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在庫基準から需要基準への転換;STICの定理

第1章 背景と概要

1.1 在庫管理はこのままでいいのか

19世紀後半から20世紀初め、大量生産が定着し始めた頃は、市場はおおむね売り手市場であった。製品の多くはすぐに売れ、在庫管理の必要性はあまりない。悩みの種は生産ラインの材料切れ。生産者は自ずと、資材の在庫管理に関心が向かう。そのような状況下で現在の在庫管理の理論や方法が形成され始めたと考えられる。

スーパーマーケットの出現は販売・流通に革命的進歩をもたらした。それをヒントにかんばん方式が考案され、生産側の在庫管理のレベルも向上していった。IT技術の進歩は、規模の拡大とともに複雑化し続けるサプライチェーンを支え、今も進化し続けている。

在庫管理とは、簡単に言えば、欠品率の最小化と保有在庫量の最少化とのせめぎ合いである。欠品を少なくしようとすれば在庫は増え、在庫を少なくしようとすれば欠品が増える。保有在庫に目が向き、その適正化を志向し、そこに管理の基準を置くことになる。補充発注のタイミングを目前の在庫量を基準とする理由はこのあたりにある。

在庫管理ではこれまでも、様々な工夫、改良が続けられてきた。そのうちのいくつかを挙げれば、需要予測の精度向上、発注タイミングの工夫、最大在庫量の制限、間欠需要への対応、顧客リードタイム(受注から納入までの時間)がある場合、そして究極の発注方式だとされる適時適量発注(不定期不定量発注)方式などである。

にもかかわらず、今尚、過剰在庫と欠品の問題は解消されたとは言えない。いくつもの疑問がいまだ漂ったままである。思いつくまま挙げてみよう。

・ 需要(受注量)を正しく捉えていないのではないか 受注量は受注件数と受注1件ごとの受注量(以下、量/件)からなる。例えば、ある商品の月間の受注件数の平均が10件、量/件の平均が20個の場合とそれぞれ20件、10個の場合では、受注量の平均は同じでもバラツキの程度は異なる。受注件数は、ある時間間隔で到着する注文を別の時間間隔内に何件の注文があるかを計測するのに対し、量/件は受注案件ごとに受注する数量である。統計的な性質は全く異なる。受注件数と量/件とを識別することなしに受注量を正しく捉えることはできない。現在の在庫理論で、受注件数と量/件とを識別している形跡はない。

・ 不定期不定量発注は、「場当り的発注」だという見解と「理想的」だとという見解が混在するのはなぜか。

・ 不定期不定量発注をきちんと行うためには、膨大な情報収集と計算が必要だとする根拠はどこにあるのか。

・ 定量不定期発注は大雑把なので、単価の安い商品に限定されるとする理由はなにか。

・ 適正在庫量を計算式で求めると過大な数字が出てきたり、欠品が頻発したりで当てにならないという意見が多い。なぜか。

・ 定期発注の発注量の決め方で、発注間隔が短くても毎回、需要予測をして発注量を決める必要はあるのか。

・ 間欠需要での需要量を、注文のない日を除いて計算するのはなぜか。

他にも不合理な問題は多々あるに違いない。このような問題に対する専門家、コンサルタントの説明やコメントも輪をかけて不可解なものが多い。

問題の本質は、端的に言えば、在庫管理理論に欠陥があるためではないのか。原点に立ち戻って考え直す時である。

長きにわたり積み上げられてきた在庫理論への挑戦は、そこに無用な混乱をもたらす愚行なのかもしれない。しかし、今の在庫理論が正しいのだと妄信することの方が、救いようのない愚考なのではないのか。一旦すべてをリセットし、原理原則をたどりながら新たな在庫管理理論の構築を試みることに迷ういとまはない。

1.2 在庫基準から需要基準への転換

新たな在庫管理理論の構築を試みるに当たり、先に挙げた疑問の背後に潜む、中核的な前提条件に言及しないわけにはいかない。それが、現在の在庫理論の形成に大きな影響を及ぼしたのではないか、と考えられるからである。

材料がなければ生産はできない。製品がなければ売ることはできない。多すぎれば資金の無駄となる。在庫管理の狙いは、在庫量そのものを適正に管理することであった。

在庫は先々の需要に対する備えでもある。どれだけの在庫を備え、いつ、いくら補充発注するかを決める上で、需要予測は欠かせない。しかし予測は概ねはずれる。

管理には基準が必要である。不安定な需要予測値は基準とはなりにくい。必然的に、手元の在庫に管理基準の役割を期待することになる。その基準に需要予測を加味し、発注点方式や適正在庫論が形成されてきた。このように、在庫管理の理論や方法論は、眼前にある在庫そのものに注目し、展開されてきたといえるのではないか。

在庫そのものを中心とした考え方を在庫基準と呼ぼう。詳細な分析は割愛するが、現在の在庫管理が抱える幾多の問題をたどっていけば、その多くが在庫基準の前提にたどり着く。

買い手市場に変移して久しい。在庫の本質的な役割は、市場の需要を満たすこと。であるならば、在庫管理とて、いつまでも目の前の在庫を中心に考えているだけでいいのか。在庫に隣接する発注残と需要の関係を俯瞰し、需要に追従する在庫循環に視野を広げなければならない。在庫循環の枠で需要を捉え、需要に追従する仕組みを構築するためには、在庫基準から需要基準への転換が必要である。これが新たな在庫管理論を構築する上での重要な前提条件である。

1.3 需要と在庫のリンケージ

初めに、在庫管理を構成する主要素とその構造を明らかにしたい。すでに疑問を呈したように、受注量の構成要素を受注件数と量/件に分けなければならない。変動に対して、受注件数と量/件はまったく異なった動きをするのである。両者の識別なくして、在庫の動きに大きな影響を与える需要変動を正しく理解することは困難である。

受注し出荷したときに、その量を補充発注する。需要を基準とする在庫補充のメカニズムは極めて簡単である。しかし、管理の枠組みは広くしなければならない。在庫そのものだけではなく、在庫→出荷→補充発注→納入→入庫の循環を包括的に捉えるのである。循環するインベントリーは具体的には在庫と発注残と発注待ち等で構成される。それを流動インベントリー(Streaming Inventory;以下STI)と呼ぶことにする。

市場(需要)と倉庫(在庫管理機能)とを動的にリンクして、インターフェースとしての役割を担うのがSTIだ。在庫をいくら保持し、いつ、いくつ補充発注するか等の指南情報はSTIの構造に隠されている。その構造を論理的に記述する数理モデルを導出した。在庫をいくら保持するかは流動インベントリーの大きさSize ofSTI; SSTI)でわかる。

受注頻度が高ければその都度、補充発注することは煩雑で、実用的ではない。一定時間毎にまとめて、あるいは一定量にまとめて補充発注することになる。前者は定期不定量発注であり、後者は定量不定期発注である。

受注件数と量/件を分けて需要量を捉えることにより、新たな発注方法が可能となる。一定の受注件数でまとめて補充発注する方法である。定件発注と呼ぶことにする。一定件数でまとめれば、受注間隔が変動するので、補充発注間隔は定まらない。受注案件ごとの量/件も変動する。従って、定件発注は不定期不定量発注となる。いや、これこそは、適時適量発注と呼んでもいい。

需要基準の在庫管理の特徴はSTIの性質に集約される。その性質をSTICの定理(The Law of Streaming Inventory’s Characteristics)と名づけた。STICの定理は、物理法則が移動や回転に対して対象性があるように、「定量」や「定期」、「定件」という条件が付いてもその原理は崩れない。その定理をベースしたSTIC発注方式は「定量」「定期」「定件」に共通で、より広い普遍性を持つことになる。

かんばん方式はトヨタ生産方式に特化しているようにみられているが、STICの定理で捉えなおせば、もっと広く応用できることが分かる。「定量」、「定期」、「定件」の壁がなくなり、接続性が高まることもSTIC発注方式の利点である。生産ラインの工程仕掛をSTIとして取り込むこともできる。それによって、生産ラインの管理と仕掛・在庫の管理が一体化し、さらには、生産単位ごとの優先順を制御することによって、需要に自動追従する生産管理の仕組みができあがる。(動的生産管理(Dynamic Production Management;DPM)における見込み生産)

資材倉庫、中間仕掛倉庫、半製品倉庫、生産ライン、完成品倉庫、地域倉庫、小売店、、、等々のサプライチェーンのあらゆるリンクで、STIC発注方式は共通で汎用性のあるインターフェースとなる。

第2章 需要の平均、分散、分布形状と構成要素

検討する在庫管理の基本モデルを図2-1に示す。顧客からの注文に応じて在庫から出荷し、調達先に補充発注する。顧客からの需要量を予測し、どの程度の在庫を保持し、どのように補充すれば欠品しないか、次の3つの主要事項にまとめてみた。

$ 需要(受注量);これまでの受注量と将来の需要はどのぐらいあるか。
$ 在庫     ;どれだけの在庫を保持しておかなければならないか。
$ 補充     ;いつ、いくつ、補充発注をしなければならないか。

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図2-1 在庫管理基本モデル

この3項目は、互いに密接な関係にある。在庫理論たるには、これらの三つ巴的3項目間の関係を正しく記述しなければならない。

2.1 需要(受注量)の平均と分散

新たな在庫管理理論を体系づけるパラダイムは需要基準である。需要をできるだけ正確に、体系的に捉えることが重要性となる。需要は一般的に変動し、ばらつく。バラツキのある量は平均と分散(あるいは標準偏差)で捉えると便利であることは周知の通り。しかし、在庫管理理論を体系化するためには、それだけでは不十分で、バラツキの分布形状も考慮しなければならない。平均と分散が同じでも分布形状の違いにより、期待する欠品率や在庫保持量が異なってくるからである。

はじめに、需要を平均と分散で捉える方法を検討し、その後に分布形状の特徴を加味して、在庫管理理論を支えるに足りる普遍性のある数式モデルを導き出したい。

先ず、需要の平均とバラツキについて考えてみる。需要を具体的に捉えたものが受注量Dである。Dを構成する要素は次の4つ。

・ 受注間隔;Ti
・ データ集計時間;T
・ 受注1件当たりの受注量(量/件);Q
・ Tでの受注件数;N (N=T/Ti の整数)

基本要素はTi、T、Qの3つであるが、実際はTiの代わりにNを使う場合が多く、T、Q、Nの3つの要素で受注量Dを捉えるのが実用的である。

この3つはどれも変動しうる。Dを有効なデータとするためには何らかの基準が必要である。Tを一定とし、基準とするのがわかりやすい。この3要素の関係を図2-2に示す。Q11、Q12、、、はそれぞれ1件の注文の受注量(量/件)を表す。最初のT間にQ11とQ12の注文が来て受注件数は2件(N1)、受注量はD1(D1=Q11+Q12)である。次のT間にはQ21、Q22、Q23の3件の注文が来て受注量はD2(D2=Q21+Q22+Q23)である。TiとQはランダムに変動する。

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図2-2 受注する注文の構造

表2-1は集計時間Tでの受注量Dがその間の受注件数Nと1件当りの受注量(量/件)Qで構成されていることを示す。

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表2-1集計時間での受注量Dの構成要素

先ず、集計時間での受注件数をn、データ数をmとすると、Dの平均 Dbarは次のようになる。

     Dtotal

     Q平均

     D_heikin

次にDの分散Vdはどうなるかをみてみる。DはQとNの2つの確率変数の積で求められることから、2つの確率変数の積の分散を分散の公式を使って求めてみる。

確率変数Xの分散をV(X)、Xの期待値を E(X)、 XXの期待値を E(XX)とすれば、

   V(X) ---式(2-1)

確率変数Xと確率変数Yとの積 XY の期待値E(XY)は、共分散をゼロ(X、Yは互いに独立)とすると、以下の式となる。

E(XY)=E(X)E(Y)  ---式(2-2)

XYの分散 V(XY) は式(2-1)および 式(2-2)を適用して、次のようになる。

   V(XY)-----式(2-3)

式(2-1)から、

E(XX)_shikiおよびE(YY)_shiki

となるので、式(2-3)に代入して、

V(XY)

となる。式を展開して、

V(XY)

整形して、

V(XY)

