PAGE TOP

No.38 調達リードタイムの変動が受注数量のバラツキに及ぼす影響

在庫管理の話をしております。これまでの話を簡単にレビューしてみます。

~~~~~~~~~~~~~~
在庫管理は、発注点や適正在庫とかではなく、変動する需要を基準とする必要がある。そのためには需要をもっと正確につかまなければならない。 需要は受注間隔と1件当りの受注数量(以下数量/件)で捉える。だが、受注間隔はわかりにくいので、ある時間(1日とか1週間とか、以下集計時間)での受注件数で把握する。 集計時間Tg、その間の受注件数の平均を Ng 、その分散をVng、数量/件の平均を Q 、その分散をVqとして、受注数量の平均 Dg 、その分散Vdgは次の式で表される。

Dg

Vdg

出荷した分を補充発注し、入庫されるまでの時間を補充時間と呼ぶ。在庫管理では、補充時間の間の受注数量が、保持しなければならない在庫数量を決める最も重要な項目のひとつである。補充時間をTrとすると、その間の受注数量の平均 Dr 、分散Vdrは次のようになる。

Dr

Vdr

~~~~~~~~~~~~

このように、受注数量を受注件数と数量/件に分けて捉えることで、より正確な需要の把握ができるようになります。定期不定量発注や定量不定期発注の得失などもよりきめ細かく検討できることを、前回と前々回にお話しました。

今回は、補充時間が変動する場合はどうなるか、を考えてみたいと思います。補充時間は調達リードタイム(納入リードタイム、納期などと同意)が主なものですが、納期遵守率が常に100%なんていうことはまれで、従って、補充時間は普通、ばらつきます。

補充時間が変動した場合、その間の受注数量はどのようになるか。実は、これって、在庫、生産管理関連の本に書いてはあるんですが、イマイチ納得できないんです。

ということもあって、私流に考えてみることにします。またまた、受注数量分散式を引っ張り出します。集計時間Tgを補充時間Trに代えて、次のように表しておきます。

Vdr

補充時間が変動するということですが、平均値は変わらずに、変動要素が加わるという条件で考えてみます。ですから、受注数量の平均は Drで、補充時間に変動があっても変わりません。影響があるのは受注数量の分散Vdrです。

ではどのような影響があるのか、考えてみましょう。図1をご覧ください。受注件数Nrは補充時間の間に来る注文の件数ですが、受注間隔が変化しても、補充時間が変化しても影響を受けます。しかし、注文ごとの受注数量(数量/件)はそのままです。

補充時間が変化した場合の受注数量のバラツキについて、巷の本の説明がイマイチ納得できない理由は、受注数量を受注件数と数量/件とに分けていないからではないかと思います。補充時間の変動は受注件数には影響を及ぼしますが、数量/件には及ぼしませんので、受注件数と数量/件を分けて受注数量の分散を捉えておかないと、不正確になるわけです。

受注数量の分散を受注間隔の変動による分散Vn(ti)と補充時間の変動による分散Vn(tr)に分けることができます。両者は互いに独立と考えられますので、分散の加法性から、受注数量の分散Vnrは次のように表すことができます。

Vnr=Vn(ti)+Vn(tr)

Ti_

図1 受注間隔と補充時間と受注件数との関係

受注数量分散式は次のようになります。

Vdr

bunsanは補充時間が変動しないときの受注数量の分散ですので、補充時間の変動により、受注数量の分散は   bunsanだけ増えることになります。

このままではよくわかりませんね。Vn(tr)っていうのは、なんなんでしょう?Vn(tr)をもう少しわかりやすい項目に置き換えてみましょう。例えば、補充時間のデータは具体的に採れますよね。そのバラツキ具合のデータも採れるんじゃないでしょうか。入手可能なデータでVn(tr)を表現してみます。

難解な数学の世界に迷い込むと大変ですので、ここではシミュレーションを利用することにします。受注数量Qと受注間隔Tiの変動要因をなくして、補充時間と受注件数の関係を見えやすくするため、次のような条件を設定します。

数量/件Q=1、その変動係数Cq=0
受注間隔Ti=10、その変動係数Cti=0
平均補充時間 Ti=20、30、40、50、
補充時間の変動係数Ctr=1、0.7、0.5、0.25

シミュレーション結果を図2~4に示します。図2は補充時間Trと受注件数Ntrとの関係を示しています。式で表すと次のようになります。

Ntr

これは図1をみても明らかですが、確認の意味で採ったデータです。

Ntr

図2 補充時間と受注件数の関係

図3は補充時間の変動係数Ctrと受注件数の分散Vn(tr)との関係を示しています。Vn(tr)はCtrの自乗に比例していることがわかります。

Ctr_Vntr

図3 補充時間の変動係数と受注件数の分散との関係

図4は受注件数の平均 Ntrとその分散Vn(tr)の関係を示しています。この図からVn(tr)は Ntrの自乗に比例していることがわかります。従って、Vn(tr)は次の式で表すことができます。

Vtnr

Ntr_Vntr

図4 受注件数の平均と受注件数の分散の関係

従いまして、補充時間の変動により受注数量の分散が増える分は次のようになります。

Bunsan

受注数量分散式のまとめ

受注数量分散式は次のようになります。

bunsan_shiki

bunsan_shiki

第1項は受注間隔の変動による受注数量の分散、第2項は数量/件の変動による受注数量の分散です。第3項は補充時間(調達リードタイムなど)の変動によって加算される受注数量の分散です。

受注数量を受注件数と数量/件に分けて捉えることで、補充時間の変動による影響をより正確につかむことができます。また、その他の様々なバラツキ要因、例えば、受注間隔のバラツキ、検収・入庫作業時間のバラツキなどの影響も簡単に計算することができるようになります。

まだあります。受注生産しているときに、競争優位を保つためにできるだけ短い納期を設定しますよね。例えば、通常ですと1ヶ月の生産リードタイムが必要なところを2週間の納期(顧客リードタイム)で受注するとか、です。外からは受注生産のようにみえますが、実際は注文確定前に生産を開始し、在庫を転がしながらの見込み生産を行っているわけです。よくある生産形態ですね。このようなときの在庫管理の仕組みを設計するときも受注件数と数量/件を分けて考えないとうまくいきません。