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No.32 受注間隔と受注件数の関係はどうなるか?

在庫管理は適正在庫とか発注点という基準ではなく、需要を基準とすることですごく簡単になる、と申し上げました。とらえどころのない需要を基準とすることで在庫管理がより簡単になるというと、いささか、まゆつばものに聞こえる方も多いのではないかと思います。

在庫管理に携わる多くの方々が経験されることは、「思うようにならない」ということではないでしょうか。

「欠品しそうなので多めに発注したが、売れ行きが悪く、死蔵在庫になってしまった」
「納期が1ヶ月もかかるのに、『明日使うので今日中に揃えておいてくれ』と製造は言う」
「在庫があるのになぜ出荷できないんだ?」、、、、、、

予測という不確定要因が入り込み、それぞれの立場、思惑で動きまわる人間が介在するとこうなってしまうんですね。しかし、在庫管理の基本メカニズムは、物理現象であることに着目すると、少し、いやかなりかな、違った在庫管理の方向性がみえてきます。

ということで、在庫管理のメカニズムを物理現象として捉えてみようとしているわけです。最初の課題はランダムに変動する需要をどう捉えるか。で、前回はランダムに舞い込む注文とある時間(期間)での受注件数の関係について調べてみました。良く知られているのは、ランダムに来る注文間隔のバラツキを指数分布とすると、受注件数はポアッソン分布に従う、といことです。

しかし、実際、受注間隔が常に指数分布するかというと、そうとも言い切れません。コンビニの来客数をみても、朝、昼、晩、あるいは日曜、月曜などある規則性もあります。受注間隔が指数分布に従わない場合、受注件数はどのような分布になるのか、について考えてみたいと思います。

受注間隔が指数分布の場合、受注件数がポアッソン分布するという関係は数式モデルで表すことができます。では、受注間隔が指数分布以外の分布のときも、それを既知の数式モデルで捉えることはできるんでしょうか。正規分布、アーラン分布、ベータ分布、、、と数式モデルで表される分布もたくさんあります。データを採って、似たような分布形状の分布を使えばいいんじゃないのかなーと思ったりして、、、

既知の分布を適用するのであれば、検定をして確認するのが正攻法でしょうね。でも、これって大変ですよ。運よく当てはまる分布がみつかればいいのですが、みつからなかったらどうしますか? みつからないことのほうが多いかもね、、。

受注件数の分布を知るためには、その元である受注間隔の分布を知る必要がある、という発想で考えてみましたが、受注間隔の分布を捕まえるところで、壁にぶつかってしまいました。となれば、別なルートを探すしかありません。

数式モデルがダメならシミュレーションではどうか? シミュレーションならいろいろな受注間隔の分布を合成できて、また集計期間の受注件数も比較的簡単にカウントできるんじゃないかな、と。

ということで、シミュレーションで様々な受注間隔の分布で受注件数の分布がどうなるか試してみました。案ずるより生むが安し。意外にもわかりやすい結果が出ました。ここでは、代表的な受注間隔の分布、3つの結果を紹介します。一つ目は、指数分布です。指数分布については、ポアッソン分布することがわかっていますが、シミュレーションでも同じような結果が出るのか、確認の意味も含めて。

二つ目はアーラン分布という分布です。同一の指数分布に従うk個の確率変数の和の分布です。試したのはk=2のアーラン分布。分布形状は図2の左側の真ん中にあるような形です。待ち行列理論で良く出てくる分布です。三つ目は一様分布。これはみての通りの分布形状です。この三つの分布はお互い似ているとはいえないと思います。

受注間隔の平均 はどれも10(時間の単位は分でも、時間でも、日でもかまいません)、集計時間Tgを10、20、30、、、と振ってみました。Ti、Tg、受注件数Nの関係を図1に示します。また、Ti、Tg、Nの間には次の関係があります。

 N・・・・・(Nは受注件数Nの平均)

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Ti_Tg_N

図1 受注間隔、集計時間、受注件数の関係

図2に示すような結果が得られました。図をみてわかるように、受注間隔の3つの分布は似ておりませんが、受注件数の分布はどれも良く似ています。 が5~6以上では受注件数の分布は正規分布に近づくことも特徴のひとつと言えます。

この現象は、多くの場合、母集団(この場合、受注間隔の分布)がどんな分布であっても、それから無作為に抜き取られたサンプルの平均は、サンプルサイズを大きくしたとき近似的に正規分布に従う、とする中心極限定理で説明できるのではないかと思います。

受注間隔の分布を気にしなくていい。そして受注件数の分布が正規分布として扱える。これは便利ですね。とは言え、まだ心配事はあります。そのひとつは、Nが5~6以上は正規分布に近似しますが、それ未満は正規分布として扱うことができないことです。図をみてもわかるように、左右対称でありません。これをどのように扱うか。二つ目は、一つ目の心配事に関連するのですが、Nが1とか2では、Nがゼロの確率が結構高いことです。言い方を替えると、注文がある日もあればない日もあるという間欠的な受注パターンです。このような間欠的受注をどのように扱うか、です。三つ目は、受注件数の分布は、受注件数が整数ですから、離散型の分布です。一方、正規分布は連続型分布です。離散型分布を連続型分布で置き換えてもいいのかどうか。

変換

図2 受注間隔の分布と受注件数の分布

逃げ道的解決策はあります。Nが5~6以上になる条件にする、という方法。具体的には集計時間を延ばせばいいわけです。例えば集計時間が1日で、受注件数の平均が2件だとすると、5日に1日ぐらいは注文がこない日があるわけですが、集計期間が5日であれば受注件数の平均は10件となり、注文がゼロの日はほとんどなくなります。しかも、分布は正規分布に近づきます。これで一つ目と二つ目の心配事は回避されます。

逃げ道的解決策はひとつの考え方ですので、実用上問題がなければ利用してかまわないと思います。しかし、ここでは正攻法の解決策をも示す必要があるのではないかと考えています。

次回は三つの心配事について真正面から、じっくり考えてみます。