となる。

V(XY)は、Xの分散成分、Yの分散成分、X・Yの分散成分を合算して求められる。まとめると表2-2のようになる。

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表2-2 2つの確率変数の積の分散

V(XY)の分散式を応用して、NとQの積で計算できるDの分散を求めてみる。XをNに、YをQに置き換えてみてみる。しかし、表2-1と表2-2を比較すると分かるように、NとQは、XとYのように対称ではない。この違いに留意しながらNの分散成分、Qの分散成分、XYの分散成分を求めてみる。

<Nの分散成分>

DはNにNの属性であるQを乗じて得られる。これはXにYを乗じたのと等価なので、Dの分散V(D)のNの分散成分は次式で表すことができる。

E(Q)

<Qの分散成分>

Dは、次式のように、QをN回加算して得られる。

D=Q1+Q2+・・・+Qn -----式(2-4)

式(2-4)で表されるDの分散は、Qの分散成分となり、次式で表すことができる。

V(Q1)+V(Q2)+・・・V(Qn)

ここでは、V(Q1)=V(Q2)=・・・=V(Qn)=V(Q)

であるから、

V(Q11)+V(Q12)+・・・V(Q1n)=V(Q)N1
V(Q21)+V(Q22)+・・・V(Q2n)=V(Q)N2

V(Qm1)+V(Qm2)+・・・V(Qmn)=V(Q)Nm

まとめると、

V(Q)(N1+N2+・・・+Nm)/m=V(Q)E(N)

となる。

<QNの分散成分>

(Qの分散成分) D=Q1+Q2+・・・+Qn   N個のQを加算する

(Nの分散成分) D=QN NにNの属性であるQを乗じる

算術計算では両者の値は同じとなるが、QとNの分散成分間に相互対称な乗算関係がないので、QNの分散成分は生じない。

まとめると、V(D)は次のようになる。

V(D)

表2-3にDの分散成分をまとめた。

QN_bunsan_hyo

表2-3 Dの分散成分のまとめ

E(Q)=Qbar、 E(N)=Nbar、 V(N)=Vn、 V(Q)=Vq と表現を変更して、V(D)=Vd およびDの平均Dbarは次のようになる。

 D_QxN  ----式(2-5)

Vd_kihon ----式(2-6)

また、分布形状が正規分布であれば、安全係数をαとして、Dの最大Dmaxは、次の式で表すことができる。

Dmax  ----式(2-7)

式(2-5)、式(2-6)、式(2-7)が受注量の平均と分散、最大を求める基本式である。

2.2 受注量の標準モデル分布形状

データ集計時間Tでの受注件数の平均Nbar、その分散Vn、量/件の平均Qbar、その分散Vqから受注量の平均Dbarとその分散Vdを求める式を導き出した。この式を用いて、どの程度の在庫を保持し、いつ、いくつ、補充発注するかを決める。しかし、この式をそのような目的で利用するためには、受注量の分布形状が正規分布か、正規分布に近似していることが条件である。

もちろん、個々の分形状に合う正規分布以外の分布モデルを選択して使うことは可能ではあるが、どの分布モデルが合うのかの判断、選定だけでも難解である。特殊な環境では可能かもしれないが、一般的ではない。

幸いにも、受注量はおおむね正規分布に近似することが経験的に知られている。多くの場合、母集団がどんな分布であっても、それから無作為に抜き取られたサンプルの平均は、サンプルサイズを大きくしたとき近似的に正規分布に従う、とする中心極限定理で説明される。とは言え、間欠需要や突発的な需要など、正規分布とはならない事例も散見されることを無視するわけにはいかない。

ここで、式(2-5)、式(2-6)、式(2-7)の受注量の基本式で求めた平均と分散を正規分布と仮定して在庫管理に利用した場合、実際の受注量の分布とどの程度のズレが生じるのか等について、事前に理解しておく必要がある。既知の統計理論を援用して検討してみる。

既述のように、受注量の構成要素はT間の受注件数Nと量/件Qである。もともと需要は時間の経過とともに受注という形で具体化する。Nを時発生データと呼んでおく。一方Qは、受注案件ごとに様々な数量となるので、受注案件に属する属性データとみることができる。

時発生データNと属性データQはどのような分布となるのか。一般にランダムに到着する来客数や受注件数Nのような時発性データはポアッソン分布によく合うことが知られている。一方、Qのような属性データは正規分布することが多い。この知見を是として、つまり、Nはポアッソン分布に、Qは正規分布に従うとして、在庫管理の視点からみた受注量Dの分布形状について、統計論的視点をベースに検討を行う。

2.3 エクセル関数を利用して受注件数の分布形状をみる

難解な統計論に深入りするの得策ではない。ここでは、身近にあるエクセルを利用することにする。エクセルで用意されているポアッソン分布と正規分布の関数を利用して、受注量の分布状態がどうなるかを調べてみる。使う関数は次の2つである。

ポアッソン分布関数;POISSON.DIST(イベント数、平均、関数形式)
正規分布関数;NORM.DIST(X、平均、標準偏差、関数形式)

基本的には、受注量Dは下記のように、ポアッソン分布する受注件数Nと正規分布する量/件Qで表すことができる。例えば、Nbarが3のとき、Nが0、1、2、3、、の確率は、エクセルの関数を使って、算出すると次のようになる。

N=0の確率;POISSON.DIST(0,3,FALSE)=0.0498
N=1の確率;POISSON.DIST(1,3,FALSE)=0.1494
N=2の確率;POISSON.DIST(2,3,FALSE)=0.2240
N=3の確率;POISSON.DIST(3,3,FALSE)=0.2240
・・・

次に、Qの分布を計算する。Q_5、Cq=0.2とすると、Nが1件でのDの分布(N=1ではQ=D)は、標準偏差Sqは、Qの変動係数をCqとすると、Sqとなるので、

Dが1の確率;0.1494xNORM.DIST(1,5,5x0.2,FALSE)=0.000019989
Dが2の確率;0.1494xNORM.DIST(2,5,5x0.2,FALSE)= 0.000661946
Dが3の確率;0.1494xNORM.DIST(3,5,5x0.2,FALSE)= 0.008064156
・・・

となる。Nが2件でのDの分布は、Dbar_equalSq_equalであるから、

Dが1の確率;0.2240xNORM.DIST(1,5x2,5x0.2xroot2,FALSE)= 1.01452E-10
Dが2の確率;0.2240xNORM.DIST(2,5x2,5x0.2 xroot2,FALSE)= 7.11233E-09
Dが3の確率;0..2240xNORM.DIST(3,5x2,5x0.2 xroot2,FALSE)= 3.02424E-07
・・・

同様にしてNが3、4、5、、、でのDの確率を計算する。どこまでNを計算するかは、Nの発生確率が実用上十分に小さくなれば、それ以降を省略してもかまわない。最後に、

Dが1の確率=(Nが1の確率)+(Nが2の確率)+(Nが3の確率)+・・・
Dが2の確率=(Nが1の確率)+(Nが2の確率)+(Nが3の確率)+・・・
Dが3の確率=(Nが1の確率)+(Nが2の確率)+(Nが3の確率)+・・・
・・・

と集計して、Dの確率分布を求める。このようにして求めた分布を「標準モデル分布」と呼んでおく。

表2-4はDの確率分布をエクセルで求める一例である。

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表2-4 ポアッソン分布するNと正規分布するQからDの分布を求める表の一例

この表を使ってDの分布形状をみてみる。Qを1、Cqを0とすると(0にするとエラーとなるので0.001以下の数値を入れる)、Dの分布はNの分布でもある。その一例を図2-5に示す。Nの平均が0.5、1、2、、、5のときのNが0、1、2、、、10の発生確率を示している。例えばNの平均が1ではNがゼロ(注文がない)の発生確率はおおよそ37%、Nが1(注文が1件)の発生確率も同じく約37%、Nが2の確率が約18%、、、となる。Nは受注件数なのでプラスの整数値しかとらず、離散型の分布となる。Nの平均値は小数値でも構わない。

Nの分布の特徴は、
① Nがゼロの発生確率がある(注文のないことがある)
② Nが小さくなると分布形状は非対称となる
③ Nが大きくなる(おおよそN≧5)と分布形状は対称形となり、正規分布に似てくる

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図2-5 ポアッソン分布に従う受注件数Nの分布例

2.4 需要量の分布はどうなるか

前項で導出した受注量の式を使って安全係数αを設定し、最大需要量を算出することができるのは受注量Dが正規分布に従う(近似する)ことであったが、受注件数Nの分布をみるとNが3~4以下では正規分布に近似しているとはいいがたく、既述の受注量算出式は使えないのではないか、という懸念がでてくる。検討事項のひとつとして留保しておく。

次に、Qが2以上になると受注量の分布はどうなるか。Nの平均が1の場合についてみてみる。図2-6はQ=1のときの受注量Dの分布を棒グラフで示したもので、これは図2-5のNの平均1の分布を棒グラフにしたものと同じである。

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図2-6 Q=1の受注量Dの分布

図2-7はQ=5のときのDの分布である。棒の位置が5、10、15、、の位置になっている。Q=10であれば棒の位置は10、20、30、、の位置となる。つまり、棒がQ倍の位置になる。

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図2-7 Q=5のときの需要量Dの分布

図2-8はQの平均が5で変動係数0.2の正規分布に従うときのDの分布である。図2-7では棒状であったものが山形のひろがりが出てくる。橙色の曲線はDのトータルで、エクセルの関数で計算した分布(標準モデル分布)、青色の曲線は式(2-5)、式(2-6)の受注量の基本式で計算した正規分布(近似正規分布)である。両者の分布形状にはかなりの違いがある。

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図2-8 Qの平均が5、その変動係数が0.2のときのDの分布(標準モデル分布)と近似正規分布

図2-9はNの平均を3としたときのDの標準モデル分布と近似正規分布の分布形状である。

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図2-9 Nの平均が3のときの需要量Dの分布

図2-10はNの平均を5にしたときのDの標準モデル分布と近似正規分布の分布形状である。

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図2-10 Nの平均が5のときの需要量Dの分布

受注量Dの分布形状は受注件数Nが大きくなるに従い正規分布に近似してくるが、量/件Qおよびその変動係数によって分布形状が歪められる。(変動係数が小さい方が歪みは大きくなる傾向にある)

2.5 近似正規分布と標準モデル分布との差;分布のすそ野に注目して

在庫管理の視点から重要なポイントは、欠品率をある値以下にする必要在庫量を知ることである。欠品率は、例えば正規分布の標準偏差(σ)の2σの位置だとすればその右側(すその側)の面積(確率)が2σでのそれである(図2-11参照)。式で表せば、欠品率=1-累積確率、とも表せる。通常、欠品率は数%以下、標準偏差で言えば、2σ~3σ近辺である。近似正規分布を使うためには、この領域での標準モデル分布とのズレがどの程度あるかを知る必要がある。

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図2-11 近似正規分布の2σと3σの位置と標準モデル分布

そこで、近似正規分布の2σ~3σのときの欠品率と、標準モデル分布の欠品率を比較して、その差がどの程度かをみてみる。Q=10でその変動係数を0、0.1、0.2、0.3のときの欠品率の差を調べてみた。近似正規分布の2σの位置で比較した場合の一例を図2-12に示す。図2-13は同じ条件で3σの位置で比較した例である。

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図2-12  Q=10、その変動係数0~0.3での近似正規分布と標準モデル分布のポイント差

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図2-13  Q=10、その変動係数0~0.3での近似正規分布と標準モデル分布のポイント差

特徴をまとめると、
① 受注件数平均1以下で差が大きくなる
② 3σより2σの位置での差が大きい
③ Qの変動係数Cq=0(Qが一定)のとき、差が大きくまたそのバラツキが大きい
④ 全体的に近似式は小さい値である

このままでも、2~3ポイントの差を許容できればNbarが2以上の領域で近似正規分布を使うことはできる。しかし、Nbarが1以下では差が大きすぎるようである。

2.6 間欠需要の場合の補正方法

標準モデル分布と近似正規分布の差をみるとNbarが3~4付近から大きくなってる。これはポアッソン分布で Nbarが4~5以上で正規分布に近似する傾向と一致する。つまり、標準モデル分布と近似正規分布の差が大きくなるのは、ポアッソン分布と正規分布の違いに起因し、その差が大きくなるのはNbarが3~4以下であると同時にNがゼロの確率が高くなる領域でもある。

