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No.35 集計時間での受注数量、補充時間での受注数量

生産管理が生産者(工場)基準から市場(需要)基準に移ってきたように、在庫管理も適正在庫や発注点などという内部の基準ではなく、需要を基準としなければならない、と申し上げております。

需要は常に変動し、予測し難い。そんなものが基準になりうるのか。当然の批判に真正面から応えなければなりません。そのためには、需要についてもっと理解を深める必要があります。

ということで、前回まで需要について調べてきたわけです。在庫管理の視点からより具体的に需要を捉えるため、ある出荷ユニット(小売店、工場、倉庫など)の受注数量をみてきました。つまり、需要基準を受注数量基準と読み替えて、検討してまいりました。

管理の基準にしようとしている受注数量の平均と分散は、前回お話しましたが、次の式で表すことができます。

集計期間Tg間の受注件数の平均を Ng、分散をVng、
数量/件の平均を Q、分散をVq、
受注数量の平均 Dgおよび分散Vdgは、

Dg

Vdg

これらの式で捉える受注数量の分布にはどのような性質があるのか、これまでとどこが違うのか、同じなのか、などについてみていきたいと思います。

在庫管理で重要なことのひとつは、いつ、どれだけ発注するかという補充方法ですが、これについては後で触れます。ここでは、補充時間の間の受注数量に注目してみます。

補充時間は、主に納入リードタイムと発注間隔で構成されていますが、納入リードタイムは納入業者によって異なりますし、発注間隔も受注数量や発注業務などの影響を受けます。もちろん、受注数量のデータを集計するときに、補充時間で集計する方法も考えられますが、製品によっても、あるいは同じ製品でも納入業者によって異なる補充時間でデータ集計するのは煩雑になります。

通常、受注数量を捉えるときに日常の管理に都合がよい集計時間を設定します。例えば、1日間とか、1週間とかです。その間の受注数量を集計します。都合の良い時間間隔で集計した方がやりやすいわけです。

求めるのは補充時間での受注数量ですので、集計時間での受注数量がわかっているとき、補充時間での受注数量を導き出す方法を検討してみましょう。

初めに受注件数の平均をみてみます。集計時間Tgでの受注件数の平均 Ngは、受注間隔の平均を Tiとすれば、次のようになります。(Tgは一定とします)

shiki

補充時間をTr、受注間隔の平均を Tiとすれば、補充時間での受注件数の平均 Nrは次のようになります。(Trは一定とします)

shiki

従って、補充時間での受注数量の平均 は次のようになります。

shiki

このように、非常に単純な式で求めることができます。

では、分散はどうでしょうか。ちょっと、ややこしそうですね。受注数量分散式を再掲します。

shiki

NgNrとの関係は、先に確認してありますので、第二項は問題ありません。第一項に注目してみます。集計時間Tgが補充時間Trになっても数量/件Qは変わりません。集計時間Tgのときの受注件数の分散Vngと補充時間Trのときの受注件数の分散Vnrとの関係はどうなっているかを知りたいわけです。

シミュレーションで確かめてみたいと思います。受注間隔Tiの変動係数をCiとします。変動係数Ciは受注間隔の標準偏差をSiとすれば 変動係数です。図1はCiを1、0.7、0.5、0.25と振ったときの受注件数とその分散との関係を示しています。受注件数とその分散は比例関係にあることがわかります。

N_Vn

図1 受注件数とその分散との関係

図2は受注件数が1、5、10のときの受注間隔の変動係数と受注件数の分散との関係を示しています。受注件数の分散は変動係数の自乗に比例していることがわかります。

Ci_Vn

図2 受注間隔の変動係数と受注件数の分散との関係

この二つのシミュレーション結果から、次の関係が導き出されます。

shiki

この式は、シミュレーションから導き出したものなので近似式としておきます。

補充時間Trでの受注件数の分散Vnrは次のようになります。

shiki

補充時間Trでの受注数量の分散Vdrは次のようになります。

shiki

こちらもまた簡単な式になりました。

まとめますと、
集計時間Tgのときの受注数量の平均を Dg、その分散をVdgとして、補充時間Trのときの受注数量の平均 Drとその分散Vdrはつぎのようになります。

Dr                Vdr

都合の良い時間(集計時間)で集計した受注数量のデータから、補充時間での受注数量を簡単に求めることができます。集計時間での受注数量の標準偏差をSg、補充時間での受注数量の標準偏差をSrとすれば、

Sr_shiki

となります。表現は多少違いますが、在庫管理の本に出てくる安全在庫を求めるときの式と基本的に同じです。