ガラパゴス化する日本の工場管理

1970年代~1980年代、日本はつくれば売れる環境でモノづくりをしていました。代表的な製品は家電。次から次と新商品が出てきて、世界の市場を席捲しました。

1990年代に入ると市場環境は一変。売れるモノしかつくってはいけない時代に。

組織の隅々にまで浸み込み定着した高度成長期モノづくりの成功体験。その経験則が、売れるモノしかつくってはいけない生産環境ではどうだったのか。

失われた10年が20年に、そして30年・・・

“できるだけたくさんつくる”という経験則は“売れるモノだけをつくる”生産環境ではまったく役に立ちませんでした。役に立たないどころか、足を引っ張ることに。

悲しいかな、そのことにも気づかず、ひたすら“量産効果”ベースの改善に日夜奮闘。昔のような改善効果はでてきません。やる気がないからだ、と大声をださせる改善コンサルも登場。しかし30年たっても、さしたる効果もなくジリ貧の坂道を下り続けています。

生産管理・工場管理の仕組みも“古いまま”。IT技術が格段に進歩しましたが、考え方は50年前と同じ。

象徴的なのがAPS/生産スケジューラ。

MRPは時間粒度が粗く大雑把。時代は、多品種少量・変量生産。きめ細かなスケジュールができるAPS/生産スケジューラは次代の本命。2000年初め、期待が膨らみ、日本でちょっとしたブームが起きました。

APS/生産スケジューラの時間粒度は“秒”。月、週、短くても日のMRPとは雲泥の差。APS/生産スケジューラで“停滞する日本の製造業復活”を、と。単なるお題目ではなく、“もしかすると実現するかも”・・・という雰囲気もありました。

しかしこの20年、日本の生産管理・工場管理は欧米に追い付くどころか、ますます遅れをとっております。なぜか?

少々、問題発言的表現で恐縮ですが、APS/生産スケジューラに固執したから・・・。

欧米では20年も前に「APS/生産スケジューラは使いものにならない」と結論付け、ベンダーの大部分は姿を消しました。

日本では、APS/生産スケジューラ・ベンダーは何社あるのかな? 正確にはわかりませんが20~30社はありそう。

APS/生産スケジューラに固執する背景って、何なんでしょうね。日本の文化的背景もあるかな?

例えば、日本の鉄道の時間の正確さ。海外からは称賛の声もある一方、驚きの声も。

“「JR電車が25秒早く出発した」ことを謝罪というニュースに全世界が騒然!”

異次元的です。

MRPの粗い時間粒度がAPS/生産スケジューラでは“秒”単位になる。これって日本人には受けるんでしょうね。

“日本の鉄道の時間管理は世界一”、であれば、“日本の生産の時間管理は世界一”も実現できるのでは、、。

そう思う方が多いんでしょう。IT技術もあるし・・・。

APS/生産スケジューラ・ベンダーの宣伝広告。見てみてください。見込生産、受注生産なんでもゴザレ。秒単位まで正確なスケジュール、即座にリスケジューリング、、と万能ぶりを喧伝。

このほとんどは“うそ”。これを“うそ”と見抜ける人は日本にはいないようです。専門家の言うことは“みな正しい”って思う。これも“日本人的”だなぁ~。

専門家、ここではAPS/生産スケジューラの開発会社、販売会社、工場改善コンサル、生産管理関係システムエンジニア、学会、大学教授・・・たちの発信情報を信じる方が多いですよね。信じないまでも、異論を唱えることはほとんどなし。和を尊ぶ日本人ですから、、。

この専門家たち、こちらも日本人的というか、情緒的というか、、誤解を恐れずに言えば非科学的。何人かの専門家とおぼしき方々にAPS/生産スケジューラの原理的問題点を指摘しましたが、建設的な反応が返ってきた方は1人もなし、、皆無。

Asprovaの返答もFlexscheの反応も、的外れなものばかり。トーテックアメニティ(株)、この会社、Asprovaの生産スケジューラを扱っているので、

「APSで生成したスケジュールは、実際の現場で、実行可能ですか?」

と質問してみたんですが、回答はなし。「Yes」とは答えられないんでしょうね。APSは使いものにならない、と感じているのでしょうか。でも、きれいごとを並び立てて販売に躍起。この会社のモラルを疑ってしまいます。

日本国内、もう少しひろく日本文化圏では、APS/生産スケジューラを開発する人も売る人も、コンサルタントも使う人も、「ほんとに使えるの?」と疑問は持ちながらも、一方では「うそ」とわかる情報はみてみぬふりをして、関わりを避け、否定的意見を発し、場を壊すことも好まず、、、そんな環境でAPS/生産スケジューラは生き続けているのです。

APS/生産スケジューラに日本生産大国復活の重荷を背負わせ、実現することのないまぼろしを思い浮かべながら、仲間同士キズをなめ合い、しかし、日夜東奔西走し努力する。世界視野から俯瞰すれば、日本は、時代の本流から外れ、ガラパゴス化しているようにみえるのではないでしょうか。


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