Nがゼロとは、データ集計時間に受注がない場合であり、そのような需要パターンを間欠需要という。つまり、ザックリと言えば、間欠需要のとき標準モデル分布と近似正規分布の差が大きくなり、それを縮小するための補正が必要だ、ということである。実用的には受注がゼロの発生確率が5%以下であれば、間欠需要ではないとみなしても大きな誤差にはならないであろう。

補正項は図2-12や図2-13と正負が逆のカーブが有効であろう。幾通りかの式が考えられるが、補正値をδとして、次の式を一例として挙げておく。

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Nが0~6に対する補正値δは図2-14のようなカーブとなる。

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図2-14 Nに対する補正値δのカーブ

δを基本式(2-7)に次のように加える。

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補正を加えた式で算出した近似正規分布と標準モデル分布の差を図2-14(2σの位置)と図2-15(3σの位置)に示す。補正は有効であるといえる。

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図2-15 δで補正後の近似正規分布と標準モデル分布の差(2σの位置)

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図2-16 δで補正後の近似正規分布と標準モデル分布の差(3σの位置)

少し気になるところは、Qが一定(Cq=0)のとき、差が暴れることである。標準モデル分布の欠品率は階段状なのに対して近似正規分布のそれはなだらかな曲線であるためである。図2-17はQが10一定のとき、Nが1での標準モデル分布と近似正規分布の欠品率を比較した例である。

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図2-17 Nの平均1、Qが10で一定

補正項δにより、近似正規分布と標準モデル分布との差は縮小するが、Qが一定のときは補正項では補正しきれない。Qが一定のときは、受注量Dに対して欠品率は階段状になるので、その値を簡単に算出するエクセル表を作っておくと便利である。

一例を表2-5に示す。NbarとQを入力すると欠品率に対して、受注量の下限と上限が計算される。
計算式は、
欠品率; 1-POISSON.DIST(N,Nbar,TRUE)
Dの下限; Q x N
Dの上限; Q x (N+1) -1

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表2-5 Qが一定のときの受注量Dに対する欠品率の算出表

平均受注件数Nbarが2、量/件Qが10で一定のとき、例えば、受注量Dが40~49の範囲は、受注件数Nが4で、その欠品率は5.27%となる。在庫保持量側からみれば、流動インベントリー(在庫+注残+発注待ち)の大きさ(詳細は後述)が40~49であれば、欠品率は5.27%となる。

2.7 受注件数がポアッソン分布ではない場合

受注件数はポアッソン分布、量/件は正規分布することを前提として需要量の標準モデル分布を検討してきた。図2-2で説明したように、データ集計時間Tの間に受注間隔Tiで到着する注文が受注件数である。受注件数がポアッソン分布するとき、受注間隔は指数分布することがわかっている。指数分布はランダムに到着する注文の時間間隔の分布としても知られている。

ここで考慮しておきたいことは、受注間隔が指数分布ではないとき、受注件数の分布はどうなるか、である。例えば、発注元(顧客)が定期発注していれば、受注間隔にはある規則性が伴い指数分布ではなくなることが考えられる。

指数分布に規則性が加わる例として、待ち行列理論でよく使われるアーラン分布を使って検討してみる。アーラン分布はk個の指数分布の和の分布である。k=1のアーラン分布は指数分布である。受注間隔が一様分布する場合についても確認してみたい。図2-18に平均10の指数分布、アーラン分布、一様分布、正規分布の例を示す。

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図2-18 平均10の指数分布、アーラン分布、正規分布、一様分布

この中から、指数分布、k=2のアーラン分布、一様分布を取り上げ、それぞれの受注件数の分布がどうなるか、シミュレーションで確かめた結果の一例を図2-19に示す。

Ti_N_henkan

図2-19 受注間隔Tiの分布(上から指数分布、アーラン分布、一様分布)と夫々の受注件数Nの分布の一例、縦軸は確率

受注間隔が指数分布しない場合は受注件数の分布はポアッソン分布とはならないが、図2-19をみてわかるように、アーラン分布でも一様分布でも、Nbarが概ね4~5以上では正規分布に近似する。正規分布に近似する現象は、多くの場合、母集団がどのような分布であっても、それから無作為に抜き取られたサンプルの平均は、サンプルサイズを大きくしたとき、近似的に正規分布に従う、とする中心極限定理でも説明できる。

受注間隔が指数分布以外のアーラン分布、一様分布のときの受注件数の分布はポアッソン分布より分散が小さくなる。また、受注件数ゼロの確率も小さくなり、間欠性、受注件数の非対称性が緩和される。

近似正規分布と標準モデル分布とのズレを補正しなければならないのは、分布形状が非対称となるためであるが、非対称性が緩和されれば補正の必要もなくなるのではないか。

2.8 まとめ

ここまで、在庫管理論を構築するために、受注量(需要)をより簡単に、できるだけ正確に捉える方法を追求してきた。理論を構築するための礎的な部分でもあるため、普遍性も追求している。

これまでの結果をまとめると表2-6のようになる。受注件数のデータ(Nbar、Vn)と量/件のデータ(Qbar、Vq)があるとする。先ず、間欠需要かどうかを判断する。間欠需要とは、データ集計時間に受注がない場合があるような需要パターンをいう。受注件数がゼロとなることがなければ間欠需要ではないので補正は必要ない。実用的には受注がゼロの発生確率が5%以下であれば、間欠需要ではないとみなしても大きな誤差にはならないであろう。

間欠需要であればすべて補正する必要があるかというとそうではない。間欠需要であっても分布の対称性の崩れが小さければ補正する必要はない。その判断の目安として、次式を使う。

hoseikijun

値が0.3以上であれば補正の必要はないが、0.3未満であれば補正が必要であると判断する。これは、ポアッソン分布に近ければ補正の必要があるが、そうでなければ補正の必要はないという考えである。

hoseikijun_hyo

表2-6 補正要不要基準

補正方法は、Qが一定(変動係数Cq<0.05のとき一定とみなす)かどうかで2種類ある。一定であれば、欠品率と受注量を計算して階段状に変化する欠品率をみて補正する。Qが変動する(Cq≧0.05)場合は、補正値δを加算して受注量の分散を計算する。

補正の狙いは欠品率の設定精度を上げるために、近似正規分布のすそ野と標準モデル分布のそれとの差を少なくするものである。従って、補正の範囲は、近似正規分布の2σ以上の範囲であることに留意頂きたい。

 DQN----式(2-5)
Vd_kihonshiki----式(2-6)
      間欠需要の場合は補正する。
      Vd_hosei ----式(2-6δ)
          補正値δは下記の式で算出する。
       deruta
Dmax----式(2-7)
   αは2以上を推奨

式(2-6)、式(2-6)、式(2-6δ)、式(2-7)を使って計算したときの標準モデルとのズレは±1ポイント程度となり、実用上の問題はないものと考えられる。

第3章 在庫管理の基本形

3.1 在庫管理の3主要事項

在庫管理の主要事項を再確認する。

$ 需要(受注量);これまでの受注量と将来の需要はどのぐらいあるか。
$ 在庫     ;どれだけの在庫を保持しておかなければならないか。
$ 補充     ;いつ、いくつ、補充発注をしなければならないか。

この3項目は、互いに密接な関係にあり、個別に取り上げて説明しても的を射ない。時にはどれか一つに重点を置きながらも、同時並行的に取り扱う必要がある。

需要基準の在庫管理においては、需要(受注量)をより正確に捉えることは何にもまして重要である。そのために、事前に(第2章で)受注件数と量/件を別々に識別し、受注量を捉える方法を検討した。

補充発注方法について考えてみよう。需要基準を前提条件とした補充発注とはどのような方法なのか。需要を受注と言い換えれば分かりやすい。

「受注し、出荷した分を直ちに補充発注する」

極めて単純な方法でありながら、最善の方法であることは、自明であろう。需要をトリガーとした即時発注である。「いつ」は「出荷したとき」、「いくつ」は「出荷した量」となる。これが補充発注の基本である。

需要、在庫保持、補充発注の関係をより具体的にみてみる。図3-1を参照いただきたい。出荷した分を補充発注して、調達先から納品され入庫される。その時間を納入リードタイムとする。発注案件は納入リードタイムの間、発注残(注残)の状態にある。納入リードタイムが補充発注の間隔より長ければ長いほど発注残の件数は多くなる。

欠品を起こさないためには、常に在庫がある状態を維持する必要がある。その条件は、

在庫量≧納入リードタイム間での受注量

となる。納入リードタイム間での受注量はばらつくので、欠品率を考慮して設定した最大受注量以上の在庫が必要である。これが在庫保持量である。

zaiko_hoju 

図3-1 在庫補充の基本メカニズムと流動インベントリー

在庫保持量は最初に用意しておかなければならない在庫である。最初はすべてが在庫であるが、受注-出荷-補充発注-入庫のサイクルが始まれば発注残と在庫の状態となって流動する。

出荷した分、在庫は減る。補充発注すると、在庫が減った分が発注残となって補われるので、在庫と発注残の合計は常に一定となる。この在庫と発注残を包括して流動インベントリー(STreaming Inventory;STI)と呼ぶことにする。

3.2 流動インベントリーとは

在庫と発注残を包括した流動インベントリーSTIは需要、在庫保持、補充発注の基本3項目を関連付ける、在庫管理の要(かなめ)的要素である。その特性について詳細に分析しておく必要がある。

ここまでで知りえたSTIの特徴をまとめると次のようになる。
・ 発注残と在庫を包括したインベントリー
・ 納入リードタイム間の最大受注量
・ 常に一定の大きさ

最も重要な関心事は流動インベントリーの大きさ(Size of STI ; SSTI)、つまり納入リードタイム間の最大受注量がどうなるかである。

第2章で受注量について、詳細に分析した。その時、集計時間Tでの受注量を求めたが、Tに何ら制約があるわけではない。どのような時間を持ってきても式(2-1)、式(2-2)、式(2-3)は成り立つ。SSTIは納入リードタイム間での最大受注量であるので、集計時間Tを納入リードタイムTpに変えればよい。その間の受注件数の平均を Np、その分散をVnpとして、次のようになる。

     D_Q_Np                   式(3-1)

     Vd1  式(3-2)

    (間欠需要の場合は、VnpがVnp・(1+δ)となる。第2章参照)

SSTIは納入リードタイム間の最大受注量であるから、Dmaxに等しく、次のようになる。

     SSTI_Dmax        式(3-3)

式(3-1)、式(3-2)、式(3-3)の3つの基本式をベースに、定量不定期発注、定期不定量発注、不定期不定量発注、納入リードタイムの変動、顧客リードタイムなどの条件を付加していくことで、在庫管理の理論的体系を構築する。

3.3 集計時間と納入リードタイムの関係について

集計時間と納入リードタイムの関係について確認しておく。集計時間がT、受注間隔平均が Ti のとき、その間の受注件数の平均 Nは既述のようにN_T_Tiとなる。納入リードタイムがTpのとき、その間の受注件数の平均Np は、同様に、Np_barとなる。従って、

Np_bar2

となる。分散はどうなるか。TpでのNpの分散VnpとTでのNの分散Vnの関係を調べてみる。前述したようにNは自発性で時間経過とともに発生する。また、今後の受注の発生は過去の経過と一切関係がない(これをマルコフ性と呼ぶ)ことにする。この性質があれば、時間軸に沿って発生するT間の受注件数Nは互いに独立であるといえる。独立であるNの分散は時間軸上では分散の加法性が成り立ち、時間に比例することになる。従って、Vnpは次ようになる。

Vn

つまり、受注件数Nと集計時間Tには次の関係がある。
「受注件数の平均と分散は時間(集計時間や納入リードタイム)に比例する」

受注量Dについてはどうだろうか。Tp間の受注量平均を Dpとすると、Dp であるから、次のようになる。

Dp3

Dpの分散をVdpとすると、

Vd

となり、

Vdp

となる。まとめると、次のようになる。

「受注件数Nも受注量Dも、それらの平均と分散は時間(集計時間Tや納入リードタイムTp)に比例する」

現実では、受注量は日単位や週単位、月単位で集計されていることが多い。一方、納入リードタイムは物品や納入業者によってまちまちである。必要な納入リードタイム間の受注量は、手持ちのデータを利用して上記の式で簡単に求めることができる。集計時間Tと納入リードタイムTpの長短関係に制限はない。つまり、T>Tpのときも、T<Tpのときも、母集団に変化がなければ成立する。尚、ここでは説明のため、納入リードタイム間の受注量をDp、その分散をVdpと表記した。

