が発生して、納期やリードタイムが長くなってしまう。

このような状況の工場を設計情報転写論で分析するとどのような特徴が出るのか、具体的な事例があればご紹介いただきたい、とお願いしてみました。説明の中にこんなのが。

変動の概念を入れる話ですが、もし佐々木さんが工学系でいらっしゃればお気づきと思いますが、「流れ」が、私のものづくり経営学の中心概念であり、それは、前提条件はいろいろですが、フォード方式も、トヨタ方式も、TOCも全て一緒です。

とすれば、流れを扱う流体力学と結果的に計算式が似てくるわけです。この分野の出身で「渋滞学」を確立した西成東大教授も私は懇意ですが、西成さんのこの本をぜひお読みください。ここに、変動を伴う流れと渋滞、およびその解消に対するヒントが満載されています。ちなみに、彼は「アリはなぜ渋滞しないか」と言う論文で世界的に有名です(笑)。

「前提条件はいろいろですが、フォード方式も、トヨタ方式も、TOCも全て一緒」の説明には、ちょっと、戸惑いました。巷の関連書やWebsiteで調べるとフォード、トヨタ、TOCってどんなものか、それぞれの特徴や違いがわかります。素人の私ですが、「フォードも、トヨタも、TOCも全て一緒」という説明には驚きました。でも、これまでも、名の通った先生方に質問するとこんな感じの答えが返ってくることが、ときどきありました。多分、“忙しいし、素人の質問に詳細に答えても、どうせわからないだろうからザックリと答えておけばいい”ぐらいの感じなのかなぁ~、と。

でも、「フォードも、トヨタも、TOCも全て一緒」の根拠みたいなものはありました。それは、「流体力学」「渋滞学」「西成東大教授」。早速、「クルマの渋滞アリの行列」(西成活裕著2007年7月発行)を入手し、読んでみました。こんな説明があります。

(45ページ)

これまで渋滞学の研究はおもに待ち行列の理論というものを用いてなされてきた。・・(中略)・・しかしこの理論では、待ち行列に並んでいる粒子どうしのぶつかり合い、というものがきちんと考慮されていない。・・(中略)・・

渋滞学で重要視しているのは、前が空いていなければ動けないという、行列が「ゾロゾロ動く感じ」なのだ。これこそが自己駆動粒子の密度増加による渋滞形成に重要な役割をはたす。

待ち行列理論と渋滞学の違いが説明されています。渋滞学では「自己駆動粒子」という概念が必要だが待ち行列理論ではそのようなことは考慮されていない。では、生産ラインではどうか。自己駆動粒子的な概念は、まったく必用ないとは言えないが、あったとしても特殊で限られた条件でのことで、一般的には必要ないのではないか、と思われます。ですから、生産ラインのモデルは待ち行列理論の方が使いやすいのではないかと考えられます。

実際、OR(Operations Research)では生産ラインの解析には待ち行列理論を使っています。離散型生産ラインの分析に流体力学や渋滞学を使っている様子はありません。このことを伝えると、こんな返事が来ました。

待ち行列理論、流体力学、通常の在庫理論、これらは、状況に応じて使い分ければ良いのだと思います。

インプットとアウトプットの間に滞留ができると言う設定だと、インプット量、アウトプット量をそれぞれ確定にするか確率変動させるかで、いろいろな議論が使いますが、これは問題設定に合わせて選択すれば良いと思います。要するに、全部使えると思います。

「要するに、待ち行列理論も流体力学も渋滞学も、全部使える」との説明です。面倒くさいから、このように応えているのではなさそうなので、ストレートに次のような質問をしてみました。

流体力学を生産システムへ応用する方法がピンときません。申し訳ございませんが、簡単な事例でご教示頂ければ幸いです。

例えば、工程がひとつだけの最も簡単な生産ラインがあるとします。注文はランダムに入るとします。その時間間隔が平均30分、処理時間は20分(一定)で、平均生産リードタイム(注文が入って、それが完成するまでの時間)が40分だとします。いま、注文の飛び込む時間間隔が24分となったとします。処理時間は20分で同じとして、平均生産リードタイムは何分ぐらいになるか?(不足、不適切な条件があれば、追加、修正してかまいません)

この問題を、流体力学を利用して解く手順を教えていただければ幸いです。

次のような返事が来ました。

私の言い方が不正確だったようで、恐縮ですが、流体力学的なアナロジーが使えるだろう、と言う文系的な表現であり、数式がそのまま使えるという話ではありません。

「文系的表現で、流体力学的アナロジーを使った」という言い訳。ということは、藤本教授の専門は技術・生産管理としているが、専門分野の中枢である生産ラインの特性をきちんと理解できていないのではないか、という疑問が湧いてきます。

ちょっと、信じられないはなしになってきました。

藤本隆宏教授のプロファイルを再度確認してみます。

1979年東京大学経済学部経済学科卒業、同年三菱総合研究所入社、1989年ハーバード大学研究員、1990年東京大学経済学部助教授、1998年東京大学大学院経済学研究科教授、2004年ものづくり経営研究センターセンター長。2021年早稲田大学大学院経営管理研究科教授、専門は技術・生産管理、進化経済学。トヨタ生産方式をはじめとした製造業の生産管理方式の研究で知られる。著書に『製品開発力』『生産システムの進化論―トヨタ自動車にみる組織能力と創発プロセス』『能力構築競争』『ものづくりからの復活』『ものづくり成長戦略』『現場から見上げる企業戦略論』など多数。

「生産ラインの特性を流体力学(渋滞学)で計算する手順を聞くと「文系的な表現」だと、そして「フォード方式も、トヨタ方式も、TOCも全て一緒」だとうそぶく。さらに「待ち行列理論、流体力学、通常の在庫理論等は、状況に応じて使い分ければ良い」のだと、、。

生産ラインの特性の理解なくして、「トヨタ生産方式をはじめとした製造業の生産管理方式の研究」なんかできるんでしょうか。生産ラインが動くメカニズムも知らないで、技術・生産管理が専門だと自称する大学教授がいるでしょうか。生産ラインの特性を無視して書いた多数の著書はどのような内容になっているのか、ものづくり経営研究センターをどのようにリード、運営してきたのか、、、

次々とほとばしる疑問。調べてみましょう、っと、、。


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