生産ラインの基本原理も理解していないまま生産スケジューラを開発し、万能であるかのごとき誇大広告を拡散し売りまくる。ベンダーが言うように“きれいに”使っている企業はほとんどなく、大部分の企業では、ほこりをかぶったまま、部屋の片隅に放置しているのが実情のようです。
では、このような問題に敏感であろう工場管理の専門家はどのように考えているのでしょうか。
専門家が集まっているサイトがあります。
製造業の問題解決を支援する 日本最大級のポータルサイト
製造業の問題解決を支援する多数の専門家(コンサルタント、大学内専門家、企業内専門家、退職した専門家)が登録されているとのこと。それぞれの専門分野で、実務に沿った実践的な問題解決策を提案しています。このサイト、メディアにも頻繁に紹介されており、日本の生産・製造技術に関する最新情報を発信しているようです。
あるページに着目してみます。
以下に抜粋します。
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(5)リードタイムの大半が待ち時間となっている
部品加工会社の製造リードタイムについては実際に加工している正味製造時間を積算した合計時間をイメージする人が多いようです。そうした人は正味製造時間の短縮活動を進めたり、IoT システムで製造時間管理を徹底したりすればリードタイムも削減できると考えがちです。
図2.製造リードタイムと待ち時間
ところが、部品加工工場の正味製造時間はリードタイム全体の10~30% 程度に過ぎません。残りの時間は図2に示した何らかの待ち時間(滞留時間)などです。
生産管理システムを使って製造リードタイム短縮や納期遵守率向上を目指す場合は、製造時間以上に待ち時間の管理が重要となります。
<中略>
工場関係者やコンサルタントの中には、加工時間を短縮さえすれば製造原価が安くなり利益が増えると思われている方がおります。これは大きな誤解です。
<中略>
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ポイントは、
「製造リードタイム短縮や納期遵守率向上を目指す場合は、正味製造時間以上に待ち時間の管理が重要となります」
という辺りでしょうか。
この考え方に100%同意します。で、待ち時間の内訳(図2)で気になる項目が二つ。
「ワーク待ち時間」と「工程待ち時間」
「ワーク待ち時間」は、多少語句を補って、“製造工程が前工程から流れてくるワークの到着を待っている時間”。「工程待ち時間」は“製造工程前にあるワークが、その工程が空くのを待っている時間”、と説明されています。何が(誰が)待つのか、主語をはっきりさせて、次のように表現します。
「ワーク待ち時間」は、「工程がワークの到着を待つ時間」。これは工程が処理可能だが、ワークがなくて“手空き”の状態だ、ということですので「手空き時間」または「手空き」と表現します。
「工程待ち時間」は、「ワークが工程の空きを待つ時間」。これは「待ち時間」または「待ち」と表現します。
上記の説明では、「手空き時間も「待ち時間」も製造リードタイムに含まれていると説明されています。「手空き時間」が長くなっても、「待ち時間」が長くなっても製造リードタイムは長くなる、ということになりますが、、、。
実は、これが大間違い!