3.4 受注量の分布形状

在庫管理の基本は、ランダムに舞い込む注文に応じて在庫から出荷し、その分を補充する事である。補充には納入リードタイムという有限の時間がかかる。欠品をしないようにするためには、納入リードタイムの間に来る注文を賄うための在庫が必要となる。つまり、必要な在庫量は、納入リードタイム間の最大需要となる。これは、資材倉庫、仕掛、完成品倉庫、物流倉庫、小売店などの在庫管理場所、、、そして定量不定期発注、定期不定量発注、不定期不定量発注等の発注方法など、あらゆる在庫管理に共通である。普遍性の高い在庫理論を構築するうえで、この共通部分を在庫の基本形として捉えておくことは、有効であり重要である。

ランダムに到着する注文の時間間隔の平均をTibar、納入リードタイムをTpとして、Tp間の受注件数の平均Npbarは、Npbarとなる。受注1件ごとの数量、量/件の平均をQとして、Tp間の受注量平均Dは次のようになる。

D

Npの分散をVnp、Qの分散をVqとして、Dの分散Vdは次のようになる。

② Vd

 (間欠需要の場合は、VnpがVnp・(1+δ)となる。第2章参照)

納入リードタイムの間に到着する受注量の平均と分散が分かれば、欠品率を考慮した安全係数αを決めて、その間の最大受注量を次式で求めることができる。最大受注量は、在庫、発注残、発注待ち状態にあるインベントリーを包括した流動インベントリーの大きさSSTIに等しい。

③ SSTI

先に挙げた在庫管理の3つの主要事項間の関係を図3-10にまとめた。この3項目は互いに密接な関係にあり、在庫管理の基本を形成している。これをベースに、定量不定期発注、定期不定量発注、不定期不定量発注、納入リードタイムの変動、顧客リードタイムなどの条件を付加していくことで、実用的な在庫管理の理論的体系を構築してゆく。

zaiko_3_youso

図3-10 在庫管理の3主要事項間の関連性(納入LT;納入リードタイム)

第4章 需要基準の発注方式

需要基準に基づく在庫補充の基本的な構造を解析している。受注したときに出荷した量を補充発注する。補充発注のトリガーは需要である。もうひとつの特徴は、在庫そのものだけではなく、在庫→出荷→補充発注→納入→入庫の循環を捉えていることである。この循環するインベントリーが流動インベントリーSTIである。その特性をSTICの定理(The Law of Streaming Inventory’s Characteristics)と呼び、そのSTICの定理に基づいた発注方式をSTIC発注方式と呼ぶ。

4.1 需要基準の在庫管理の基本;STICの定理とは

需要基準の在庫管理方法は、納入リードタイム間での受注量の最大を流動インベントリーSTIとして保持しておき、受注・出荷したときにその量を補充発注することで、ランダムに到着する注文に応えるという方法である。ここで中心的な役割を果たすのがSTIである。言い換えれば、STIの、あるいはSTIに関する特性が在庫管理の要となる。

在庫管理理論の中心的存在であるSTIに関する特性がSTICの定理(The Law of Streaming Inventory’s Characteristics)である。現段階ではこの定理の特徴を十分に分析し終えたわけではないが、ここまでで分かったことを中間的にまとめ、次の論理展開につなげてゆく。

dia  発注方法は、受注し、出荷した時に出荷した量を補充発注する即時発注を基本とする。
dia   在庫から出荷され、補充発注-発注残-入庫までのすべての状態にあるインベントリーを包括して流動インベントリーSTIとする。
dia   必要な流動インベントリーの大きさ
    流動インベントリーの大きさ(SSTI;Size of STI)は納入リードタイム間での最大受注量となる。
dia  納入リードタイム間での最大受注量
      納入リードタイム間での受注量平均を D、その分散をVd、安全係数をαとして、SSTIは次の式で求められる。(間欠需要の場合は省略)

     ①D_Q_Np

     ②Vd

     ③SSTI

     ここで、Np;納入リードタイム間の受注件数平均、その分散;Vnp、Q:量/件の平均、Vq;Qの分散

dia最初に準備する初期在庫量はSSTIに等しく、SSTIは在庫が流動しても常に一定となる。

4.2 STICの定理をベースにした発注方式

STICの定理では即時発注を条件とした。しかし、1日に多数の注文が来る場合、1件ごとに即時発注することは煩雑で現実的ではない。ある程度まとめて補充発注することになる。まとめ方は次の3通りの方法が考えられる。

① 一定量   ;定量不定期発注
② 一定期間 ;定期不定量発注
③ 一定件数 ;定件発注(不定期不定量発注)

受注量がある一定量に達したらその量を発注する方法が定量不定期発注。ある発注サイクルでその間に受注した量を定期的に発注する方法が定期不定量発注。一定の受注件数に達したらその間の受注量を発注する方法が定件発注である。定件発注とは耳慣れないかもしれないが、受注量を受注件数と量/件を分けて捉えることで可能となった方法である。この場合、発注間隔も発注数量も定まらず、不定期不定量発注となる。また、需要が一定であれば、いずれの発注方法も定期定量発注 となる。(タイミングのズレで多少の限定的ゆらぎはある)

図4-1は基本形に “補充発注のまとめ” を追加した一例を示したものである。納入リードタイムに、“補充発注のまとめ” に要する時間が加わる。それを補充時間とする。

補充時間=補充発注のまとめ時間+納入リードタイム

前述のように “補充発注のまとめ” 方は時間、受注量、受注件数の3通りがある。“補充発注のまとめ” た分が流動インベントリーに入ってくる。それぞれの属性が異なるために、発注方式に及ぼす影響もそれぞれ異なる。これから、従来の方法との比較も交え、3つのSTIC発注方式の特徴を詳細に分析してゆく。

hoju 

図4-1 補充発注のまとめ方

第5章 定量不定期発注

5.1 定量不定期発注の仕組み

受注量が一定量に達したら、それをまとめて発注する定量不定期発注方式(以下定量発注)について検討する。

定量で “補充発注のまとめ” をすると、流動インベントリーSTIに加わるのは定量発注量Ocである。一定量なので、変動はなく、分散の増加はない。但し、留意しなければならないことがある。

図5-1は横軸に時間を取り、ひとつの棒が注文1件を表し、棒の高さが量/件を表す。定量発注量を40とした場合、どうなるかを示した一例である。

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図5-1 定量発注のまとめ方

右端から1件目が7個、2件目が20個、3件目が10個、4件目が12個で累計43個となる。定量発注量が40個なので、4件目の注文を受け取り12個出荷すると同時に、40個を補充発注する。このとき3個分の補充発注は次回に回される。次回の補充発注は9件目の注文が来た時となる。このときも5個が端数となり、その後の補充発注に回される。

このように、定量でまとめた場合、ランダムに舞い込む受注量が定量発注量と一致せず、端数が生じることが多い。端数は次回の発注に回され、補充が遅れることになる。また図でもわかるように、補充発注毎の受注件数と発注間隔は一定とはならない。このことがSTICの定理にどのような影響を及ぼすか、検討してみる。

補充発注が次回に回される端数はどうなるか、以下の条件でシミュレーションを行ってみる。
受注間隔平均;Ti_10の指数分布
量/件平均;Q_5、変動係数;Cq=0、0.25、0.5、0.71、1(正規分布)
定量発注量;Oc=20、21、22、23、24

Ocを20~24と振ったのは、量/件で割り切れるか、割り切れないかの影響をみるためである。Ocによって、データのバラツキは多少あるが、端数の分布は変わらない。図5-2は20~24のOcをまとめ(平均をとる)たときの、Cqに対する端数の分布の一例を示している。

hasu_bunpu 

図5-2 端数の分布

端数の分布は、平均値を中心とする分布ではなく、図5-2に示すような片側分布である。従って、その片寄分は流動インベントリーSTIに加算されることになる。流動インベントリーの大きさSSTIを算出するために必要な値は端数の確率を考慮した最大値である。端数の最大値をFr、安全係数をαとし、その近似式は次の式で求めることができる。

Fr

近似式の導出過程は省略するが、シミュレーションデータと近似式で求めた値を比較してその近似性を確認しておく。条件は以下の通り。

受注間隔平均;Ti_10、変動係数の指数分布
量/件平均;Q_5、10、変動係数;Cq=0、0.25、0.5、0.71、1(正規分布)
定量発注量;Oc=40、51

結果を図5-3に示す。近似式結果(α=3とした)とシミュレーションデータとはほぼ一致している。

hasuu_hikaku 

図5-3 端数の最大値(Fr)の近似計算値とシミュレーションデータ

定量でまとめることで受注件数と発注間隔はばらつく。このバラツキはSSTIにどのような影響を及ぼすのか。SSTIの単位は個数である。定量でまとめるので、受注件数と発注間隔は変動しても、一定数が加わることになり、いずれのバラツキもSSTIにゆらぎを与えることにはならない。従って、定量発注の場合のSSTIは次のようになる。

①平均は定量発注量Ocだけ大きくなる
②平均は端数の最大値Fr分加算される
③発注量が定量なので、それによる分散の増加はない

定量発注でのSSTIは次の式で求められる。濃茶色で示した部分が定量発注で付加される。

     D_Fr          式(5-1)
     Vd      式(5-2)
     SSTI2               式(5-3)

データ集計時間Tでの平均受注件数がN、 分散がVnであれば、納入リードタイムTpでの平均受注件数Npは、 Np、その分散Vnpは、 Vnpとなり、式(5-1)、式(5-2)は次のようになる。

D

Vd 

      

5.2 事例で確認

具体的な数値を使って確認してみたい。事例の条件は次の通り。

納入リードタイム間での受注件数平均;N_42、分散;Vn=42
量/件の平均 Q、量/件の変動係数Cq=0.25
納入リードタイム Tp=168時間(7日)一定

流動インベントリーの大きさSSTIを求めるためには定量発注量Ocを決めなければならない。式(5-1)、式(5-2)、式(5-3)を使い、SSTIとOcの関係をみてみる。欠品が起きない最小のSSTIを計算で求めた結果とシミュレーションで得られた結果を図5-4に示す。計算では安全係数を3とした。シミュレーション時間は24,000時間(1,000日)、データは1日単位で収集した。

計算シミュレーション相関

図5-4 定量発注量とSSTI;計算値とシミュレーション結果

例えばOcが300個のときのSSTIは、計算値は922個、シミュレーション結果は948個である。STIの推移は図5-5のようになり、出庫-補充発注-発注残-入庫のサイクルを通して常に一定であることが確認できる。

STI推移

図5-5 流動インベントリーSTIの推移

SSTIは一定であるが、内容は常に変動している。在庫と発注残(発注待ちも含む)に分けて、それらの分布を図5-6に示す。

在庫発注残

図5-6 在庫と発注残(発注待ち含む)の分布

5.3 発注点方式との比較

STIC定量発注の特徴を理解するために、定量発注の代表的な方法として知られている発注点方式と比べてみる。発注点方式の基本的仕組みを図5-7に示す。

haccyuutenn 

図5-7 発注点方式の基本的仕組み

在庫(発注残含む)が発注点まで減少した時、予め決めた量を補充発注する。発注点は平均受注量に安全在庫を加えた量で、次の式で求める。(納入LT;納入リードタイム)

   発注点=納入LT間の平均需要+安全在庫

anzenzaiko 

STIC定量発注と比べるために、もう少し詳しくみてみる。図5-8に受注・出荷ごとの在庫の推移を示す。(在庫+発注残)≦発注点となった④のタイミングであらかじめ決めた定量を補充発注する。⑤~⑧まで発注残の状態となり、⑨で入庫されるが、⑧で再び(在庫+発注残)≦発注点となる。注文ごとの注文量が常に1であれば、(在庫+発注残)=発注点 となるが、一般的には注文ごとの注文量は7個だったり、12個だったり、複数でバラツク。注文ごとにまとめて出荷するのが一般的なので、(在庫+発注残)の数量は飛び飛びの値となり、⑧のように下回ることが多くなる(赤の円)。前出の発注点を求める式では、発注点を下回った部分は考慮されていない。実質的に発注点を下回った状態で補充発注することになり、発注点が低めに設定されることになる。

