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No.25 疑問多き在庫理論を憂う

生産ラインの特性を物理的に捉えなおし、それをベースに需要変動に追従する受注生産の仕組みを概観してきました。まだまだ触れていない課題は多々ありますが、 応用編的なところもありますので、後回しにしたいと思います。

次に、見込み生産環境での動的生産管理の仕組みに話を移したいと思います。この話題に入る前に触れておいた方が、というか、 触れておかなければならない課題があります。それは、在庫管理です。

見込み生産は、生産機能と在庫管理機能が直結したもの、と見ることができます。実は、現在の在庫理論のままでは、 生産ラインとの結合がうまくいかないところがあります。「どこがうまくいかないの?」という質問にここで応えようとすると、 動的見込生産の仕組みについての説明をすることになり、いきなり中心課題に入ってしまいそうです。かえってわかりにくくなりますので、 見込み生産で重要な2つの機能の内、初めに在庫管理についてお話をする、ということをご理解ください。

かねがね感じていたんですが、在庫管理には納得できないところがいくつかあります。適正在庫だ、安全在庫だ、経済的発注量だと本にはいろいろ書いてあるんですが、 どうもスッキリしない。究極は不定期不定量発注だ、と主張する本も複数あります。不定期不定量という言葉のイメージが悪いので、適時適量発注なんて、 言い直している本もあるようですが、、。

いつ、いくつ発注するか決まってないから、不定期不定量発注って言うのかなと思いきや、いろいろ方法があって、 時期と数量を決めているようです。そりゃーそうですようね。いつ、いくつ発注するか決まっていなかったら、でたらめ発注ということになりますから。 でも、その決め方ってそんなんでいいのかな?って思います。不定期不定量発注が理想だとの主張と私の認識には埋めきれないギャップがあるんですよ。

間欠需要っていうのも、わかりませんね。「出荷がゼロであった日のデータをカウントしない」っていうんですけど、ほんとにこれでいいの?と。出荷がゼロというのは、 永久にゼロではなくて、確率的にたまたまゼロであった、ということじゃないですかね。それを省いちゃったら、データの改ざんになりませんか。

これは美学の問題かもしれません。不定期定量発注方式には発注点なるのもが付き物ですね。だから発注点方式と。これって、少々じゃまくさい。 なぜかというと、発注間隔は納入リーダタイムより短くできないんですよ。つまり、発注点を割り込んだときに発注し、納入リードタイム後に入庫されて、 在庫が発注点より高くなるわけでしょ。その後じゃないと発注はできないわけだから、納入リードタイム<発注間隔 という条件になるわけ。 不定期といっても条件付だ、ということ。これがひっかかる。

なぜかというと、定期不定量発注では仕組み上、そのようなことはない。つまり、不定期定量発注と定期不定量発注との対象性がない。これが、美しくないんだな。

まだありますよ。定期発注とか定量発注というのは発注側がいうことですよ。それを受け取る側はどうなるんでしょう。 定期不定量受注とか不定期定量受注なんてことは聞いたことがありません。受け手はそんなの関係ないのかな?

受け手は受注数量を問題にしています。受注数量は受注件数と注文1件当りの受注数量を掛け合わせたもの。例えば、 ある期間の受注件数が10件で、1件当りの受注数量がすべて15ならば受注数量は150。これに変動が加わると、受注先が定期不定量発注をしていれば件数は一定で、 1件当りの受注数量が変動する。受注先が不定期定量発注していれば1件当りの受注数量は一定で受注件数が変動する、ということですよ。受注数量が同じなら、 件数が変動しても、1件当りの受注数量が変動してもおなじなんですかね。今の在庫管理論は区別していませんので、同じだ、といっているのだと思いますが、、。 これも納得しかねるんです。

いちゃもんを付けるわけではありませんが、「適正在庫」というのにも違和感があるんですよ。適正、ってどういうことか。わかんないんです。 ある本に「過剰在庫でも過少在庫でもない在庫」なんて書いてありました。これなら少しは許せるかな。でも気休め程度。

在庫って、出と入りの差と考えると、在庫レベルが適正だと考えるときは何らかの基準があるのではないか。出のトリガーはランダムに舞い込む注文、 入りは発注手配しての補充。出てゆく方も入る方も主に外部の管理下。在庫管理担当者のコントロールはほとんど利かない。 それなのに在庫レベルを適正レベルに維持するのが在庫管理の要だというわけです。2つの不確定要因をどのようにしてコントロールするんでしょうね。

原価計算が生産管理に及ぼす悪影響については、良く知られるようになってきました。原価計算の弊害は在庫管理にもあります。有名なのはEOQ(経済的発注量)。 1回当りの発注費や1個の年間保管費用で、費用が最低となる発注量を算出します。最近はあまり使われていないようですね。実用に合わなくなってきたんだと思います。

しかし、その他にも、金額換算する例はたくさんあるようです。
・ 在庫滞留期間の金利
・ 工程内仕掛の金額換算(仕掛評価額)
・ 納期遅延のペナルティー
・ キャンセル費用
・ 仕掛・在庫廃棄費用
・ 輸送費、、、

金額は経済的価値で物理量ではありません。この2つをごちゃ混ぜで使うと、原価計算の弊害と同じような弊害が出てきます。 在庫管理に関する論文は、この2つを混ぜている例が多いように思います。机上の論文は難しい方が良いんで、この手の問題は学者に任せておけばいいんじゃないかと思います。

とはいっても。金額で評価しなければならないときがありますよね。金額換算は最後に行えばいいと思います。最後というのは、 金額換算した後は物理量と混ぜて計算しない、という意味です。

生産ラインの仕掛、半完成品在庫、完成在庫の管理についてはどうでしょうか。在庫管理の本をみても、詳しくは書いていないようなんです。 生産管理の本に書いてあるのかなと思いきや、そこにもあまりない。どこを見ればいいの?

在庫管理でも疑わしきことが多々あるわけですから、生産ライン内やそれに直結した半製品在庫、完成品在庫の在庫管理については、 良くわかっていないのではないか、ということですかね。自分で考えろ、ということか、、。

在庫管理について、つらつら、思いを綴ってきました。要するに、在庫管理とは、疑義多き発展途上の管理領域である、ということではないでしょうか。 これだけ情報処理技術が発達し、サプライチェーンのシステム化が進歩したにもかかわらず、在庫管理技術はあまりにも貧弱ではないか。

巷の在庫管理の本を開けば、定期、不定期、定量、不定量の常套語、そしてのこぎりの歯のようなグラフがページを埋めています。 岩盤のごとく定着している現在庫管理を支えるパラダイムそのものが、在庫管理の論理的発展を阻害しているのではないか、と疑いたくなるわけです。だとすれば、 その岩盤を穿ち、現在庫理論を粉砕し、論理的再構成を試みるしかないのか、、。

ことは、それほど深刻ではないと思うんですよ。在庫理論とは、実は比較的簡単な領域です。難しくしていた要因は金額を絡めた問題の把握方法にあったんじゃないかな。 金額を抜きにすれば、出と入りがあるだけのいたってシンプルなシステムですよ。生産ラインのそれと比べたら、月とすっぽん。かんたん、かんたん!