先月、ある生産スケジューラ・ベンダーから「生産スケジューラソフトウェア代理店募集」のメールが届きました。代理店をやるつもりはありませんでしたが、最新の生産スケジューラってどんなものかな、何か新しい機能でも加わったのかな、と多少の期待もあって、ちょっと、メールのやり取りをしてみました。メールの回数が増えるにつれ、的外れな応えが多くなり、がっかり。何も変わっていませんでした。IT技術が飛躍的に進歩しても、その技術を取り入れることもなく、生産スケジューラは“発達障害”を患っているようです。
そんな折、Webをググっていたら、こんなのが目に留まりました。
「AIブームで脚光浴びる生産スケジューラ、ベンダーの宣伝に踊らされるな」(日経コンピュータ 2017年6月8日号)
この記事を手掛かりに、生産スケジューラが“化石化”する根本問題に迫ってみたいと思います。
記事の要点をまとめますと、次のようです。
[現状]A社はMRP/生産管理パッケージを使っていた。金属製品の受注生産を主体とするA社では、見込み生産を前提とするMRPのロジックは、適合しにくい。このため生産計画機能は有効に使われておらず、作業指示書の発行、生産実績管理が中心だった。
[スケジューラ導入]生産スケジューラの導入を考え始めたきっかけは、営業部門からの納期改善要求である。納期短縮のため、詳細な計画を策定できる生産スケジューラの導入を企画した。 業務知識がある代理店に導入のサポートを依頼し、比較的スムーズに導入自体は完了した。
[導入結果]導入した生産スケジューラを使ってみたものの、期待されたような納期の短縮は実現できなかった。むしろ以前よりも納期が長くなるケースが頻発したり、欠品が増えたりした。
何とかならないかと代理店に相談すると、「問題は生産スケジューラではなくA社の業務にあるので、手の打ちようがない」という回答であった。
A社の事例に似た話は、よく聞きます。簡単に、次のようにまとめてみました。
「現状」
受注生産が主体のA社は、MRP/生産管理パッケージを使っていた。
「スケジューラ導入」
納期短縮のため、詳細な計画を策定できる生産スケジューラの導入を企画した。
「導入結果」
納期の短縮は実現できなかった。むしろ以前よりも納期が長くなるケースが頻発したり、欠品が増えたりした。
「納期短縮のため生産スケジューラを導入したら、かえって納期が長くなり、欠品が増えた」ということですね。はたからみれば、“笑い話”なんですが、生産スケジューラに関するこの手の話って、昔からあって、減るどころか、増えてるんじゃないか、という感じがします。
「前よりも悪くなった」という目前の問題を解決する手っ取り早い方法は、元に戻すこと。前の状態の方が良かったわけですから、、。これが最も簡単な方法、、。
医者がくすりを処方して、症状が悪化したら、そのくすり、すぐにやめるんじゃないでしょうか。常識だと思うんですがね、、。
ところが、生産スケジューラの場合は、簡単にそうはいかないようなんです。
“何とかならないかと代理店に相談すると、「問題は生産スケジューラではなくA社の業務にあるので、手の打ちようがない」という回答であった。”
とのこと。このあたりが普通の商品と違うんですね。普通の商品だったら、使ってみて使えなかったら、“返品”してお金を返してもらうとか、別の新品と交換するとか、ですよ。生産スケジューラに関しては、導入した顧客の方に問題があるんですね。
というわけで、A社で解決策を模索することに。何が原因なのか。問題分析に取り組みました。
[問題原因分析]納期を短縮するために工場全体で何をするべきかを、原点に戻って検討し直すことにした。
- 毎月1回、部署横断の検討会を開催。
- 検討会では最初に、なぜ生産スケジューラが計画した通りに生産できないかを議論した。各部署からは次のような意見が上がった。
(1)A社の製造方法では、標準加工時間と実加工時間を一致させることが難しい
(2)機械のチョコ停やセットアップ要員の調整などのため、生産計画通りに工程が進まないことが多くある
(3)工程計画立案のベースにしているMRPのリードタイムは日単位でしか設定できず、時間単位の実用的な生産計画が作れない
(4)安全在庫を持てる標準品と、材料調達を伴う特注品のうちどちらの納期対応を優先させるのかはっきりしない
(5)製造現場は指示書の指示日はあてにならないと考えており、前工程から来た順に製造している
現場の様子がよくわかりますね。で、A社のとった“解決策”は、、。
[解決策]
- 何度もPDCAサイクルを試行しながらたどりついたA社の生産スケジューラの運用基本方針は、納期遅れの原因になりがちな「ネック工程」を定め、そこは自動ではなく手作業で負荷を調整する。
- ネック工程より後の工程の完了日と、前の工程での着手日はそれぞれ生産スケジューラで自動計算し、納期を決定する。実際の生産では、ネック工程以降は工程に到着した順番で製造するようにする。
- 従来は生産管理システムが計画したリードタイムを基に最初の工程の開始日を設定していたが、ネック工程の負荷オーバーのため納期遅れが頻発していた。そこで、ネック工程は人間が手作業できめ細かく管理することで、影響を最小限に抑えるようにした。ネック工程に変更があれば、前後の生産計画は生産スケジューラで自動的に組み直す。
解決策の要点は、
「ネック工程は手作業で管理し、前後の非ネック工程はスケジューラで計画作成」
ということでしょうか。
ちょっとだけ、じっくり、考えてみましょう。
「納期短縮のため、詳細な計画を策定できる生産スケジューラの導入」を決めたんですよね。つまり、納期の主要部分である生産リードタイムを短縮するために、生産スケジューラを導入した。生産リードタイムの中で一番長い時間がかかるのは、仕掛が滞留するネック工程。生産リードタイムを短縮するためには、ネック工程のスケジュールを詳細に組む必要がある。
ところが、解決策は、
「ネック工程は手作業で管理」。
非ネック工程は、
「前後の非ネック工程はスケジューラで計画作成」。
「実際の生産では、ネック工程以降は工程に到着した順番で製造するようにする」のであれば、生産スケジューラはいりませんよね。非ネック工程は仕掛が滞留する時間は短いので、生産スケジューラを使ったからといって、生産リードタイムの短縮にどれほど有効か、はっきりしませんね。ですから、ネック工程前の非ネック工程も工程に到着した順番で製造すればいいんじゃないでしょうか。
簡単にいうと、ネック工程も非ネック工程も生産スケジューラはいらない、ということになりませんか。
「新たな運用基本方針により、A社の標準納期は標準品が平均30日から平均10日、材料調達を伴う特注品は平均60日から平均40日に短縮できた。」
生産スケジューラ導入後の納期が基準なのか、導入前の納期が基準なのか、はっきりしませんが、とりあえず、良い結果が出て、“めでたし、めでたし”としておきましょう。次回、もっと掘り下げて考えてみたいと思います。