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図5-8 受注・出荷ごとの在庫の推移

発注点を下回った分の影響はどの程度あるのか。それが無視できる程度であれば問題はないが、そうでない場合は、発注点方式の欠陥となりうる。確認してみよう。先ず、“発注点を下回る量”はどうなるか。幸いにも、“発注点を下回る量”は、STIC定量発注で出てきた「端数」と全く同じメカニズムで説明できる。従って、その量は、端数Frを求める式をそのまま使うことができる。再掲すると、

Fr

発注点を下回る量Frを考慮すると発注点は次のようになる。

発注点=納入リードタイム間の平均需要+安全在庫+Fr

図5-9はFrを加えた、ある条件での発注点方式のSTIの推移の一例である。図5-10は、同じ条件でのSTIC定量発注でのSTIの推移である。(発注点方式では発注待ちの定義がはっきりしていないので”発注待ち”状態のインベントリーは表示していない)

発注点方式は、(在庫+発注残)≦発注点 のときが発注タイミングであるが、STIC定量発注では、定量発注量≦前回発注後の累積出荷量 のとき、発注する。

従来の発注点方式にFrを加えれば、どちらの方法も発注タイミングと発注量は同じになる。異なるのは、STIC定量発注で必要なのは出荷量の累積だけであるが、発注点方式は現在の在庫量と発注残の量を出荷のたびに確認して、発注点と比較する必要があることである。

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図5-9 Frを加えた、従来の定量発注での流動インベントリーの推移

STIC_teiryo 

図5-10  STIC定量発注の流動インベントリーの推移

従来の発注点方式では考慮されていないFrの影響がどの程度あるか、調べてみる。従来の発注点に対して、Frを加えた場合、どの程度発注点が高くなるのか、近似式で計算した発注点を用い試算した結果を図5-11、図5-12に示す。

条件を広範囲に振ってはあるが、Frを考慮すると、数10%から100%(2倍)を超える程度まで発注点が高くなる。現実的にはそれほど広い条件ではないのかもしれないが、Frを考慮しない発注点では、適切な発注時期の判断はできないことになる。発注点方式が大雑把で、安価な在庫管理にしか利用できないとする理由のひとつは、このあたりにあるのかもしれない。Frの影響が大きくなる領域は、大雑把に言えば、おおよそNp<5、Cq>0.5である。尚、定量発注量Ocは発注点への影響はない。また量/件Qは発注点には影響を及ぼすが、Frによる発注点の増加には関係ない。

hacyuuten1 

図5-11 発注点増加率(Fr⁄(従来の発注点))×100(%)、Np;納入リードタイム間の受注件数、Cq;量/件Qの変動係数

haccyuuten

図5-12 Np;納入リードタイム間の受注件数対発注点増加率(Fr⁄(従来の発注点))×100(%)、Cq;量/件Qの変動係数

ここでは標準的な発注点方式について検討した。その他にもいくつかの発注点方式が提案されている。例えば、
①発注点補充点方式
②定期補充点方式
③定期発注点補充点方式

いずれの方法も、発注点の設定にはFrを考慮していない。また、補充点という上限在庫水準の設定をしたり、時間要素を加えたりするなど、複雑になっている。発注点方式が抱える根本問題を残したまま、煩雑さが増しただけの方法であるように見受けられる。

5.4 STIC定量発注方式のまとめ

従来の発注点方式と比較してSTIC定量発注方式の特徴をまとめてみる。

shikaku 従来の発注点方式では、発注点を下回る端数の発生を考慮していないため、発注点が低く設定されることが多く、欠品率が想定より高くなる傾向があるのではないか。
shikaku STIC定量発注方式は発注点を設定する必要はない。
shikaku STIC定量発注方式では流動インベントリーが常に一定となり、在庫管理の基準として利用することができる。
shikaku 発注点方式の発注時期は(在庫量+発注残)≦発注点。STIC定量発注のそれは、定量発注量≦受注量(出荷量)。
shikaku 発注点方式では、出荷があるごとに在庫と発注残の情報が必要であるが、STIC定量発注は出荷量の累積だけである。

第6章 定期不定量発注

6.1 定期不定量発注の仕組み

STIC定期発注は、予め決めた時間間隔(発注サイクル)ごとに、その間に受注した量を補充発注する。発注サイクルごとに受注する件数も受注量も一定とはならず、変動する。

発注サイクルをTyとすると、補充時間は納入リードタイムTpにTyを加えて求められる。従って、発注サイクルごとに受注する件数の平均をNyとして、受注量の平均D は次のようになる。

     D_teiki      式(6-1)

次に補充時間での受注量の分散について考えてみる。Tyが加えられることで、Nyの分散VnyがVnpに加算され、同時に NpNyが加算され、受注量の分散Vdは次のようになる。

     Vd_teiki    式(6-2)

SSTIは次のようなる。

     SSTI                     式(6-3)

データ集計時間Tでの平均受注件数がN、分散がVnであれば、納入リードタイムでの平均受注件数Npは、Np_Ty、その分散Vnpは、Vnp_Tyとなり、式(6-1)、式(6-2)は次のようになる。

D_ty

Vd_Tp+Ty

6.2 事例で確認

前例と同じ下記の条件で検討してみる。

データ集計時間;24時間で受注件数平均;N_6、分散;Vn=6
量/件の平均 Q、分散;Vq=6.25
納入リードタイム Tp=168時間(7日)一定

発注サイクルTyを3日(72時間)として、流動インベントリーの大きさSSTIを算出してみる。受注量の平均 D、その分散Vdは、

  D_600

  Vd_6375

SSTIは、安全係数を3とすれば、

   SSTI

安全係数を2.5とすれば、

   SSTI

シミュレーション結果の一例を図6-1に示す。発注量は毎回異なるが、SSTIは一定である。1000日のシミュレーション時間で欠品を起こさないSSTIは792個であった。

STIC

図6-1 STIC定期発注のSTIの推移

6.3 従来の定期発注方式とSTIC定期発注方式との比較

STIC定期発注の特徴はなにか。同じ条件で、従来の定期発注と比べてみる。従来の定期発注では、設定した発注サイクルに対して発注量は次の式で計算する。

  発注量=(納入リードタイム+発注サイクル)間の需要予測量-発注残-在庫量+安全在庫

anzenzaiko 

これをシミュレーションで確認したいのであるが、需要予測のシミュレーションはどうするか。実際の需要予測は様々な方法で行われる。市場情報、営業情報、過去のデータなどをもとに統計理論を用いるのが一般的であるが、駆け引きや関係者の心理状態なども影響する。そのような予測をシミュレーションすることは困難であるが、ここでは、(納入リードタイム+発注サイクル)間の需要量の分布からランダムに抜き取った値を需要予測量とすることにする。

発注サイクルを3日(72時間)としたときのシミュレーション結果の一例を図6-2に示す。シミュレーション時間は1000日で欠品が起きない最少在庫を0としている。

定期発注_従来

図6-2 従来の定期発注でのSTIの推移

1000日間のシミュレーションで、SSTIと最大在庫は次のようになった。
従来の定期発注; 従来SSTI 1149(個)、最大在庫 750(個)

STIC定期発注のシミュレーション結果は次のようであった。
STIC定期発注 ;SSTI 792、最大在庫 545(個)  (「6.2 事例で確認」を参照 )

従来STIは一定せず、でこぼこでしているので、その最大値を従来SSTIとすると、1149個、実在庫の最大は750個。それに対してSTIC定期発注では、SSTIは792個一定、最大実在庫は545個である。明らかにSTIC定期発注の方が在庫は少ない。

図6-3は発注サイクル(日)に対する従来SSTIとSSTIを比較したものである。円はSTIC定期発注のシミュレーション結果、直線はその計算結果である。四角は従来の定期発注のシミュレーション結果であるが、図6-2に示すように従来STIはでこぼこしているので、最大値で示している。

発注サイクル基準

図6-3 発注サイクル基準でみた従来SSTIとSTIC定期発注のSSTI

図6-4は両者の在庫の推移を示してある。図6-5は両者の在庫の分布状態を示してある。

在庫推移‗定期

図6-4 在庫の推移

在庫分布

図6-5 在庫の分布

従来の定期発注とSTIC定期発注を比較してみた。明らかにSTIC定期発注の方が有利であることが分かる。

6.4  STIC定期発注の特徴

従来の定期発注とSTIC定期発注の違いについてもう少し詳しく分析してみよう。先ず、STIC定期発注の流動インベントリーの大きさSSTIは、補充時間での最大受注量であるから、次の式で表すことができる。

   SSTI=補充時間での平均受注量+安全係数x標準偏差 

また、SSTIは流動インベントリーの定義からつぎのようになる。

   SSTI=現在在庫+現在発注残+発注量+発注待ち-------式(6-4)

発注時には発注待ちはゼロなので、式(6-4)は

   発注量=SSTI-現在在庫-現在発注残

となる。SSTIを式(6-4)で置き換えると

   発注量=補充時間での平均受注量+安全係数x標準偏差-現在在庫-現在発注残----式(6-5)

となる。一方、従来の定期発注の場合は、

   発注量=補充時間での需要予測+安全係数x標準偏差-現在在庫-現在発注残------式(6-6)

となる。式(6-5)と式(6-6)を比較すると、STIC定期発注では、「補充時間での平均受注量」であるのに対し、従来の定期発注では、「補充時間での需要予測」となる。

補充時間での需要予測で最も確率の高い値は平均値である。であるならば、従来の定期発注で需要予測の代わりに平均値を用いた場合、どうなるか。同様に、発注サイクルが3日(72時間)であれば、平均値は、

   keisanshiki

であるので、需要予測値を常に600(個)としシミュレーションしてみる。発注量は

   発注量=600+安全係数x標準偏差-現在在庫-現在発注残

となる。シミュレーション結果、従来SSTIは792(個)一定、最大在庫は545(個)となり、STIC定期発注と同じ値となった。但し、毎回の発注量は異なるため、STIの構成比率は異なる。シミュレーション結果を図6-6に示す。

STI予測を平均値にする

図6-6 発注サイクル3日(72時間)、需要予測を600個一定、従来定期発注

従来の定期発注とSTIC定期発注が、ある条件で、同じ結果になる。ある条件とは、

   需要予測値=平均受注量

である。このことから、次のことが言えるのではないか。

① 従来定期発注もSTIC定期発注も、基本的なメカニズムは同じ。
② 両者の違いは補充時間の間の受注量の設定にある。

①については、STIC定期発注は、従来と同じで特別なものではないと、解しておこう。②につては、少々熟考する必要があるかもしれない。さらに詳しくみてみよう。

従来の定期発注では、発注量を決めるときに、その都度、需要予測を行う。これは「需要分布が毎回異なる」ことを前提としている、と考えられる。一方、STIC定期発注では、「需要分布は変わらない」という前提である。

現実をみてみよう。前者の例としては、調達リードタイム(補充時間)が月単位で、需要予測は先々の生産計画で与えられるような、月次生産での資材在庫管理などが思い浮かぶ。一方、日常生活で目にする在庫管理の環境は、多頻度少量配送が主流になっている。受・発注間隔は日単位から時間単位へと、ますます短くなっている。

日単位や時間単位まで短くなった受・発注間隔の間に「需要分布が変わる」とする前提は、現実的ではないのではないか。そんな短時間に「需要分布が変わる」ことを統計学的に確認するのは至難のわざである。とすれば、「需要分布は変わらない」という前提条件の方が合理的で、広く適用できるのではないか。これがSTIC定期発注の考え方である。

もちろん、需要分布は変わる。増えたり、減ったり。バラツキが大きくなったり、小さくなったり。それを無視するわけではない。むしろ、受・発注間隔ではなく、その数十倍、数百倍の時間間隔で監視すべきではないのか。その時間間隔を「SSTI固定期間」と呼んでおく。それぐらいの時間間隔でSSTIを見直せばよい。それが1ヶ月なのか、3ヶ月なのかはケースバイケースで対応する。

SSTI固定期間内は「需要分布は変わらない」という前提ではあるが、変わることはある。これに対しては、新しい受注情報を常時監視し、設定した需要分布からはずれているかどうかを統計的に検定する機能を付加する。卑近な例では、品質管理のx_R管理図と同類の仕組みである。

