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No.13 生産ラインの基本特性を捉える

三角

トヨタ生産方式も一気通貫生産方式もS-DBRも、その他の生産方式も、それぞれを支える生産理論は条件付きの部分的整合性を主張しているのであって、 生産ラインの一般的特性をサポートする生産理論にはなっていない。現実の生産現場は特定の生産方式が要求する条件を満たさない場合が圧倒的に多く、 且つ、包括的に大部分の生産環境を支える生産理論がなければ、現状を正しく認識し、課題を共有することもできず、結果、生産現場は、立場、 立場の主張をぶつけ合うだけの不合理、非論理的な言動が跋扈する場と化す。

前回、少々、肩に力が入り過ぎた感はありましたが、そんな言葉で結びました。もう少しひらたく言い換えれば、生産計画はころころ変わり、 平準化もできなくて、ラインバランスもでこぼこで、、そして、ボトルネックが複数、あちこち動き回るような生産環境を支える生産理論はどこにあるのか。 これがあれば、様々な生産方式を論理的に把握し、生産環境に合う生産方式を選択することができるし、あるいは、 特定の生産方式にこだわることなく生産理論を基に独自の生産方法を編み出すこともできるのではないか、と。

で、生産ラインの基本特性を説明しているものはどこかにないものか。そっちこっち探してみましたが、どれも部分的な解説で、 しっくりいくものはみつかりませんでした。であれば、自分で考えるしかありません。

先ず、二つの言葉を手がかりに。
1、 そもそも、生産ラインとは?
2、 その基本特性とは?

この二つの問いは、互いに関連していますので、同時並行的に考えなければならないように思います。あまり難しく考えないで、常識的にいきましょう。

生産ラインのもっとも基本的な機能は「ものを生産すること」。そのための必須の条件は、
*材料(部品)があること
*処理工程があること

処理工程がつながったものが生産ラインというイメージですね。そこに材料が投入され、処理されて最終工程から完成品が出てくる。 処理工程は直列、並列、繰り返しなど様々ですが、ここでは大雑把に直列につながっているとみておきましょう。処理工程を構成するのは機械や作業員。 これについてもブラックボックス的にみておきます。確認しておきたいのは処理能力には限界があるということですかね。

処理能力に限界があれば、「ものを生産する」能力にも限界があります。限界能力を一般的には1時間に何個とか、1日に何台とかで表現します。 これが基本特性のひとつになります。生産率と呼んでおきます。能力に関する特性は生産率だけでしょうか。もうひとつ重要な要素があります。それは、 材料を投入してから完成するまでの時間です。これをフロータイムと呼んでおきます。似たような言葉に生産リードタイムがありますが、 これは事務作業など様々な時間を含む場合が多いと思います。ここでは純粋にライン投入から完成までの時間をフロータイムと呼んで区別しておきます。

工場では生産性改善だ、リードタイム短縮だといって騒いでいます。これに当たるのが生産率とフロータイム。その他に改善テーマでよくあるのが仕掛削減っていうやつです。 仕掛は生産率およびフロータイムとどのような関係にあるんでしょうね。関係あるのかないのかも、定かではない? 関係がまったくないのであれば、 仕掛は基本特性から外してもいいんですが、、、。

ちょっと、考えてみましょう。仕掛を減らすとどうなりますか? そうですね。手空きが出て、その結果生産率が落ちます。仕掛が増えるとどうなりますか?  工程間の待ち時間が長くなり、その結果フロータイムが長くなります。仕掛は生産率やフロータイムと密接な関係があることがわかります。

品質についてはどのように考えればいいでしょうか。生産では品質は非常に重要です。先に挙げた3つ(生産率、フロータイム、工程仕掛)よりも重要です。 簡単にいえば、不良品を作っても、ものをつくったことにならないわけですから、要求品質が維持されていることは絶対的な前提条件である、と言えます。

ということで、生産ラインの基本特性は生産率、フロータイム、工程仕掛の3つの要素で捉えることができる、と考えておきます。その他にもあるかもしれませんが、 気がついたらそこで考え直すことにしましょう。

生産ラインを管理する立場からすると、生産率はできるだけ高く、フロータイムはできるだけ短く、工程仕掛はできるだけ少なくしたいわけです。 生産率を高くするとフロータイムと工程仕掛はどうなるのか、フロータイムを短くすると生産率と工程仕掛はどうなるのか、工程仕掛を減らせば生産率とフロータイムはどうなるのか、 これらの関係を定性的且つ定量的に捉えておかなければ生産ラインを最適領域で稼動することはできない、ということになります。

さて、生産ラインの特性を生産率、フロータイム、工程仕掛の3項目で捉え、3項目間の関係を定性的且つ定量的に捉えるにはどうするか。これが課題です。

このテーマは、簡単なようですが、実はすごく難しいんですよ。難しくしている最大の要因が変動なんです。需要は変動する、処理能力も変動する、製品ミックスも変動する、 材料も質、量とも変動する、、、。何もかもが変動する。生産ラインは複数の工程がありますから、前の工程の変動は後ろの工程に影響を与え、それがさらに次工程に、、 という連鎖が起きます。それがいたる所で起きる。それらの連鎖を全部追跡することは、直感的には、無理でしょうね。

無数といっていいくらいの様々な要因が生産率、フロータイム、工程仕掛に影響を及ぼします。それらの要因は独立で根無し草的に漂うものもあれば、 不特定多数の要因間で何らかの影響を及ぼしあうものもあり、どの因果がどのような振る舞いをするのかも定かではありません。同時に生産率、フロータイム、 工程仕掛の3つの要素が三つ巴で影響を及ぼしあう。混沌というか、カオスというか、複雑系というか、、、手に負えません。

トヨタ生産方式は、生産計画を固定して、もろもろの変動を少なくする。それによって、複雑な生産ラインを管理可能な状態にして、生産率、フロータイム、 工程仕掛の妥協点を高い位置で維持しようとしている、と解釈することができます。S-DBRはボトルネック工程を固定して生産ラインを単純化し、 管理をしやすくしているとみることができるんじゃないかと思います。

複雑な振る舞いをする生産ラインを管理可能な状態にするために、何かを固定して簡単にするというアプローチをとっていることがわかります。 生産計画やボトルネックを固定するという条件に合う生産環境はいいのですが、そうではない生産環境ではトヨタ生産方式やS-DBRといった既製服は着こなせないわけです。

ではこの複雑怪奇な生産ラインをどのような方法で管理すればいいのでしょうか。先人の知恵に習えば、何かを固定しなければならないのかもしれません。 何を固定すればいいのか。そのことで適用範囲を狭めては元も子もない。

常道を行きましょう。複雑系生産ラインの包括的な管理方法を見つけるためには、生産ラインの基本特性をきちんと理解し、 複雑さの中にある基本的なメカニズムを理解することが必要なんだと思います。生産率、フロータイム、工程仕掛の3つの要素で捉えた生産ラインの基本特性とは、、、。