早速、動いた「ものづくり経営研究センター」だが、

文部科学省が推進する「21世紀COE(Center of Excellence)プログラム」の一環として、2004年4月、東京大学大学院経済学研究科に「ものづくり経営研究センター」が設立された(センター長は藤本隆宏教授)。

早速、「ものづくり経営研究センター」を中核に「統合型ものづくりシステム」の一般体系化を目指した活動を開始した。それを伝える「日経ものづくり」2004年6月号にこんな記事がある。(84ページ)

東大、トヨタら13社と共同で日本のものづくりの強さを探る
各社の仕組みを体系的に整理、他企業での活用目指す

東京大学とトヨタ自動車やキヤノンら複数の大手メーカーが,日本のものづくりの強さを探る研究に乗りだす。2004年4月に,東京大学と10社余りの民間企業で構成する「ものづくり経営研究コンソーシアム」が発足,同大学大学院経済学研究科が主催する「ものづくり経営研究センター(MMRC)」を中核に「統合型ものづくりシステム」の一般体系化を目指して活動を開始した。

 統合型ものづくりシステムとは「トヨタ生産方式やTQCなど日本企業が編み出した強いものづくりの仕組み」(MMRCセンター長である東京大学教授の藤本隆宏氏)を指す。開発・購買・生産・販売が相互に協力して,緩やかな連携を保って業務を進め,高い製品品質を確保するものだ。

 2004年5月上旬時点での参加企業は,上記2社と旭硝子,アサヒビール,オムロン,サンスター,シャープ,セイコーエプソン,ソニー,日産自動車,ホンダ,松下電器産業,三菱重工業の13社。ほかに大手電機メーカーも参加を検討しているという。

 当面の最大の目標は「各社版のものづくりマネジメント教本を作ること」(藤本氏)にある。MMRCの研究員とともに,各社が派遣する1〜3人程度の非常勤共同研究員が,2005年度末までに自社のものづくりの仕組みを調べるというものだ。

 各社版の教本の作成を通じて,日本の得意とする統合型ものづくりシステムが,製品カテゴリや業種・業界によってどのように違うのかを見極め,知識体系として一般化。他メーカーで活用できるようにする。

 参加各企業は,他社の調査資料の一部を閲覧できる。ただし,調査では各企業のノウハウに触れるため,参加企業各社と東大が守秘義務契約を結ぶなどして情報漏えいを防ぐ手だても講じるという。

 また,参加企業が共通して抱える幾つかの課題を「特定テーマ研究」として取り上げる。少人数のチームで,各テーマの現状分析や対応策の検討などを行う。現在「日本企業の現場の特徴研究」「3次元CAD/CAM/CAEシステム研究」など10以上のテーマが候補に挙がっている。

早速「統合型ものづくりシステム」体系化実現に向けた動きが始まった。統合型ものづくりシステムとは「トヨタ生産方式やTQCなど日本企業が編み出した強いものづくりの仕組み」である。

集まった企業は確定しているだけでトヨタ自動車、キヤノン、旭硝子,アサヒビール,オムロン,サンスター,シャープ,セイコーエプソン,ソニー,日産自動車,ホンダ,松下電器産業,三菱重工業の13社。日本のものづくりを代表するそうそうたる企業である。

記事のポイントをまとめると次のようになる。

  • 「各社版のものづくりマネジメント教本」を作り、知識体系として一般化する。
  • 参加企業が共通して抱える課題を取り上げ、少人数のチームで,各テーマの現状分析や対応策を検討する。
  • 参加各企業は,他社の調査資料や作成した資料を閲覧、活用できるようにする。
  • 各企業のノウハウに触れるため,参加企業各社と東大が守秘義務契約を結ぶ。

政府の後押しを受けて東大が動く、まではいいが、この中身で果たしてうまくいくのか。参加企業にとっての具体的なメリットはあるだろうか。参加企業の中にはトヨタ、日産、ホンダやソニー、松下、シャープなど、競合関係にある企業が含まれる。トヨタがトヨタ生産方式の機微なノウハウを日産やホンダに開示するだろうか。守秘義務契約があったとしても、ほとんど効果はない。大学の先生方の“世間知らず”にあきれるばかりだ。

時代は少し遡りますが、1980年初めに“異業種にトヨタを導入”する目的で、NPS(ニュー・プロダクション・システム)研究会が誕生しました。「電気製品や蒲鉾も自動車と同じ生産方式(トヨタ生産方式)で行えば、合理化が出来る」という考えのもとに、ウシオ電機、オイレス工業、紀文食品、、、などが中心となった、30社あまりの企業集団です。支援したのが、トヨタ生産方式生みの親、大野耐一とその弟子、鈴村喜久男。

NPS研究会の入会条件のひとつが「一業種一社」。メンバー企業の中に同業社があれば、原則、入会はお断わり。お互いの企業の現場で改善活動を行い、率直な意見をぶつけ合う。困ったことなども赤裸々に話し合う。同業他社がいたのでは、情報交換がうまくいかないとのことで「一業種一社」というおきてをつくった、とのこと。

で、「統合型ものづくりシステム」はどの程度できあがったのか。その後どうなったのか、の痕跡は、どこを探しても見つからない。東京大学の「ものづくり経営研究センター(MMRC)」のWebsiteにも、関連する記述はない。間もなく、立ち消えになったのでしょう。

スタートからつまずいたMMRC。現在も存在し、活動中です。発足から約20年。失われた10年からの脱却をと、政府の後押しで動いたMMRCでしたが、日本のものづくりはその後も停滞したまま。失われた10年は、20年に、そして30年に、、。

MMRCを率いる藤本隆宏教授は、2021年から早稲田大学大学院経営管理研究科に移り、ビジネス・ファイナンス研究センター研究院教授として活躍している。専門は技術・生産管理、進化経済学。トヨタ生産方式をはじめとした製造業の生産管理方式の研究で知られる。

政府の後押しを受けた東京大学、率いるは技術・生産管理を専門とする藤本隆宏教授。支援者も舞台も、そして役者もこれ以上はない。

日本のものづくりの停滞が10年を超えるころ、それからの脱出を期待されたMMRC、そしてMMRCを率いた藤本隆宏教授が発進した情報を追い、学ぶことはないのか、探ってみたい。

出だし早々にずっこけた「統合型ものづくりシステム」体系化へのチャレンジ。日本を代表する企業に声をかけ、リーダーシップを発揮したところまでは良かったが、中身は世間知らずの“ぼんぼん”が書いた実現不可能な台本。その後は、もう少し、マシなシナリオが出てくることを期待して、、。


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