STIC定期発注は、SSTI固定期間の需要分布を予測し、その間の需要予測を排除したとも解釈できる。そのことによって発注量の設定メカニズムは、至極簡単になり、またSTIが一定になるという利点が出てくる。その特性を利用して、「需要分布は変わらない」とする条件を常時チェックし、需要分布が変化したと判断されればSSTIを変更する。発注ごとの需要予測の省略によって、発注量設定のメカニズムが簡単になるばかりではなく、予測誤差によるSSTIや実在庫の不必要な増加を防いでいることにも留意しておきたい。

6.5 STIC定期発注方式のまとめ

従来の定期発注方式と比較してSTIC定期発注方式の特徴をまとめてみる。

1、 STIC定期発注は予測誤差を含まない分、従来方式に比べ流動インベントリーは小さくなる。
2、 STIC定期発注は発注サイクル間の受注量を集計して発注するのに対して、従来方式は発注毎に需要予測をし、発注残や在庫の状態を確認する必要がある。
3、 STIC定期発注方式では流動インベントリーが常に一定となり、在庫管理の基準として利用することができる。

第7章 定件発注(不定期不定量発注)

7.1 定件発注の仕組み

在庫補充の原理を模索するなかで、受注量を捉えるとき、受注件数と量/件を別々に捉える重要性を指摘した。その結果、定量でもなく、定期でもなく、受注件数を一定とする定件発注という新しい発注方法が出てくる。

予め決めておいた受注件数に達した時に、受注量を集計しその量を補充発注する。すると発注間隔は定まらず、発注量も変動する。だから、従来流の呼び方をすれば不定期不定量発注ということになる。定件発注という言葉は聞いたことがなくても、不定期不定量発注は聞き覚えがあるに違いない。

流動インベントリーの大きさSSTIは、比較的簡単に導き出せる。定件数をNcとして、平均値は Q_Nc だけ増える。分散はNcが一定であるため増加はない。但しQに関連するバラツキはNc_CqまたはQ_Nc_Cqだけ大きくなる。

     D_teiken                          式(7-1)

     Vd_teiken         式(7-2)

     SSTI                          式(7-3)

データ集計時間Tでの平均受注件数がN、 分散がVnであれば、納入リードタイムでの平均受注件数Npは、 Np、その分散Vnpは、 Vnpとなり、式(7-1)、式(7-2)は次のようになる。

D_Nc

Vd

NcはTやTpの影響を受けないことに留意したい。

7.2 巷の不定期不定量発注との比較

前述のように定件発注は不定期不定量発注でもある。巷では、不定期不定量発注に対しては、場当り的だとするものから、理想的な発注方法だとするものまで、様々な認識がある。具体的な方法もいろいろあるようだ。ここでは直近のデータで需要を計算し、それを手持ちの在庫量(発注残を含)と比較し、在庫からの供給可能時間を計算、その時間が納入リードタイムより短ければ発注、長ければ発注しない、という方法で検討してみる。発注量は、単位時間当たりの需要量の何倍か(例えば何日分とか;以降の説明では発注量日数)を予め決めておき、直近のデータで計算した需要に発注量日数を掛けて求める。具体的に、次の条件で検討してみる。

データ集計時間;4日
平均受注件数;8件、分散;8
量/件;平均5個、変動は変動係数0.25の正規分布
発注量日数;4日
平均受注量/日;直近の5日間の平均(移動平均)
納入リードタイム日数;10日
シミュレーション日数;1,000日

在庫、発注残、発注待ちを包括したもの(以下、従来STI)のシミュレーション結果の一例を図7-1に示す。でこぼこしているのが分かる。

futeiki_futeiro_jurai 

図7-1 従来の不定期不定量発注での従来STIの推移

上記と同等となるような条件で、STIC定件発注でシミュレーションをしてみる。定件数は、4(日)x3(件/日)=12(件)で、12件となる。シミュレーション結果の一例を図7-2に示す。定件発注においても、STIが一定となる特性は維持されていることが分かる。

STIC_teiken 

図7-2 STIC定件発注でのSTIの推移

図7-3に両者の在庫分布の一例を示す。

Teiken_zaiko 

図7-3 従来とSTIC発注の在庫の分布状態

表7-1に数値データを示す。

hyou7_1 

表7-1 数値データ

従来の不定期不定量発注と比べ、STIC定件発注のSTIおよび在庫は少ない。明らかに、従来の不定期不定量発注と比べて、STIC定件発注が優れていることが判る。ここでは、理想的だと喧伝されている従来の不定期不定量発注のSTIや在庫が大きくなる理由について考えてみたい。

従来の不定期不定量発注の手順を再確認してみると、次のようになる。

① 直近の5日間の平均(移動平均)で 平均受注量/日 を計算する。
② (在庫量+発注残)÷(平均受注量/日)=出荷対応日数 を計算する。
③ 出荷対応日数≦納入リードタイム であれば発注する。そうでなければ発注しない。
④ 発注量は、(平均受注量/日)×4(日) で求める。
⑤ これを出荷があるたびに行う。

需要分布の母集団は変わらないという前提でみてみる。先ず①の 平均受注量/日 は母集団の標準偏差をσとすれば、sigumaのバラツキを持つ。これは、統計論でいう第1種の過誤による誤差と考えられる。その誤差が②の出荷対応日数および③の発注日、④の発注量のバラツキを大きくする。このような誤差の伝搬、増幅の結果、流動インベントリーや在庫が大きくなるのではないか。

出荷量(受注量)に対して、どのようなタイミングでいくつ補充発注しているかをもう少し詳しくみてみよう。一例を図4に示す。黒は出荷量、水色は出荷対応日数、赤点は補充発注日と発注量を表す。

出荷対日数が10日以下になったときに補充発注していることが確認できる。気になるのは、楕円で囲んだ部分。出荷量が減少傾向にあるときに連続して補充発注している。しかも2日目は発注量が増えている。需要追従の狙いとは逆行しているようにみえる。

zu7_4 

図7-4 従来方式の出荷量、出荷対応日数、補充発注日と発注量の推移

次に、STIC定件発注の場合はどうなるかをみてみる。シミュレーション結果を図7-5に示す。出荷量は全く同じ。補充発注のタイミングの違いにお気付きだろうか。受注件数を一定(ここでは12件)にしているので、発注間隔は一定ではないし、発注量もばらつく。概ね、出荷量が増えてくると補充発注される。ここでは出荷対応日数と発注タイミングとは関係ないが、比較のために載せてある。常に10日以上ある。

zu7_5_STIC_teiken 

図7-5  STIC定件発注の出荷量、出荷対応日数、補充発注日と発注量の推移

先に、従来の不定期不定量発注のSTIが大きくなる理由は第1種の過誤によるバラツキではないか、との疑念を指摘した。それを確かめてみよう。移動平均値の代わりに、固定値を用いてみる。平均出荷量/日は、24(時間)÷12(時間)×5(個)=10(個/日) なので、常に10個/日を使ってみる。補充発注量は4日分なので、40個一定。

固定値でシミュレーションした時のSTIの推移を図7-6に、数値データを表7-2に示す。

zu7_6_koteichi 

図7-6 固定値での従来不定期不定量発注の流動インベントリー

hyo7_2 

表7-2 3方式のシミュレーション結果

固定値を使った方が、STIは小さくなり、在庫も少なくなる。第1種の過誤によるゆらぎがなくなったためと考えられる。図7-7は固定値を使った従来方式の出荷量、出荷対応日数、補充発注日と発注量の推移である。

zu7_7 

図7-7 固定値を使った従来方式の出荷量、出荷対応日数、補充発注日と発注量の推移

平均受注量に固定値を使うということは、定量発注と同じことになる。発注点は次の式で求められる。

hacyuu_jiki 

需要変動に追従させて発注間隔も発注量も最適化するとうたう巷の不定期不定量発注。結果は定量発注より劣る。正確に言えば、ここで比較した定量発注は従来の定量発注ではない。発注点を下回る分を加え修正した定量発注である。だから、修正を加えない従来の定量発注と比べれば、巷の不定期不定量発注の方が良いと主張する余地はあるのかものしれない。が、理論不在の戯言の域を出ない。

第8章 定量、定期、定件発注を比較する

STIC発注方式での定量、定期、定件発注のそれぞれについて、従来の方法との比較を交えて検討してきた。いずれの方法においてもSTIC発注方式の優位性が顕著である。次に、STIC発注方式での定量、定期、定件発注それぞれの流動インベントリーの大きさSSTIを求める近似式を比較して、その特徴をみてみる。近似式を表8-1にまとめた。

shiki_hyou 

表8-1 定量、定期、定件発注のSSTI算出近似式

納入リードタイムTpが一定で、その間の受注件数Np、量/件Qが変動するときを基本として、濃茶色で示した部分がそれぞれの発注方法で加算される部分である。定量発注ではSSTIの平均が定量発注量Ocと発注後回し端数hasu_sikiを加算した分だけ大きくなる。定量であるため分散は大きくならない。定期発注は発注サイクル間の受注件数Nyが増え、平均および分散を大きくする。定件発注では定件数Nc分、平均が大きくなるが件数のバラツキはない(Ncの分散は0)。但し、量/件QのバラツキCqの影響を受け、分散はその分大きくなる。

表8-1では省略しているが、間欠需要のときは補正値δを受注件数の分散Vnに加えことで、近似性を高めることができる。δは次の式で求める。

deruta
基本のVdは次のようになる。
Vd_hosei
詳細については、第2章を参照されたい。

変数はQ、Vq、Cq、Np、Vnp、Ty、Ny、Vy、Ncと多数あるので、全領域を詳細に表現することは簡単ではないので、主な特徴を概観してみる。

始めに、
納入リードタイム;Tp=100一定
受注件数平均;Ti
量/件平均;Q
の条件で、Ocを40~240の範囲(同等のNy、Ncは4~24)で、Ci=1、Cq=0 の場合とCi=0、Cq=1の場合のSSTIを比較した結果を図8-1と図8-2に示す。

hikaku1図8-1hikaku2図8-2

次に、Oc=120 (Ny、Ncは12)に固定してCqを0~1の範囲で振った場合、Qが10のときのSSTIを図8-3、20のときのそれを図8-4、30のときのそれを図8-5に示す。

図8-6には、発注サイクルTyを120一定とし、受注間隔Tiを2~22の範囲で振ったときのSSTIの変化を示してある。

hikaku3図8-3hikaku4図8-4

hikaku5図8-5hiaku6図8-6

定量、定期、定件の3方式の大まかな特徴をまとめると、次のようになる。

① 定件発注は大部分の条件で流動インベントリーの大きさSSTIが小さい
② 定量発注と定期発注の条件によって、SSTIの大小が異なる
③ 実用的な範囲で考えれば、定量発注の方がSSTIは小さくなるケースが多い
④ 量/件Qおよびその変動係数Cqが大きくなると定量発注のSSTIが大きくなる

定件発注がほとんどの条件でSSTIが小さいということは、不定期不定量発注が最良であることを示している。また、定量発注が定期発注よりSSTIが小さくなるケースが多いということは、定量発注は大雑把で、低価格品の在庫管理にしか使えないという説を覆すことになる。

SSTIを簡単に試算できいるテーブルを「在庫量試算」に用意してあるので、参照されたい。

第9章 納入リードタイムの変動がある場合

発注してから入庫されるまでの納入リードタイムTpが変動する場合、流動インベントリーの大きさSSTIはどのようになるであろうか。Tpは、定量、定期、定件のそれぞれに共通であるので、在庫管理の基本形で検討するのが分かりやす。受注間隔をTi、納入リードタイムTp間の受注件数をNp、量/件をQとして、受注量Dは次のようになる。

D 

ここで、TiとQのバラツキをゼロとすると、Q⁄Ti が定数となる。Tpの分散をVpとして、Dの分散Vdは分散の公式(aを定数、Xを変数、V[X]をXの分散とすると分散 )を利用して次のようになる。

Vd 

Tpの変動係数をCpで表せば、Vp  であるから、Vdは次のようになる。

Vd 

この式は、Tpが変動する場合に増加する分散を示している。Ti、Q、Tpはそれぞれ独立と考え、分散の加法性を適用して、SSTIを求めることができる。基本形のSSTIの分散Vdは、QをQに戻して、次のようになる。

