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No.19 生産現場が抱える問題の本質

変動がある場合、生産ラインの特性はどうなるか。それをFITチャートやTIPチャートでみてみました。生産率は低下し、 フロータイムは長くなります。変動は、現場ではバラツキ、ムリ、ムラ、ムダなどと呼ばれるものと同じようなもの。だから、そういうものは排除しなきゃいけない、ということですね。

ところが、そう簡単に排除することはできません。工程改善の主要テーマの一つがこのバラツキの縮小です。これをやっても意味がないよ、 と言っているわけではありません。このような工程改善は続けなきゃいけませんが、ここで言いたいのは、バラツキがゼロになることはない、ということです。 需要の変動は市場で起きていることです。企業側で打てる手はほとんどありません。新製品の導入。これなくして企業の存続はありません。でも、 これもバラツキの発生源。なくなるどころか、バラツキはどんどん大きくなるんじゃないですかね。

だから、変動は受け入れなきゃいけない。変動ありきを前提にする必要がある。そう覚悟を決めたら、次は、 変動がある生産ラインの特性を理解するというステップに進むことができます。

変動があるとWIPに対する生産率が湾曲してきて判りづらいので、生産率を基準にWIPとフロータイムを見てみましょう。生産率は稼働率と同じで、 稼働率を設定するために投入負荷でコントロールすることにします。ここでは生産率イコール投入負荷と考えていただいていいと思います。 投入負荷は生産能力に対する比率で示します。

図1にその一例を示します。ご覧のように負荷が高くなると急激にWIPが増加しフロータイムが長くなります。FITチャートで見ると、 生産率のカーブがなだらかなところで生産率が高くなるとWIPとフロータイムは大幅に増加することになります。

FT_WIP

図1 投入負荷(生産率)を基準にしたWIPとフロータイム

図2は投入負荷が90%と60%のときのTIPチャートを示します。投入負荷が高いとフロータイムが長くなることがわかります。

TIPチャート

図2 投入負荷90%と60%でのTIPチャート

生産管理ではできるだけ稼働率を上げようとします。現状の稼働率が70%程度なら80%、いや、もっとだ!90%だ、となりますね。 稼働率がこの領域に入るとWIPは急増し、フロータイムも急激に長くなりだすんです。納期に間に合わなくなることが多くなるってことですね。

約束した納期通りに製品を納入しなければ売上になりませんので、ビジネス的な生産性とはフロータイムを加味した生産率で考えなければならないと言うことになります。 その一例として、あるフロータイム以内で完成する数量と投入負荷との関係をみるといいと思います。

図3に示すのは、フロータイムが200、300、400、600分以内での完成数と投入負荷の関係です。稼働率が高い領域ではフロータイムが短くなると完成数が減ってくることになります。 つまり、稼働率を上げると完成数が減ってくる、って言う関係にある。これは多くの人の常識、「稼働率を上げると完成数は増える」というのとは逆。 これも生産現場を混乱させる要因の一つになっていると思いますよ。

FT_FUKA

図3 投入負荷に対するフロータイム以内での完成数

個々に挙げた3つの図は、生産管理が抱える慢性的な問題の本質を捉えているように思います。

「生産性を上げろ」――稼働率を上げろ
「仕掛を減らせ」――仕掛・在庫は諸悪の根源だ
「生産リードタイムを短縮せよ」――短納期受注、納期遵守率向上を実現せよ
耳だこ、ですかね。このような言葉は。

納期の未達が多くなると、こんな会話聞いたことありませんか?
「間に合わないなら、早く投入しろ」
で、早く投入すると、投入負荷が高くなりWIPが増えますね。そしてフロータイムも長くなります。その結果、納期未達がますます増える。

こんな話も良く聞きます。
「仕掛削減だ!」
で、投入を抑えます。すると投入負荷が低下しますので稼働率が下がります。その結果完成数が減ってしまいます。今度は
「生産性向上だ」と、、、

工場長「注文が増えているのに売上が増えてないね」
生産管理者「出荷数も増えてません、、、」
現場監督者「残業、休日出勤、外注への振り替え、、、打てる手はすべて打っています」
経理担当「利益は、、速報値ですが、、ほとんど増えていません」
工場長「どうなってるんだ、いったい」

みなさんも同じような問題を経験されているんじゃないかと思います。生産管理、生産現場で抱えている問題、特に慢性的な問題をこの3つの図で考えてみてください。 問題の理解に大いに役立つと思います。