囲碁ファンにとって最近、気になるニュースが二つ。「仲邑菫(なかむら すみれ)初段が、史上最年少の10歳でプロ棋士になった」、というのと「GLOBIS-AQZプロジェクトが始動、囲碁AI(人工知能)世界一と若手棋士育成を目指す」というニュース。前者は、日本棋院の英才特別採用推薦棋士 第1号。GLOBIS-AQZプロジェクトとは、2018年9月に発足した囲碁AIの開発プロジェクト。グロービスが主体となり、トリプルアイズと山口祐氏による共同開発、日本棋院の協力の下、若手囲碁棋士育成を行い、また産業技術総合研究所と「高性能計算機を用いた強化学習モデルの最適化に関する研究」を共同で行うというもの。
背後で何が起きているのか。若手棋士育成に力を入れなきゃいけないのは、なぜなんでしょうか。日本棋士の実力のほどを調べてみました。
この棒グラフは、囲碁世界ランク100位以内の、日本、韓国、中国を拠点とするプロ囲碁棋士の内訳です。1980年から2019年4月までにどのように変わったかを示しています。1980年代前半は、日本が圧倒していました。1980年~82年までは1位~3位までを独占。その後(1983年)1位の座を韓国に譲ってから日本人棋士の人数が減少し続け、1985年には3位内にいなくなりました。韓国は2014年まで1位の座をキープし、その間1位~3位を独占した時期もありました。2015年に中国が1位の座に付き、以後、中国と韓国の2強時代が続いています。
日本だけをみれば、井山裕太棋士が7冠を達成し(2016年、2017年)、圧倒的な強さを見せていますが、世界ランクでみれば、2016年の6位が最高で、現在(2019年4月12日)は34位。2008年以降、100位以内に日本は10人以下。これが日本囲碁実力の現状です。
で、冒頭の二つのニュース;若手囲碁棋士育成策が出てきたわけです。キーワードは「若年」と「AI」。「若年」については昔から言われていたことで、囲碁に限った話ではないのですが、「AI」は、今風ですね。ということで、囲碁とAIとの関連について調べてみました。
先ずはチェス。1997年5月、当時のチェスの世界チャンピョンが、IBMが開発したDeep Blueに2勝1敗で敗れました。Deep Blueの開発が始まったのは1950年頃だそうで、結構な年月を要したんですね。
日本では将棋と囲碁が盛んです。将棋AIの開発が始まったのが1974年頃だそうです。その後様々な場面で将棋の“AI vs人間”の対戦が繰り広げられてきましたが、記憶に残っているのは、2011年12月、2012年1月の2回、米長邦雄永世棋聖がボンクラーズと対戦し、2戦2敗。そして、AIの勝利を決定づけたのは、2016年4月、5月に行われた第1期電脳戦。Ponanzaが山崎隆之八段に2戦2勝。翌年2017年4月、5月におこなわれた第2期電脳戦では佐藤天彦名人に2戦2勝。これで、将棋の“AI vs 人間”の勝敗は決しました。
囲碁ではどうでしょうか。将棋は日本以外にプロ組織がないので日本だけの話ですが、囲碁のプロ組織は、韓国、中国、台湾、アメリカ、ヨーロッパにもあり、世界が基準。
囲碁AIの開発は1962年頃、始まったようです。囲碁はチェスや将棋と比べ、盤面が広く手順が長いので変化が多い。チェスが10の120乗、将棋が10の220乗、囲碁が10の360乗だそうです。また、囲碁は状況や場合ごとに石の価値が変化するので、それをコンピュータに認識させるのが難しいようです。そんなこともあってか、4~5年前まではアマチュアの初段レベルがやっと、とのこと。
2015年10月、ディープマインド社が開発したAlphaGoがプロ囲碁棋士に勝ったというニュースが飛び込んできました。2016年3月には韓国のイ・セドル(2007年~2011年 世界ランク1位)を4勝1敗で下し、そして、2017年5月には中国の柯潔(カケツ;2016年~2017年 世界ランク1位)に3戦全勝しました。手の変化の多さから囲碁のAI化は将棋のそれから10年~20年後ではないか、と言われていましたが、ほぼ同時期に囲碁AIが人間を凌駕したわけです。AlphaGoの衝撃は大きかったんですね。
2018年以降は、”AI vs人間”から”AI vs AI”の時代に。それまでのAIとは違い、対戦データを一切使わないで、自分対自分の対戦で学習するAlphaGO Zeroが登場。AlphaGoと対戦したAlphaGO Zeroは100戦全勝。AlphaGoはチェス、将棋にも対応したAlpha Zeroに進化しました。2008年、チェスAIのStock Fishを負かし、Ponanzaに勝利した最新将棋AI、Elmoにも圧勝しました。その後、絶芸、DeepZenGo、AQなど続々と囲碁AIが出てきて、”AI vs AI”の対戦が盛んにおこなわれています。
少し、視点は変わりますが、先の日本の囲碁の減退カーブ、日本経済のそれと似てるんじゃないかな、と思い、調べてみました。世界のGDPと日本のそれとの差の推移を、囲碁世界ランク100位以内の日本人棋士人数の推移に重ねてみました。
1990年~2009年の、日本のDeflationと囲碁のDegradation。驚くほど似ていますね。2008年のリーマンショックをきっかけに、経済政策は異次元の金融緩和などのInflation指向に舵を切りましたが、囲碁に関してはやっと具体的な対策が出てきた、といったところでしょうか。
囲碁と経済成長率との関連があるのかどうかはわかりませんが、囲碁業界に強烈なインパクトを与えた囲碁AIは、ボードゲームだけの話ではなく、産業、経済活動の源である知的活動にも劇的な変化をもたらすはずです。だとすれば、“GLOBIS-AQZプロジェクト”は日本の囲碁復活だけではなく、停滞する日本の産業、経済復活の起爆剤になるのではないか。
自動運転、顔認証、自動翻訳、音声認識・合成、、、とすでにAIの波が押し寄せています。世の中の大転換期に差し掛かっているのは間違いないのではないか。
本Websiteのテーマ、生産管理や在庫管理はどうなるんでしょうね。月次生産計画基準の現行生産管理システムのままで生き残れるんでしょうか? 間もなく押し寄せるAIの波に生産管理システムはどうなるのか。戦(おのの)き後ずさりするよりも、生産管理が抱える不可解な疑問、慢性的な問題を解決する千歳一隅のチャンス到来と捉える方がいいんじゃないでしょうか。
世界大戦で亡国の憂き目に会った昭和から、この30年、平和に成りました。しかし、元気もなくなったように思います。
時代は“令和”に。令和はAIで大きく変わるのではないか、、。