Vd 

STIC定量、定期、定件発注の納入リードタイムTpが変動する場合のSSTIは表9-1に示すようになる。Tpの変動があっても、いずれもその平均は変わらない。

matome_hyo 

表9-1 納入リードタイムTpが変動する場合のSSTI

注記) 納入リードタイムTpの変動が大きくなり、変動幅が大きくなると、後から発注したものが先に入庫されることが起こり得る。現実的には、発注順通りに入庫順されることの方が一般的なので、発注順と入庫順は同一という条件で近似式を求めてある。しかし、そうするとTpと発注間隔との干渉が起き、近似式の誤差が大きくなることがある。目安として、Tpの変動係数Cpが0.3~0.4以上の領域では、そうなる場合があることに留意されたい。Tpと発注間隔の干渉がどのような影響を及ぼすかは今後の検討課題とする。

第10章 顧客リードタイムがある場合

顧客の注文を受けて在庫から直ちに出荷する、いわゆる即納を条件として在庫管理の基本的メカニズムを分析してきた。それに定期や定量、定件の条件を付加し、定期発注や定量発注、定件発注の特性を捉えた。次に顧客リードタイムがある場合、STIC発注方式はどのようになるのかを検討する。

顧客リードタイムとは本来、顧客側からみて、発注してから納入されるまでの時間であり、輸送時間なども含むが、ここでは、在庫管理側の視点で受注から出荷までの時間を指すことにする。顧客リードタイムは受注側が設定する場合、顧客側の要求がある場合、両者の話し合いで決める場合などがある。

注文を受け、顧客リードタイム後に出荷する場合、在庫補充の発注のタイミングを受注時とするか、出荷時とするか、二通りの方法が考えられる。補充発注のタイミングが早い方が、欠品のリスクが少なくなると考えられているためか、注文を受けたときに補充発注する方法で説明されることが多い。しかし、出荷した分を補充するというSTIC発注方式をベースにするならば、出荷時に補充発注する方が整合性は取れる。受注時に補充発注する方法を受注基準発注、出荷時に補充発注する方法を出荷基準発注として、両者の特徴を比較しSTIC発注方式の特性を捉えてみたい。

10.1 出荷基準発注

先ず、在庫管理の基本形をベースにして出荷基準発注から検討を進める。図10-1を参照願いたい。基本形は、受注と同時に出荷、補充発注が行われる。基本的な動きをみるために変動がないものとしてみてゆく。

顧客リードタイムがある場合は、出荷時刻より顧客リードタイム分前もって受注情報が得られる。事前に出荷予定情報が得られても、その時点で補充発注は行わない。実際に出荷した時に補充発注を行う。出荷した時に補充発注を行うということは、STIC発注方式の基本形そのままであり、何の変更もない。

変化があるのは、受注から出荷まで、受けた注文が出荷されずに受注残として保留されていることである。受注残分は補充発注されていないので、実質的な流動インベントリーSTIとはならず、受注残リストに情報が残るだけである。

kokyakuLT 

図10-1 出荷基準発注の概念

受注残リストがあることによって受注状況を早く知ることができるため、次のような利点がでてくる。
① 優先順の調整ができる
② 納期調整ができる
③ 追加発注などの手が打てる
④ 突発的受注などに対し、事前に判断、調整ができる

簡単に言えば、顧客リードタイムがあることによって、在庫管理側に調整、対策などを行う時間的余裕が生じるだけで、STIC発注方式は何の変更もなく、そのままだということである。

10.2 受注基準発注

図10-2は受注時に補充発注し、顧客リードタイム後に出荷する受注基準発注の概念を示している。ケースAは、顧客リードタイム<納入リードタイム の場合、ケースBは、 顧客リードタイム>納入リードタイム の場合である。

顧客リードタイム間、受注案件は受注残リスト上にある。と同時に、納入リードタイムの間は発注残の状態にある。ケースAでは顧客リードタイム分前もって補充発注するので、その分初期在庫が減るが、STIは変わらない。ケースBでは([顧客リードタイム]-[納入リードタイム])間の分が実在庫となり、STIを大きくする。

kokyakuLT 

図10-2 受注基準発注の概念

具体的な数値を使って考えてみたい。図10-3は、納入リードタイム100、受注間隔10、量/件1のとき(いずれも変動はない)の顧客リードタイムに対する発注残、在庫の関係を示す。初期在庫は顧客リードタイムがゼロのときは10、100のときはゼロとなるが、発注残は(納入リードタイム÷受注間隔)で決まり、顧客リードタイムに関係なく10である。顧客リードタイム>納入リードタイム の領域では初期在庫は不要(ゼロ)であるが、実在庫は顧客リードタイムに比例して大きくなる。STIも発注残に実在庫が加わり、顧客リードタイムに比例して大きくなる。

kokyakuLT 

図10-3 顧客リードタイムに対するSTI、発注残、在庫の関係

次に、各要素に下記の変動を与えて、シミュレーションを行ってみる。
納入リードタイム平均;Tp100、その変動係数;Cp=0、0.17
受注間隔平均;Ti10、その変動係数;Ci=1(指数分布)
(納入リードタイム100での平均受注件数;Np_10、その分散Vnp=10)
量/件の平均;Q1、その変動係数;Cq=0
顧客リードタイム平均;Tu200、その変動係数;Cu=0.25(正規分布)、1(指数分布)

顧客リードタイムに対して初期在庫がどのようになるか、そのシミュレーション結果の一例を図10-4に示す。初期在庫は顧客リードタイムに反比例して少なくなることは既述の通りであるが、変動が大きくなるに従って多くなり、顧客リードタイム>納入リードタイム の領域でも初期在庫が必要になる。

kokyakuLT_hendo 

図10-4 変動があるときの初期在庫の一例

図10-5はCi=1、Cp=0.17、Cu=1、Tu80でのSTIの推移の一例である。受注した時に補充発注するため、その分が発注残として加わり、且つ変動するのでSTIも変動し大きくなる。

STI 

図10-5 受注基準発注のときのSTIの一例

図10-6は変動がある場合の顧客リードタイムに対するSTIの最大値をシミュレーションで得た結果の一例である。バラツキが大きくなるとSTIの最大値も大きくなる。留意すべきことは、顧客リードタイムがゼロの時、STIは一定であるが、バラツキがある場合、STIもバラツキ、その最大値はSTIの一定値(顧客リードタイムが0のとき)より大きくなる場合が多いことである。

STI 

図10-6 受注基準発注のときの顧客リードタイムに対するSTIの関係

受注基準発注の特徴をまとめると次のようになる。
① 必要初期在庫は顧客リードタイムに逆比例して少なくなる
② STIは、発注残が加わるため、大きくなることが多く、また一定とはならない
③ 初期在庫とSTIは一致しない
④ 顧客リードタイム>納入リードタイムでは実在庫が加わり、STIが比例的に大きくなる

10.3 出荷基準発注と受注基準発注の比較

顧客リードタイムがある場合、受注と出荷のタイミングがずれる。補充発注をどちらのタイミングで行うか、その特性を調べてみた。表10-1に両者の比較の概要をまとめた。

hikaku 

表10-1 出荷基準発注と受注基準発注の比較

受注基準発注の利点は初期在庫が小さくなることであるが、STIは小さくならない。また、STIが一定とならず、変動する。ここではSTIC発注方式をベースにした受注基準発注で検討を行った。これまでの在庫管理でも受注基準発注をベースにしていることが多いようであるが、従来の発注方法で受注基準発注を行えば、発注点に関する制約や発注ごとの需要予測の影響があり、かなり複雑な動きになることも留意しておきたい。

一方、出荷基準発注は、STIが小さく、一定となり、また受注残情報を様々な管理・調整に利用できるなど実用的なメリットは多い。顧客リードタイム有り無しに関係なくSTIC発注方式共通の管理方法をとれることで管理方法が非常に簡単になる。

第11章 実在庫の分布

11.1 シミュレーションでの概要把握

流動インベントリー(STI)は在庫、注残、発注待ちを包括したものである。実際に倉庫に現物として存在するのは実在庫である。実際に在庫がどのくらいあるかは在庫管理での関心事のひとつであり、また、倉庫の必要面積を決めるためにも在庫量は知りたいものである。初めに、STIに対して、実在庫の分布がどのようになるのかの概要をシミュレーションで捉えてみる。

<シミュレーション1>

条件;
受注到着間隔(Ti)=10、その変動係数(Ci)=0.25
受注1件の受注数(Q)=12、その変動係数(Cq)=0.25
発注方式;定量、定量数(Oc)=96
納入リードタイム;50、250、350、その変動係数Cp=0

jituzaiko

図11-1 納入リードタイムを振ったときのSSTIと在庫分布

<シミュレーション2>

条件;
受注到着間隔(Ti)=10、その変動係数(Ci);0.25、0.7、1
受注1件の受注数(Q)=12、その変動係数(Cq)=0.25
発注方式;定量、定量数(Oc)=96
納入リードタイム=250、その変動係数Cp=0

jituzaiko

図11-2 受注間隔の変動係数Ciを振ったときのSSTIと在庫分布

<シミュレーション3>

条件;
受注到着間隔(Ti)=10、その変動係数(Ci)=1
受注1件の受注数(Q)=12、その変動係数(Cq)=0.25
発注方式;定期、発注サイクル(Ty)=80
納入リードタイム=250、その変動係数Cp;0、0.32、0.53

jituzaiko

図11-3 納入リードタイムの変動係数Cpを振ったときのSSTIと在庫分布

11.2 近似式はどうなるか

実在庫の分布はおおむね正規分布に近い形状である。であれば、平均値と標準偏差のα倍を加算した最大値で捉えることができる。導出過程は省略するが、流動インベントリーのメカニズムとシミュレーションデータの解析を通して、導き出した。近似式とシミュレーション結果はよく一致することを確認している。

サイクル在庫の平均は、定量、定期、定件の発注方法によって異なり次のようになる。

<サイクル在庫平均>

定量;bunpushiki

定量;jituzaiko_bunpushiki

定件;jituzaiko_bunpushiki

<在庫の分散>は次のようになる。

在庫分散=jutuzaiko_bunsan

在庫平均は安全係数をαとして、次のようになる。

jituzaiko_heikin 

在庫最大は在庫平均の2倍である。

在庫最大=2 x 在庫平均

但し、最大在庫>SSTIのときは、最大在庫=SSTI

表11-1は実在庫平均と最大を算出する近似式をまとめたものである。

jituzaiko_hyo

表11-1 実在庫算出の近似式

11.3 実在庫と流動インベントリーの関係が示す適正在庫論の危うさ

冒頭で、現在の在庫管理論は目前に存在する在庫を基準としているのではないかと指摘した。このようなアプローチを在庫基準と呼んだ。在庫基準の具体例のひとつが、巷でよく耳にする目前に存在する在庫を最適化しようとする適正在庫論だ。

欠品を防ぐためには、実際に手持ちの在庫がなくならないようにしなければならない。同時に在庫はできるだけ少ない方がいい。欠品しない最少の在庫、これが適正在庫であり、適正在庫を保持するためにはどうすればいいか、これが適正在庫論の狙いでもあろう。

適正在庫論でいう適正在庫とは目前に存在する在庫、つまり、実在庫を指しているのではないか。

だとすれば、適正在庫論には決定的な誤謬があることになる。欠品を防ぐためには、実在庫、発注残、発注待ちを包括した流動インベントリーを補充時間の長さにあわせて確保しなければならないのであって、その中の実在庫だけを対象にしたのでは欠品を防ぐことはできないのである。また、本項で示したように、実在庫は入出庫のたびに増減し、定値をとることはない。適正在庫という響きのいい言葉とは裏腹に、実態をつかむのも容易ではないのである。流動インベントリーが常時一定であり、それを管理の基準とするSTIC発注方式と比べれば、適正在庫論の的外れ具合がよくわかる。

第12章 STIC発注方式の骨格

12.1 STICの定理 まとめ

在庫管理に関する基本的な構造を分析し、そのメカニズムを調べてきた。納入リードタイムでの受注量の最大を流動インベントリーSTIとして保持しておき、受注・出荷した分を補充発注する。ここで中心的な役割を果たすのがSTIである。言い換えれば、STIの、あるいはSTIに関する特性が在庫管理の要となる。

