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No.2 Lean、シックス・シグマ、SCM・・・欠けているものは?

トヨタ生産方式(TPS)とドラム・バッファー・ロープ(DBR)と比べると、ザックリと言えば、両者の前提条件はおおよそ180度違っているということだろうと思います。 でも、目的は同じです。これって、違和感ありますよ。そんな思いが募って、たどり着いた結論らしきものは、
「生産管理の基本理論がない」 のではないか、ということでした。で、TPSもDBRも一気通貫生産方式もセル生産も、受注生産も見込み生産も、全~部をカバーする生産理論を探しも求めて、、、。

幸いにも、同じような思いを持っていた人は私だけではありませんでした。ミシガン大学のWallace J. Hoppもその一人です。彼の主張はFACTORY PHYSICS(Wallace J.Hopp and Mark C.Spearman著, Waveland Press, Inc.)という本にまとめられています。少し、本書の一部の引用を交えて、紹介しましょう。

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歴史を振り返ると、Manufacturing Management(工場管理と訳しておきます)は3つのトレンドでみることができる。一つ目は効率重視、二つ目は品質重視、 三つ目は統合重視である。効率重視は1970年代に出てきたトヨタ生産方式(TPS)に代表され、JITとかLeanとも呼ばれる。改善の特徴は数学やコンピュータモデルではなく ベンチマークや模倣による可視的管理に重点が置かれている。

品質重視は1930年代、Shewhartの統計的品質管理に始まり、1950~80年にはJuranやDemmingによって広められた。米国ではあまり注目を集めなかったが、 JITの流れに乗りTQMとして波に乗る。が、余りにも普及しすぎたためか、1990年代には下火になる。その後、入れ替わるようにシックス・シグマとしてよみがえる。 シックス・シグマはバラツキの特定と逓減に注目して、品質を全体効率という大きな枠組みの中で捉えることに特徴がある。

統合重視はコンピュータが発達してきた1960年代に始まる。1970年代にはAPICSの支援を受けながらMRPが出てくる。JITに関心を奪われた時期もあった 1990年代にはERPとして企業全体を視野に入れるようになる。そしてさらにSCMへと統合が進むのである。

Lean、シックス・シグマ、SCMのそれぞれの特徴は、

Lean;顧客重視、一個原価にはこだわらず、ムダを見つけ、それを取り除いて生産環境を改善するように動機付けする。

シックス・シグマ;企業の全層を対象に改善方法を提供する。改善の成果を上げることは簡単なことではなく、成功のためには高度な知識体系が必要であると説く。 そのための体系的な教育プログラムを提供する。

SCM;企業経営での意思決定に必要な情報を提供する

この3つは、それぞれ個別に製造、建設、医療やサービスなどの分野で生産性改善策として販売された。互いに、過剰な販売競争を繰り広げた結果、成果というよりは、 中身のないキャッチフレーズだけが目立つようになる。誇大宣伝への堕落は、工場管理が抱える問題が満足できるレベルまで解決されない証のひとつであり、 有用なアイディアが広まることの障害ともなりうる。

危機の原因をたどれば、“工場管理の科学的枠組みの欠如”という問題にたどり着く。いくつか例を挙げてみよう。
1、 生産性改善の問題を共通に認識する定義がない
2、 競合する方針を評価する共通の基準がない
3、 生産性評価項目と経済性評価項目の間の関係がほとんど理解されていない
4、 生産性評価項目がお互いにどのように関係しているか、ほとんど理解されていない

つまり、コンセプトや方法、戦略における良し悪しを判断する仕組みがないのである。さらに言えば、垣根が低いためか、“これこれの方法がどこどこの企業でうまくいった” などの宣伝文句に頼らざるを得ない、レベルの低いコンサルタントであふれかえるのを助長する。その結果、企業は模倣と誇大宣伝文句によるマネジメントに堕してしまうのである。

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いかがでしょうか?同意しますか?イマイチ、ピンときませんか?

何を持って生産性が高いというのでしょうか。
* 時間当たりの生産数量が多いこと?
* 生産リードタイムが短いこと?
* 仕掛が少ないこと?
* ムダがないこと?
* 自動化が進んでいること?
* 納期遵守率が高いこと?
* 欠品がないこと?
* 生産計画通りつくること?
生産性に対して共通の認識がなければ、生産性を改善する方針だってまちまちになりますよね。

こんな問いに答えられますか?
・時間当たり生産数量を10%上げました。利益はどうなりますか?
・生産リードタイムを30%短縮しました。利益はどうなりますか?
・工程仕掛を半減しました。利益はどうなりますか?
・・・・・・
こんなのは、どうでしょう?
・時間当たり生産数量を10%上げました。そのとき生産リードタイムと工程仕掛はどうなりますか?
・生産リードタイムを30%短縮しました。そのとき時間当たり生産数量と工程仕掛はどうなりますか?
・工程仕掛を半減しました。そのとき時間当たり生産数量と生産リードタイムはどうなりますか?

これらの問いはすべて基本中の基本。このような質問に答えられなくて、生産性の改善なんてできるわけがありません。 もしもあなたが生産性改善の仕事をされているんでしたら、真剣に考えるべきだと思います。もしもあなたがJIT(TPS、Lean、、 )を導入していて、好ましい結果が出ないようでしたら、真剣に考えるべきだと思いますよ。もしもあなたが工場の管理者でしたら、 もっと真剣に考えるべきだと思いますよ。もしもあなたが生産性改善のコンサルタントをしているんでしたら、もっともっと真剣に考えるべきだと思いますよ 。もしもあなたが生産性改善のためにソフト・ウエアを導入しようとしているのであれば、一度立ち止まって、真剣に考えるべきだと思いますよ。 もしもあなたが生産性改善用ソフトを販売しているのであれば、心に手を当てて、真剣に考えるべきだと思いますよ。

科学の進歩は、目を見張るものがあります。それを支えているのは物理学であり、工学(機械工学、電気工学、、、)です。その上で 、自動車が設計され、テレビが作られ、スマートフォーンがあるわけです。

それらの工業製品を作り出す生産工場をみれば、物理学的工学的枠組みがない、というのは、どういうことなんでしょうか。基礎がないところで、Leanだの、 シックス・シグマだのSCMだの、といっても、よい結果が出るわけはない。すごく当たり前の話だと思うのですが、そう考えるのはまだまだ少数派なんです。

日本は、かつては製造業のリーダーでした。その後の失われた20年。その間、日本の製造業は何をしていたんでしょうか? Leanもシックス・シグマもSCMも部分の改善策ではあっても、 根本的な解決策にはなりえない、ということにも気づかずに、延々と昔取った杵柄を後生大事にしているときではない、と思いませんか?