前回のA社の事例、、。氷山の一角かなぁ~って思う方が多いと思いますが、そうでもありません。私もいろいろな工場をみてきましたが、似たような事例が、、いっぱいありました。思い返せば、今始まった話ではありません。昔から同じようなはなしが延々と、、。生産スケジューラにまつわる社会現象かな。少し、調べてみましょう。
このような問題を分析するのに様々な方法があります。ビッグデータを集めてAIで分析、なんていうのは今流ですね。ここでは、超古い、というか、昔からある定番的方法で分析してみようと思います。弁証法とかTRIZとか、TOCに共通した方法です。いずれも問題の解決を目指しています。簡単に言いますと、問題の根本原因を対立の構図で捉え、その対立を解消する条件を見つけ、それを実現する、という方法です。
では早速、生産スケジューラに関する問題を対立の構図にまとめてみましょう。生産スケジューラの問題に関連する最も基本的な制約的性質は、“固定時間しか扱えない”ことではないかと思います。一方、現実は、ランダムに飛び込むオーダは指数関数的カーブで変動する待ち時間を誘発し、それに作業時間のバラツキが加わります。変動する時間を固定時間でどのように扱えばいいのか、これが課題であり、問題です。これを簡単に、
「固定時間」vs「変動時間」
と表しておきます。この対立が原因で、様々なことが起きますが、大きく分けると、
生産スケジューラは、
(イ)使える
(ロ)妥協して使う
(ハ)使えない
の3つ。
例えば、A社の場合。生産スケジューラの導入はうまくいきませんでした。つまり、(ハ)。その後、“かけ込み寺”に相談して、限定的に使うことで落ち着いたようです(ロ)。経験的に言えば、大部分は“限定的にだましだまし使う(ロ)”か“生産スケジューラ導入失敗(ハ)”に分類されるのではないかと思います。
生産スケジューラがまったく使えないか、というとそうでもありません。ちゃんと使えている工場もあります。どんな工場かと言いますと、代表例は半導体工場。多品種・受注生産ですが、生産スケジューラがないと動かない、というぐらいの活躍です。それは、半導体の製造プロセスは専用装置で構成されており、仕様が決まれば装置での処理時間が決まり、実際の作業もそれほどのズレもなく行われるからです。対立構造でみれば、「変動時間」の変動が非常に小さいために、対立が起きない、起きてもごくわずか、と解釈できます。
生産スケジューラを使ってメリットがあるかどうか、の視点を入れて分けると次のようになるんじゃないか、と。
1、生産スケジューラは必須
2、多少問題はあるが、限定的、部分的に使いこなしている
3、生産スケジューラは使っているがメリットなし
4、まったく使えない
1と2はメリット有。3と4は使うメリットはなし。それぞれ、どれぐらいの割合か。調べてみたんですが、データは見つかりませんでした。私的経験的に、そして無責任にザックリと言えば、生産スケジューラの導入を行った工場(生産スケジューラとかかわりのない工場は含まない)を母数にして上から、1は1割、2は2割、3は3割、4は4割。切りが良すぎますかね。
「革新的生産スケジューリング入門」著者;佐藤知一、2000年4月初版の184ページに「スケジューリング問題のパラダイム」という図があります。そこにはこんな説明があります。
“古典スケジューラは、決定論的問題(作業時間等はすべて計画通り)、静的問題(すべてのオーダー情報が事前にそろっている)が前提の静的な最適化。”
“APSは、確率的問題(作業時間等は確率的に変動する)、動的問題(オーダーが次々飛び込んでくる)が前提の動的な適応制御。” 注)APS;Advanced Planning and Scheduling
対立図に戻ります。
「固定時間」vs「変動時間」
ここでの[固定時間]とは、上記の説明にある“古典スケジューラ”の特徴です。それがAPSになると[動的な適応制御]になります。そうなるともはや対立は消え、問題は完璧に解決されることになります。
この本を読んだとき、「生産スケジューラ問題はそのうち解決するんだ」と思いました。
あれから、20年! IoT、AI、第4次産業革命だとすっかり世の中変わりました。APSもさぞかし進化したかな、と思って、「APS 先進的スケジューリングで生産の全体最適を目指せ!」2001年12月の著者、西岡靖之氏に聞いてみました。返事は、
APSについては、あまり進歩はないようですね。
特に確率論的なアプローチはあまり聞きません。
佐藤知一氏には、APSが「動的な適応制御」が可能かどうかの確認のため、次の質問をしてみました。
=====
「確率的に変動する作業時間でスケジュールした場合、作業の開始時刻や終了時刻はどのようになるのでしょうか」
=====
残念ながら、質問に対する答えはどこにもありません。「適切な生産マネジメント」とか「場合によります」とか。末尾にはこんなフレーズで締めくくられていました。
「学んで思わざるはすなわち暗し、思うて学ばざればすなわち危うし」ーー
ご自身に向かってのお言葉なんでしょうか? すっかり、はぐらかされてしまいました。わかったことは、APSは20年たっても“古典スケジューラ”のままだった、こと。APSって、Advanced Planning and Schedulingではなくて、Ancient Planning and Schedulingじゃないでしょうか。
「固定時間」対「変動時間」の対立構造は今も健在です。この対立が引き起こす現象をみてみましたが、注意深くみると、少し違った現象も起きています。A社の事例でもそれらしき影が垣間見られます。A社とはどんな会社か、記事の著者に聞いてみました。
「スケジューラ以前に現場がシステムからの指示を無視して自分たちの都合で製造順序を変えて製造しているという状況」
佐藤知一氏のメールにはこんな説明が、
「標準作業時間の概念も存在せず、作業時間の実績値をとる仕組みもないような管理レベルの現場に、生産スケジューラを入れる価値がないことは、ほとんど自明だと思います。」
「管理レベルの低い工場」に生産スケジューラを導入する話です。対立構造からみると、管理レベルは低く、作業時間はバラツキ、工程管理はなっていない、、ということですので「生産スケジューラは使えない」(上記分類4)、となる単純なケースのはずなんですが、、。
私もいろいろな工場をみてきました。「管理レベルの低い工場」が多かったように思います。でも生産スケジューラは入っている。しかし、うまく動いているところはほとんどなし。眠ったままになっているんです。「なんで、スケジューラを入れたんですか?」と聞くと、こんな応えが、、、。
「生産管理、工程管理などの管理体制を構築するためには、マネジメントツールである生産スケジューラを導入する必要がある、と言われた」
んだそうです。うまく動かないことがわかると、
「御社は管理うんぬん以前で、生産スケジューラを使いこなせるレベルにはありません」
と言われておしまい、だったとのこと。
生産スケジューラベンダーの“どのような生産体制でも対応できます”的な誇大広告、「生産スケジューラはマネジメントツールです」などのセールストーク。固定時間しか扱えない弱点を覆い隠し、「生産スケジューラで管理体制の骨組みをつくることができます」とたたみかける。無垢な中小企業を落とすのにたいした時間は要しません。うまくいかないことはわかっておりますので、ちゃんと、後始末の言葉も用意されています。「御社は管理うんぬん以前で、、、」。
生産スケジューラの導入がうまくいかなかったA社、代理店に相談すると、「問題は生産スケジューラではなくA社の業務にあるので、手の打ちようがない」といわれて、、、。
「管理レベルの低い工場」は生産スケジューラベンダーのお得意さん?