在庫管理理論の中心的存在であるSTIに関する特性をSTICの定理(The Law of Streaming Inventory’s Characteristics)としてまとめた。

ma-ku  発注時期と発注量を決めるのは受注(需要)に基づく出荷時期・量である。(需要基準の前提条件)

ma-ku  在庫から出荷され、発注待ち→補充発注→発注残→入庫までのすべての状態にあるインベントリーを包括して流動インベントリー(STI;Streaming Inventory)とする。

ma-ku  必要な流動インベントリーの大きさ
   欠品率をある値以下にするための流動インベントリーの大きさ(SSTI;Size of STI)は納入リードタイム間での最大受注量となる。

ma-ku  納入リードタイム間での最大受注量
   納入リードタイム間での平均受注件数;Np 、その分散;Vnp、量/件の平均;Q 、 その分散Vq、受注量の平均;D 、その分散;Vd、安全係数;αのとき、 SSTIは次の式で求められる。

     D

     Vd

         間欠需要の場合は補正する。
           Vd_hosei2
                 補正値δは下記の式で算出する。
               Deruta2

     SSTI

ma-ku  初めて出荷する場合、最初に準備する初期在庫量はSSTIに等しい。

ma-ku  SSTIは常に一定である。

ma-ku  STIは納入業者-在庫管理機能-市場をつなぐインターフェースの役割を担う。

12.2 STIC発注方式 まとめ

STICの定理をベースにした発注方式をSTIC発注方式と呼ぶことにする。STICの定理と重複する部分もあるが、従来の発注方法との比較を交え、その骨子をまとめると次のようになる。

ma-ku2  補充発注方法は、受注した量を出荷するごとに、発注することを基本形とする。

ma-ku2  受注頻度が高い場合、受注量(出荷量)を一定量にまとめて補充発注する。これをSTIC定量発注という。

ma-ku2  受注頻度が高い場合、一定期間の受注量(出荷量)をまとめて発注する。これをSTIC定期発注という。

ma-ku2  受注頻度が高い場合、受注件数が一定件数に達したら、その出荷量をまとめて補充発注する。これを定件発注という。

ma-ku2  納入リードタイムが変動する場合、各発注方式、顧客リードタイムがある場合、最小発注単位がある場合のSSTIの算出方法を表12-1に示す。基本形に対して、付加条件に合わせて加算する項を濃茶色で示してある。

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表12-1 STIC発注方式のSSTI算出一覧表

ma-ku2  SSTIはSSTI固定期間ごとに見直す。

ma-ku2  常時、受注情報を監視し、需要分布が変化したかどうかを検定する仕組みを付加することができる。需要分布が変化したことが検出されれば、SSTI固定期間内でもSSTIの変更はできる。また、欠品発生確率の上昇検出機能の付加も有効である。

ma-ku2  SSTI変更後の補充発注
旧SSTIと新SSTIの差を発注時に加減する。差が大きいときは複数発注時に分けてもかまわない。

ma-ku2  SSTIが常に一定であることを利用して、注文単位ごとのインベントリーの相対位置を識別して優先順をコントロールすることができる。この機能を利用して、需要変動に自動追従する在庫管理の仕組みができる。

ma-ku2  STIC発注方式と生産ラインとを直結してS-Unit(Stock Based Control Unit)が構成され、それを連結して需要変動に追従する動的見込み生産管理の枠組みが出来上がる。

ma-ku2  STIC定量、STIC定期、STIC定件発注は、互換的に使うことができる。在庫管理環境に合わせて選択できる。

ma-ku2  顧客リードタイムがある場合も、受注残リストを追加するだけで、何の変更もなくSTIC発注方式を利用できる。受注残情報を様々な調整作業に利用できる。内示情報と実注文の乖離による混乱も防ぐことができる。

第13章 まとめ-サプライチェーンへの展開を見据えて-

在庫管理の狙いは、できるだけ欠品率を低くしつつ、在庫を最少にすることである。いきおい、目の前の在庫の多寡に関心が向く。そのようなマインドで在庫管理の理論や方法が構築されてきた。これを在庫基準と呼んだ。発注点発注方式や適正在庫論の背後にある考え方である。

在庫は「入り」と「出」の時間差の間、存在するものである。であるならば、在庫量を管理するためには「入り」と「出」を同時に、同程度のレベルで監視、管理する必要がある。「出」は市場、顧客が決めること。「入り」は納入業者に依存しなければならない。「入り」は多少コントロールできたとしても、「出」のコントロールは難しい。在庫管理がうまくいかない主な理由である。

一人で1個の弁当しか買わない客もいれば、同じ弁当を複数買う客もいる。日常、どこでも目にする光景である。1日10人の客が五月雨式に来て1個ずつ買う場合と、1人の客が一度に10個買う場合とでどちらが欠品を起こしやすいか。多くの人は経験的、直観的に後者が欠品しやすい事を言い当てる。当たり前のことだが、現在の在庫管理論は、このような経験則をうまく説明できない。需要(受注量)を正しく把握していないからだ。受注件数と量/件とを分けて捉えなければならない。受注件数と量/件は商取引では必須の項目である。データをとる手間が増えるわけではないのだ

視点を換えなければならない。在庫基準から需要基準へ。需要基準でみれば、在庫そのものだけではなく、在庫-発注待ち-発注残の状態にあるインベントリーすべてが重要な役割を果たしていることが分かる。これが流動インベントリーSTIだ。STIは納入業者-在庫管理者―市場をつなぎ、市場の需要変動に追従する仕組みの要である。

要であるSTIの特性をSTICの定理としてまとめた。変動する需要に追従する在庫管理は、STICの定理をベースにしたSTIC発注方式がコアとなっている

STIという枠を設定しておくことで、出荷した分を補充発注するという極めて単純な発注方法が成立する。出て行った分を補充する。これを超える理はあるだろうか? 出荷した分を一定量でまとめれば定量発注、一定の時間サイクルでまとめれば定期発注、一定受注件数でまとめれば定件発注となる。定件発注は発注時間間隔も発注量も定まらない、いわゆる、不定期不定量発注となる。この3つの発注方法は、どのような在庫環境でも成り立つ。基本原理が共通だからだ。とは言っても、定量、定期、定件にまつわる違いはある。どれを選択するかは、それぞれの事情、環境条件に合わせればよい。

「場当り的だ」、いや「理想的だ」と、不定期不定量発注に対する認識の乱れはなぜ起きるか。大量生産の進展に沿い形成された現在の在庫理論が、理論足りえない証である。注文の到着間隔のバラツキを一定件数で置き換えれば、STIに変動要因を与えることなく、注文を処理することができる。需要の時間変動に追従するメカニズムだ、と考えてよい。定件発注は、巷の不定期不定量発注の不毛な議論に終止符を打つことになる。

これまでの在庫管理では定量発注だ、定期発注だと事細かに論じるが、定量受注とか定期受注という言葉は聞いたことがない。サプライチェーンとは発注側があれば受注側もある、在庫管理ユニットの連鎖である。在庫管理ユニットは受注と補充発注、両方の機能を対に持つ。現在の在庫理論の対称性に対する無関心さは、不正確な受注量把握に由来することは明らかだ。物理現象は対称性があればあるほど、普遍性の高い現象であることは周知の通り。対称性を回復するメリットは大きい。

対称性が回復すると、発注側と受注側の関係にも留意する必要があることに気か付く。客先が定量発注しているのか、定期発注しているのか、はたまた、定件発注しているのか、あるいは、それらが入り乱れているのか。発注方式はひとつの規則であるとみれば、その規則を利用することによって、サプライチェーンの機能を高めることができるのではないか。これまでは、そんな議論も話題に上らなかった。

人口に膾炙するかんばん方式。かんばん方式はトヨタ生産方式の一部だ、という人が多い。平準化とバラツキの極小化が絶対条件だと、何度も聞いた。かんばん方式がうまくいかないのは平準化ができていないからだ、バラツキが大きいからだ、と。市場の変動の煽りをまともに受ける一般の在庫管理の領域では、かんばん方式は解決策とは考えられていない理由はこの辺にある。

かんばん方式は、いたって単純な方法でものを動かす。使った分、かんばんが外れ、供給先に送られる。1枚のかんばんが何個かは予め決めてある。供給先は戻されたかんばんと一緒に、その数量を送り届ける。かんばん1枚が注文1件。かんばん1枚当たりの数量が量/件。

STIC発注方式と似ていることにお気づきだろうか。かんばんはSTIC発注方式のSTIと同じである。かんばん方式ではかんばん1枚当たりの数量は固定されているが、STIC発注方式ではランダムにバラツク事を許容している。平準化ができていないとかんばん方式は成り立たない、というのはトヨタ生産方式の信奉者、いや、妄信者の主張であって、適正なSTIを確保すれば、つまり、適正なかんばん枚数と1枚当たりの数量を設定すれば、うまくいく。STIC発注方式はそれを証明しているのである。

サプライチェーンの末端(小売店側)は即納が多いが、中間(B to Bなど)では、顧客リードタイム(発注から納入までの時間)がある場合が多い。出荷時刻よりも前もって注文を受け取るので、その間いろいろな調整ができる。長い方が受注側にとってはありがたい。但し、コンペチタ―もいるのでむやみに長くはできない。顧客によって顧客リードタイムがバラツクこともある。

顧客リードタイムがある場合、注文を受け取った時点で補充発注すのが一般的な常識だ。納入リードタイムの不確実性をカバーするためには、できるだけ早く補充発注した方がいい。巷の在庫管理本はすべて、この常識に則って説明されている。しかし、もともと出荷基準であるSTIC発注方式では、注文を受け取ったときではなく、出荷した時に補充発注する。顧客リードタイムがあっても、出荷基準のままでいい。顧客リードタイムがある場合もない場合も、全く変わらないのである。せっかくの事前情報だから、それを利用しない手はない。受注残リストとして集計しておけば、先々の出荷予定表として使える。欠品が起こりそうかも予知できる。出荷日程の調整などもできる。

見込生産では、倉庫の在庫管理は生産ラインに付け足された程度の、付属的存在である。しかし、実際は、きちんとした在庫管理の枠組みの中で生産ラインを動かさないとうまくいかない。生産ラインには生産ライン特有の性質がある。負荷が高くなると生産リードタイムが急激に長くなるのだ。生産能力を有効に利用するためには、急ぎの製品を優先してつくる優先順制御が欠かせない。作業員や機械設備、部品納入、品質、などなど、変動要因は数え切れないほどある。様々な変動を定量的に扱うことができるSTIC発注方式は、このような扱いにくい生産ラインも管理の中に取り込むことができる。生産ラインの機能とSTIC発注方式とを組み合わせてS-Unit(Stock Based Control Unit)ができる。S-Unitを繋ぎ合わせれば動的生産管理(DPM;Dynamic Production Management)が機能する見込生産の仕組みとなる。

量産工場の多くは生産計画を作り、見込生産をしながら、顧客の注文に応じて出荷をする。即納を条件とした注文もあるが、多くはある程度の時間的猶予、つまり顧客リードタイムがある。生産計画と実際の注文は一致しない。顧客リードタイムは生産リードタイムより短いことが多く、その間に計画と実際の注文の乖離を修正することは容易なことではない。東奔西走し、優先順を調整する。そのことがさらなる混乱を引き起こす。実態と生産計画はますます乖離し、混乱は工場全体に広がる。それだけでは済まない。上流、下流へとサプライチェーンを伝搬し、制御不能な領域へと拡散する。

内示情報に反応して、右往左往する必要はない。出荷予定日が来たら確定注文に応じて出荷し、補充生産すればいい。すぐに変更になる生産計画など、不要である。確度の高い出荷予定(受注残リスト)がそれに代わるのだ。生産ラインがサプライチェーンに、その原理を共有してつながるのである。

在庫管理のメカニズムを物理現象としてより正しく捉えなおすことで、整合性のとれた汎用性の高い在庫管理理論を構築することができた。従来からくすぶり続けている疑問の多くは解消されるに違いない。さらには、数々の実用的なメリットも実感できるはずだ。STICの定理に基づくSTIC発注方式が在庫管理、さらにはサプライチェーンの普遍的なメカニズムとなり、広く利用されることを願ってやまない。