ちょっと、考えてみましょう。
A、B、Cの3つの工程が直列に繋がった生産ラインを例にします(Fig.1参照)。工程Aの正味製造時間は10分、工程Bのそれは15分、工程Cは12分とします(バラツキはないとします)。投入から完成までの製造リードタイムは何分になるでしょうか? 工程間の移動時間などその他の時間はゼロとします。
Fig.1 3工程直列生産ライン
常識的には、10+15+12=37(分)。でも、いつもこうなるとは限りません。ワークの投入時間間隔によってはそうならないことがあります。
ワークの投入時間間隔を15分としてみます。Fig.2をご覧ください。
Fig.2 投入時間間隔が15分のとき工程の流れ
ワーク1、ワーク2、ワーク3が15分間隔で投入されます。ワーク1は0分に投入され、工程Aで処理が終わるのが10分。同時に工程Bで処理が開始され、終わるのが25分。工程Cでは25分に処理が始まり37分に終了し、完成となります。
ワーク2は15分に投入され工程Aでの終了時刻は25分。工程Aはワーク1の処理が10分に終了してワーク2の処理を15分から始めますので、5分間の手空きが生じます。工程Aでワーク2の処理が終わるのが25分。その時工程Bはワーク1の処理が終わりますので、ワーク2の処理を直ちに開始し、終了するのが40分。工程Cでは、ワーク1の処理は37分に終わっていますので3分手空きとなり、40分からワーク2の処理を始め52分に終了し、完成します。ワーク2の処理開始時刻は15分、完成が52分ですので製造リードタイムは37分となります。以下同様です。
それでは次に、ワークの投入時間間隔を20分にしてみます。Fig.3をご覧ください。
Fig.3 投入時間間隔が20分のとき工程の流れ
ワークの投入時間間隔が15分から20分になることによって工程Aの手空き時間が5分から10分と長くなりました。工程Bでは15分のときは、手空きはありませんが20分になると5分の手空き時間が発生します。工程Cの手空き時間も3分から8分と長くなります。
では製造リードタイムはどうなるでしょうか。Fig.3をみてわかるように、製造リードタイムはワークの投入時間間隔が長くなって手空きが長くなっても、37分で変わりはありません。手空きがいくら長くなっても製造リードタイムは長くならないことは明白です。
これで図2の説明は“間違い”であることをご理解いただけたと思います。
では、ワークの投入時間間隔を10分にしてみましょう。その時の工程の流れの一例をFig.4に示します。
Fig.4 投入時間間隔が10分のとき工程の流れ
工程Aの処理時間が10分ですので、ワークが10分間隔で投入されれば手空きはなくなります。ところが工程Bの処理時間は15分ですので、ワーク1は待たなくてもいいのですが、ワーク2は工程Bの前で5分、ワーク3は10分、待たなければなりません。工程Bの手空き時間は無くなりますが、工程Cでは、工程Bから出てくるワークの時間間隔が15分であるのに対して処理時間が12分なので、3分の手空きが発生します。
製造リードタイムをみてみましょう。ワーク1の投入が0分、完成が37分で製造リードタイムは37分。ワーク2の投入が10分、待ち時間5分が加算され完成が52分で製造リードタイムは42分。ワーク3は投入が20分、待ち時間が10分で完成が67分で、製造リードタイムは47分となります。Fig.4をみてわかりますように、その後ワーク4、ワーク5、、が10分間隔で投入されれば、製造リードタイムはどんどん長くなります。
簡単にまとめますと、
- 手空き時間が長くなると稼働率が低くなる
- 待ち時間が長くなると製造リードタイムを長くなる
ということになります。
実は、この現象、生産ラインの基本を理解する上で、極めて重要な特性なんです。これを理解せずして“製造業の問題解決を支援する”なんておこがましい限りです。専門家足りえません。
単なる“Careless Mistake”でしょうか。「ものづくりドットコム」に登録されている専門家の解説記事に目を通してみましたが、「手空き」と「待ち」を識別して製造リードタイムや稼働率に言及している専門家はみあたりません。現在の「日本の生産・製造技術」を支える専門家のレベルだ、と考えると、寒気がしてきます。
生産スケジューラの開発者・販売者は生産ラインの基本原理を理解していないのではないか、との懸念を申し上げました。ところが、ところが、生産スケジューラの開発者・販売者だけにとどまらず、製造業の問題解決を支援する多数の専門家(コンサルタント、大学内専門家、企業内専門家、退職した専門家)も生産ラインの基本原理を理解していないようなのです。
“電流と電圧”を区別できない電気技術者、“歯車とベアリング”を区別できない機械技術者、、うーん、、うまく例えられません、、、。でも、それぐらい致命的な欠陥だと思うんですが、、、。